04. 監視・検閲

 フレア・ルングマンの監視をすることも、ぼくの役割だった。


 彼女はずっと官憲の監視の下に置かれていて、怪しい動きがあれば拘束し尋問することになっていた。

 ぼくは、彼女の言動を常に手帳に記録していた。たまに、好きなひとのことを追いかけているストーカーのような気分になることもあった。

 いままで彼女に恋してきた人たちより、ぼくの方がずっと、彼女のことを知っていることだろう。


 ぼくの手帳には、彼女の一日の行動が書き記されている。折角だから、ほんの少しだけ写し取ってみよう。清書をしているうちに、新しい発見があるかもしれない。


 12月12日 8:21 外出

 晴、無風

 濃紺のインナー、水色の羽織、淡い青色のスカート

(あの赤色の眼と反対色だ……と考えると、不思議とよい気分になる。正反対ほど、調和のとれたものはない)

 茶色の手提てさげに昨日にはない膨らみがある、検閲が必要になるかもしれない

 会うひとたちに、朗らかに挨拶をすることもある

 周りはよそよそしいけれども…………


 8:36 乗車駅

 二等客車に乗車、吊革につかまる、荷棚に手提げを置く

 ぼくは、ラムと別れ、ひとり行動


 9:04 降車駅

 シャルロッテと合流

 フレア、駅舎から真っ直ぐ大学へ

 大学で、ファイオルと合流

 気温、28度に上昇(フレア外出時は24度)

 フレア、校門前で羽織を脱ぐ


 9:24 大学、フレアの研究室前

 検閲

 所持品のチェック、押収物なし

 膨らみは、研究書、5冊、内容に問題なし

 

 フレアは、授業がはじまるため、これ以上の尋問は、後にしてほしいとのこと

 検閲をしてからというもの、フレアは、威丈高いたけだかな態度を取り続ける

 シャルロッテが憤慨ふんがいし、口論になる

 他の研究者と事務員たちが騒ぎをききつけ、われわれを取り巻き威嚇

 一時撤退


 9:50 3号棟2階(321教室) 授業: 哲学史


 授業がはじまる

 シャルロッテ、ファイオル、自分、講義室の後ろに座り、ボイスレコーダーで録音を開始


(ぼくは、監視されていることをものともせず、堂々とふるまう彼女の姿にほれぼれしてしまう。もしこの大学に入っていたとしたら?――などと考えてしまう。なぜぼくは、彼女をこうして束縛しなければならないのか。仕事上、仕方のないことと割り切れないときが、日に何度もある……)


(フレアは、ぼくたちが授業を録音していると知っているのだろう。生徒の声がレコーダーに入らないように、質疑応答を受けつけず、一方的に、哲学史を教えている。シャルロッテは机に両足を乗せて、横柄な態度をして、あくびをしたり目を閉じたりしている。さきほどの件に腹を立てているのかもしれない)


 10:14 授業開始から24分

 授業中止、フレアを拘束、危険思想を学生に吹聴ふいちょうした容疑

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