12. ぼくの追想(2)

 ぼくは、マヌールを愛している……愛し続けているし、彼女が死んだなどということは考えたくない。


 きっと、マヌールはこの「」のどこかにいる。だからぼくは、フレアに協力する。彼女の仮説が正しければ、ぼくはまたマヌールに出会うことができるだろう。正しくなくても、きっと、マヌールと同じ場所に行くための、死の門の前へと落ちることができるだろう。どちらにしろ、ぼくはマヌールと再会する可能性を持っている。


 もしマヌールに出会えたとしても、彼女はきっと、ぼくのことをゆるさないだろうし、口も聞かずに去って行くかもしれない。そのときのために、一通の手紙を書きたい。この三通の手紙と、けっきょく彼女に渡すことのなかった手紙。この四通を燃やす。そして、新しい手紙を書く。


 いまぼくの手持ちにあるすべての言葉で、比喩で、技法で――いや、技法なんていらない。比喩なんてごまかしを使わず、率直な言葉で書く。そして明日、ぼくは、一度目の幸福な「死」を体験する。

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