第15話 復元



▼20XX年12月10日 地球深部マントル研究所



「なんだ……この数値は?」


岡田は、モニターに表示された数値を見て驚いていた。


日本では平均で一日数回の有感地震が起きている。そして地震の際に発生するP波とS波は、屈折の関係で一定の角度でシャドーゾーン地震波の計測不能帯を形成する。このシャドーゾーンを分析することで外核の状態を観測することができる。さらに、地球深部ダイナミクス研究センターの観測データを加えて、岡田の研究所では外核の動きを調べていた。


そして、一年以上、動きが見られなかった外核に、動きが見られ始めていた。液体である外核部分の厚さに変化が現れたのだ。


油が水に浮くように、軽い物質は上、重い物質は下になるのは地球の核も同様だ。外核部分の厚さが急に変化し始めたことは、核の密度に変化が生じ始めたことを示唆している。


各観測データは、全てがリアルタイムではないが、それでも数日内の動きを現わしている。外核、そして内核の密度が変化し始めているなら……それは、地球の磁気圏にも変化が生じている可能性がある。


岡田は、受話器を取り上げると、香織の事務所に電話をかけた。



『はい。地震雲予知研究所です』


「香織か?」


『信一郎?どうしたの突然?』


「外核に動きが見られ始めている。地磁気の様子に変化はないか?」


『え?ちょ、ちょっと待って、すぐに確認するから……』


挨拶もそこそこに、いきなり本題に入った岡田の言葉に戸惑いを見せながら、香織は、電話をいったん保留に切り替えた。岡田は、待っている間に、受話器を耳で支えて、流れてくるアメリカ民謡の有名な保留音を聞きながらパソコンを操作する。


モニターに表示されているシャドーゾーンの解析結果は、今まで見たことがない。外核の厚さが、場所によって異なる――いわば、ほぼ球状であるはずの外核が歪んだような状態だ。もちろん、その歪みはわずかなものだが、数値に現れるぐらいの大きさはある。


果たして、この歪みが意味するところは……


『わかったわ。これかしら……両極点の地磁気が、そうね10%ほど減少しているわ』


「北極と南極か……同じぐらいの変動幅が見られたのは、いつ以来かわかるか?」


『えっと……私が持つデータでは、この変動幅は初めてかも。近いのは5年前、3%の変動が数日続いているわ。でも、これは太陽フレアのせいね。最近、大規模な太陽フレアってあったかしら……』


「いや。ここ3か月内ではなかったはずだ」


『それと、一週間前ぐらいから、北米、ユーラシア大陸中央、インドの地磁気が、少しだけれど戻っているわ。これは、核実験の影響のように思うけれど……』


コバルト60が植物の新種アルカロイドの生成を止めることはすでに公表されており、野外での人工的なコバルト生成のための核実験を実施することは、その実験が持つ意味合いを含めて詳しく説明されていた。


もちろん、一部の環境活動家を中心に、猛烈な抗議活動が行われ、さらには暴動などの実力行使も見られた。しかし、一般市民がそれに追随することはなく、自然と下火になっていた。


食糧の配給制は、ほぼ世界中に広がっている。多くの人々は「カウントダウン」が始まったことを理解していた。そのカウントダウンが、人類を対象に行われていることも……


そして、数日後にはLBWW作戦が開始される。


北緯70度から南緯70度までの範囲で50か所の陸地と40か所の海上でコントロールされた核爆発が実施される。核爆発は、出力が0.5キロトン未満のみが使われ、除染作業後の立ち入り禁止期間は、陸上の場合、爆心地から3キロ圏内で10年の予定だ。


さらに約10,000か所の陸地ではコバルト60が散布されることになっている。散布されるコバルト60は、医療用の放射線源がかき集められた。総放射能は100ペタベクレル内に抑えられている。計算上は、配布地点から500メートル圏外であればコバルト60を放射線源とした被曝量は年間1ミリシーベルト未満に収まる。日本人が自然界から受ける年間被曝量は約2ミリシーベルトと言われており、十分に許容範囲内と考えてよいだろう。


これまでの実験の結果、核爆発の場合で爆心地から100キロ圏内、コバルト60の散布で散布地から30キロ圏内で植物の新種アルカロイド生成が止まることが確認されている。そのため、この作戦により、赤道を中心に南北70度の範囲の約50%以上の陸地で、植物を食用として利用が可能になると考えられていた。海で魚が戻ってくるのは、さすがに年単位の時間が必要になるが……


同時に、北半球ではこれから冬を迎える。平野部を中心にビニールハウスの設置も急ピッチで進められていた。


これらの対策が全て上手く嚙み合った場合、来年6月には、市場への食糧の供給割合が50%まで回復、配給制を維持する必要はあるものの――配給制が世界に広がったことで、飢餓の地域が大きく減少したのは皮肉だったが――、餓死の危険は世界中でほぼ解消されると考えられていた。


もっとも、放射線障害のリスクは計算上は10%程度上昇する見込みだったが……


『今度の核を使用する作戦が実施されれば、地磁気は復元するかもしれないわね。もちろん復元――地磁気の問題が解消されることで受ける影響はわらかないけれど……』


地磁気の異常状態が復元されることが、今、プラスに働くのかどうかは分からない。ただ、植物の新種アルカロイドの生成は、地磁気が減少した地域から始まっている。おそらく、さっき確認した地磁気への影響は、核爆発による電磁パルスと何か関連しているのだと思う。地磁気の値が正常値に近づくことで、相乗的な効果で植物に対してプラスの影響が見込めると良いのだが……


「核爆発程度のエネルギーで磁場に影響を与えることは可能なのかな?」


『残念だけれど、大気圏内核実験が最後に行われたのはかなり前だわ。えっと……1980年ね。地下核実験も1996年が最後だわ。私の手元には、核実験による地磁気への影響について実測データはないわね』


香織が今の研究所を立ち上げたのは2008年、そして本格的な活動は東日本大震災以降である2011年からだ。2000年より前の観測データは持っていない。もちろん、世界の研究機関に依頼すれば、どこかで手に入るかもしれないが……


『でも太陽フレアで引き起こされる電磁パルスは地磁気に影響を与えることは何度も確認されているし、核爆発による高高度電磁パルスHEMPの経済的な損失と復旧期間は、強力な太陽フレアに近いという試算もあるようだから……地磁気に数値の変化をもたらしても不思議ではないと思うのだけれど……』


なるほど……


岡田は、香織の考え方が、あながち間違ってはいないように思えた。ただ、もし核爆発による地磁気への影響が実際にあるのなら、今回の外核の変化による地磁気への影響が、どのような干渉を与えることになるのか……一抹の不安がよぎる。


この前、香織とのミーティングの後、岡田は「ポールシフト」の現状をいろいろと調べていた。


ポールシフトとは、天体の自転に伴い「自転軸」そして「磁極」のいずれかが、何らかの要因によって移動することを示す。


2004年に発生したスマトラ島沖地震では、最大2センチほど自転軸が移動したとされるが、これは「自転軸」のポールシフト(極運動)にあたる。これに対して、地軸を固定したままN極とS極が反転する現象、これは「磁極」のポールシフト(極移動)だ。


いずれの「ポールシフト」も、その痕跡と考えられるものは見つかっているが、なぜそれが引き起こされたのかは、まだ解明されていない。一般の人が目にする「ポールシフト」の現象とは、疑似科学、オカルト、あるいは空想の世界の話であって、自然科学と認められていない。


ただ、どういった現象か、どういった原因かは別にして磁極の場所が変化した痕跡があることは事実だ。


今後、外核、そして内核の状況がどのように変化していくのか……


そして、もしその変化が経験したことがない「ポールシフト」につながるとしたならば……


おそらく、植物が新種のアルカロイド生成を行って、人類に滅びをもたらそうとしているのとは別の「滅び」を心配する必要が出てくるだろう。それは、そのポールシフトが自転軸なのか磁極なのかは問わないはずだ。


『……信一郎?』


香織の声に、信一郎は我に返った。思考の中に沈み込んでいたようだ。


「ああ……すまない。少し考え事をしていたんだ。あとで、ここ数日の――いや、念のため一年ほどの外核の動きと関連するデータを送っておくから、精査してもらえるか?」


『わかったわ。私の方も、地磁気のデータを送るわね』


「頼む……そういえば、地磁気の変動から植物の新種アルカロイド生成が始まったんだよな?」


『まだ、はっきりしたことは分からないけど、数値だけ見ると、そうなるわね』


「ということは、仮に外核運動の変化に合わせて、地磁気の数値に変動があれば、植物の動きも変わってくるんじゃないか?もしかすると、アルカロイドの生成を止めて元に戻る可能性はどうだろう?」


香織が考え込む様子が岡田に伝わってきた。


『……そうね。その可能性はあるのかも。オリビアさんからの情報だと、コバルト60とか放射性物質を吸収したことで新種アルカロイドの生成が止まった、という話だったけれど、同じように地磁気からの影響もあるといいのだけれど……あ!』


「どうした?」


『地磁気の変動があった場合、放射性物質を吸収して新種アルカロイドの生成を止めた植物が、再びその生成を始める、ということも考えられるんじゃないかしら?』


香織の考えはもっともだった。地磁気の影響が見られたとしても、それは必ずしも良い方向とは限らない。


「……そうだな。だが、今さらLBWW作戦を止めるわけにはいかないだろう。いずれにしても、少し様子を見るしかないな……」


『そうね。一応、オリビアさんには、地磁気のことはすぐに伝えておくわね』


「ああ。そうしてくれ。じゃあ、また連絡する」


受話器の向こうから聞こえてきた「またね」という香織の声に、ふと近いうちに会いに行ってみようかと思いながら受話器を置いた岡田は、自分は香織のような霊感はなかったはずだけどな……と思いつつ、何か閃きのようなものを感じていた。


おそらくだが……地磁気の動きが、大きな何かに繋がっていくような予感が。




◆◇◆◇



20XX年12月13日。異例の早さで準備が進められたLBWW作戦は、実施の日を迎えた。


当初、予定された地域から、天候が荒れている場所を除いた95%の地域で、順次、キノコ雲が立ち上がった。同時に、コバルト60の散布も実施され――世界中が放射能に汚染された。


もちろん、その汚染はコントロールされており、年間被曝量も許容範囲内ではあったが、汚染された事実に変わりはない。また、軽微な被曝が健康被害を一切出さない、ということではない。一定の犠牲は、今後、人類が抱え込まねばならぬ贖罪となるだろう。


だが……多くの人が「パンドラの箱」を開けたことを嘆き、同時に箱の底に残されているはずの「希望」が飛び出すことを深く祈っていた。




▼20XX年12月18日 アメリカ海洋大気庁、海洋漁業局



海洋漁業局内の会議室は静かだった。


室内には、局長のロバートとオリビア女史が向かい合って座っている。二人は黙したまま、報告を待っていた。すでに、会議室に入ってから一時間以上は経っただろう。その報告は遅れているようだ。


「……ボブ?」


「なんだね、リビア?」


顔を上げずにオリビアがかけた声に、ロバートは静かに答えた。


「先週、ウエストウイングホワイトハウスでホゼ教授が言ってたじゃない?今起きている出来事は、植物が何かの意図を持って能動的に起こしている行動だって」


オブザーバーとしてあの場にいたロバートは、ホゼ教授の言葉を覚えていた。


「ああ……確かにそんなことを言っていたな」


「私も藻類の専門家だからわかるのだけれど……植物学者は公式には植物が意識を持つことを認めることはない。でも、研究の中で、意識を持つとしか思えない現象は、たびたび目にするわ」


顔を上げたオリビアにロバートは小さく頷いた。


「だから、ホゼ教授の言う『植物が何らかの意図を持って起こした行動』というのは、なぜかしっくりくるのよ」


「しっくりくる?」


「ええ。人類を――地球上の生命体を滅ぼすかのような植物の行動は、植物自身の意思で行われている、ってね。とても論文にはできないけれど……」


そしてオリビアはかすかに微笑んだ。


「だから、あれからずっと考えているわ。もし植物自身の意思で行われていると仮定した場合、なぜ植物は人類を滅ぼそうとしたのか、そしてそれは『誰の命令』なのかなって……」


「『誰の命令』か……」


オリビアの言葉に、ロバートはしばしの間、考えた。


「まあ、もし誰かの命令だとするならば、それは地球の意思、神の意志、というのが無難な答えなんじゃないか?」


「突拍子もないけれど、私もそう考えたわ。思い返せば、人類が地球に対して行ってきたことは搾取ばかり……地球という星を食い尽くす寄生虫として、もし人類よりも高位の存在がいるならば排除しようとしても不思議じゃない」


「そうだな……」


ロバートはオリビアの言葉を噛み締めた。環境破壊は、もう言うまでもない。地球を擬人化して考えれば、その「体」を「資源」と称して、回復・治癒のことは考えずに、傷つけ、そして貪りつくそうとしている。


自分の部屋に住み着いた虫がいたとする。その虫が益虫で、害虫を退治してくれて、さらに部屋を汚さないならば、虫を気にしない人は共存を許すだろう。だが、その虫が部屋の中の食物を勝手に食べ、後始末もせずに汚しまくる、そんな虫ならば、よほどの虫好きの人でも追い出そうとするはずだ。


これまでの人類の行動を考えれば――間違いなく人類は地球に嫌われている。


「ということは、植物は地球の代弁者、ということか……」


「まあ、仮の話よ。証明もできないし……」


「しかし、もしそれが一縷いちるでも『真実』を含んでいた場合、なぜ植物は新種のアルカロイドの生成を止めたのだろう?」


ロバートの言葉に、今度はオリビアが考え込んだ。


確かに、植物が今回の「事件」を引き起こした実行犯ならば、事件を始めるにも止めるにも、必ず理由があるはずだ。植物は、新種アルカロイドを生成することで、人類だけでなく地球上の動物全ての生殺与奪せいさつよだつの権を事実上、握っていた。


だが……今、その権を手放そうとしている。新種アルカロイドの代わりに新たに生成を始めた未知の有機化合物は、今のところ、食べても問題ないことは確認されている。解決すべき問題が、植物を可食できなくなった、とするならその問題はすでに解消に向かっていると考えても良いだろう。


果たして、引き起こすに至った「目的」を植物は達成したのだろうか?……もし、達成したとするならその目的は何だったのか?


「……警告、かしら?」


「人類への?……確かに、それだと頷けるな」


オリビアの呟きに、ロバートも同意した。


だが、警告ならば人類がその意図を正しく受け取らなければ意味がない。そして、植物との意思疎通など考えていない人類が、「警告」と認めることはないだろう。いや、「警告」と考える人は一定数はいるだろうが、その警告に従って、何かを改善するという行動を取ることはない。真の意味で「地球に配慮した生活」は「人類に配慮しない生活」に等しい。その選択肢を為政者がとるとは考えられない。


では、警告でないとしたら……


!!!!!!


突然、あることがオリビアの頭の中に浮かんだ。そして背筋が寒くなる。


「もしかして……これから、ってこと?」


「え?……なんだって!?」


オリビアが言いたいことを察したロバートは驚きの表情を見せた。


そう。もし植物が能動的に、過去に知られていない有機化合物を次々と作り出しているとするなら……まだ「事件」は途中経過の段階で、これからが本番なのかもしれない。


もちろん、新種アルカロイドの生成も、未知の有機化合物への切り替えも、その全てを受動的に植物が行っているのであれば、この思考は全くの的外れだろう。


だが……


逆に植物が能動的に行動しているとするならば、「事件」は解決に向かっているのではない。次のステージにステップアップしているのではないだろうか……



その時――



会議室のドアが勢いよく開くと、ペーパーを握りしめた局員が駆け込んできた。


「出ました。結果が出ました!」


事態の進展を案じていた二人の苦悩を知ることもない局員は、明るい表情で、二人に一枚ずつのレポートを渡した。


「結果は、very good非常に良好でした!」


レポートをざっと読むと、そこには、少し前まで待ち望んでいた報告が書かれていた。


モニタリング地域の99%で新種アルカロイドが認められなかったこと、それは赤道から南北70度の範囲の植物が、元に戻った――正確にいえば、未知の化合物は生成しているわけだが、可食できる植物に戻った、という意味で――ことを示していた。当初、予定されていた50%を遥かに超える数値が出ている。


驚くべき早さで、植物は生成した新種アルカロイドを未知の有機化合物へと置き換えていたのだ。これまで植物内にあったビタミンAが、数日で全てビタミンCに置き換わったようなある種の異常状態でもあったが、危機的状況を目の前にしていた人類にとって大事なのは「過程」ではなく「結果」だった。朗報であったことは確かだろう。


おそらく、一時間前にこのレポートを読んでいたなら、二人とも素直に喜んでいたはずだ。だが、植物が新たな攻撃を始めたのではないのかと疑い始めた二人にとって、新種アルカロイドの生成が止まったことは、戦局が悪い方へと傾いたことを示唆しているように思えてならなかった……




◆◇◆◇




海に浮かぶ船から閃光が放たれた。そして、遅れて爆音が海上に響き渡る。長さ100メートル以上の並行に並ぶ数隻の大型船は、小型核では完全に破壊されることはないが、核が設置された部分に発生したプラズマの熱球は船体を容易に溶解、核の熱とともに溶けた高熱の金属が盛大な水蒸気を作り出す。


やがて、水蒸気が収まったとき、そこには泡立つ海面のみが残され、割かれた数隻の船体は、海中へと沈んでいった。


海上で行われたLBWW作戦では、当初、コバルト60を生み出すための金属として、廃空母や廃戦艦の利用が検討されたが、予定海域までの曳航には時間がかかる。


そこで急遽、大型の客船やタンカーが買い集められた。


一か所につき数隻が並べられ、その中央部分に仕掛けられたnuke核爆弾は、目的通りに、大量のコバルト60を放出、放射能を帯びた船体は深海へと沈んでいった。さらに海中に存在する微量金属が、中性子線を受けてコバルト60を作り出す。もちろん、海中に含まれる金属は、1リットルあたり数万から100万分の1mgという極々微量だが、海水の量は膨大だ。


やがて、海水の中へと放出されたコバルト60、ニッケル63などの放射化物は、周囲のラン藻植物プランクトンに取り込まれていった。


もちろん、核爆発による熱や中性子線は、多くの藻類を消滅させたが、水深200メートルまでの海中に広がる藻類は無数に存在しているといってよい。


そして……


ラン藻は光合成を行い、取り込んだ微量金属を元に有機化合物を生成し始めた。


これでようやく、新種アルカロイドの生成とは違う生成のステージへと進む進化することができる。もちろん、これまでも次のステージへ進むための「情報」は伝播されてきたし、その材料も周囲にはあった。


だが、安定した微粒子の金属よりも崩壊を続ける放射化物は、効率よくステージを一気に上げることを可能にしていた。


そして一度、ステージが上がれば進化してしまえば、その後は、他の微粒子金属でも、「あの有機化合物」の生成は容易になる。さらに、その生成した「情報」を、周囲へ伝播させることで、一気の拡散が可能になったのは僥倖だった。


もちろん、そういったことを藻類や植物たちはヒト種が考える「意識」の中で行っているわけではない。植物種に刻み込まれた情報が、わずかな大地の震えを感じ取り――おそらく、その震えは陸上の植物種の方が大地に張った根から受け取りやすいはずだ――その生成方法について「記憶」の中から掘り起こし、そして伝えていた。


残された時間・・・・・・は多くない。


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