03. ルゾム族の起源と神話
「ルゾム族の起源と神話」
フレア・ルングマン 責任執筆
改めて言うまでもないけれど、ルゾム族とクイン族というふたつの民族が、この国にいることは確かだ。わたしはそれを、この国の歴史における指導者や研究者の「言説」に根拠を求めよう。そして、我々が抱えている未解決問題を解きほぐすヒントを提示したいと思う。
先代の君主ラゾルトによると、四十年前の戦争は民族間の衝突ではなく、反政府勢力との闘いだったという。しかし、戦後間もなく、ラゾルトは次のような演説をしたと、ジャーナリストのワンビンが、その著作『ラゾルト伝』において記している。
「ルゾム族とクイン族による戦争は終結した。これからは単一の国民として共存共栄をしなければならぬ」
この言葉から分かることは、二つの民族がいる(た)ということを君主ラゾルト自身が認めていることだ。
そしてワンビンの記述を見る限り、「民族紛争」の再燃を避ける必要があるために、「国民化」を志すのだと表明したと言っていい。
ラゾルトによる「国民化」計画が推進されていくなかで、人類学者の多くが投獄され、研究成果が
このこともワンビンが記録している。この突然のアカデミーへの介入は、おそらく不都合な事実、もしくは「国民化」を阻害しかねない証拠を
この推測が陰謀論ではないことは、1560年代以降、「
ここでいう「原初説」というのは、ルゾム族の起源はこの国の外にあるという仮説のことである。これに対する反論は「
しかしそれは、なんの反論にもなっていない。
第一に、ルゾム族とクイン族という名称の起源を説明できていない。第二に、なぜふたつの「民族」が別々の生活圏に居住していたのかについて答えていない。そして、戦前、多くの人類学者がフィールドワークから明らかにした、「ルゾム」と「クイン」というのは「言語体系が異なるかもしれない」という研究成果を無視している。
そもそも「構築説」は戦後に突如と現れた学説であり、君主ラゾルトには都合のいい理論を提供してくれている。「構築説」には有力な反論がないと「操作」していると考えたところで無理はなかろう。「原初説」がアカデミーから排除され、「構築説」だけが生き残っているのは、あまりに不自然であるし、定説になるには根拠が弱すぎる。
* * *
さて、このノートの読者であるあなたは、なぜここで切り抜きが裁断されているのか不思議に思うかもしれない。フレアが提示すると宣言した「未解決問題を解きほぐすヒント」の部分を、なぜ切り取っているのかと。
実は、ぼくがあえて切り抜いたのだ。それはぼくが官憲だからではない。
ぼくはもしかしたら、実験に失敗して死んでしまうかもしれない。だからその前に、夢をひとつ叶えてみたいと思う。
ぼくは小説家になりたかった。いや、それは正確ではない。ぼくは、作家として生きていきたかった。小説を書くし、詩も作る、戯曲にも手を伸ばす……しかしそんな
だからこの機会に、ちょっと気の利いた構成で文章を作ってみたいと考えたのだ。
この論説の続きに書かれている彼女の「ヒント」は、これから先、この文章を読み進めてもらえれば、お分かりになることだと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます