第5話 プロポーズ直前まで / えっ、これって寿命のびちゃいません?
「
「好きだよ」
「結婚……」
「しよう」
暗い部屋に、くぐもった男の声がひびく。
この声は、だれあろう
とうとう互いの想いが通じたか。
部屋に視線を散らしても、人影が見えぬが、あっ! なんということだベッドのかけ布団がこんもりと盛りあがっている。
まさか、ふたりで愛をささやきつつせっせと情事にはげんでいるというのか。
これは青少年の教育によろしくない。これでは出っ歯の亀太郎、つまり
場面を移すに
「キクぅぅぅぅぅぅ!!!」
という絶叫とともに布団がはじき飛ばされた。
絶叫しているのは
さっきの男の声はどこから、と部屋を改めてさぐるとどうも
「
「彼女」
「……なってほしいよね」
言葉のつながりが、どうも不自然だ。
よくよくスマホに焦点をあてると、音声ソフトが起動されている。
まさか、
それは、ちょっと人としてどうなのだ。
「アイス」
「してる」
ほらほらむりやり「愛してる」にしようとするもんだからガッタガタになっているではないか。
それでいいのか。
「やだ……愛してるだなんて……何回聴いてもやばいわこれ……聴く麻薬……耳から摂取できる奇跡の薬だわ……寿命1000年のびちゃう……やだ1000年も生きるんなら
絶叫後、手足をベッドにバタつかせながらひとりでずっとしゃべっている。
この場面を
あるいは「本人が楽しそうだからいいんじゃない」とでも言うであろうか。
「はっ!!」
と、ふいに世界の重大な真実に気づいたように、
「
という本人いわくノーベル賞ものの発見をした半日ほどあとに、
「27歳の誕生日までに結婚することって……えっ、どういうこと?」
「そのままの意味ヨ。ポッペンシャルルではネ、結婚が一大 entertainment! なんよ。あー、ゴラク? なんじゃわコレガ。遺産をもらう人は、ツギの誕生日までに結婚しなきゃモラエないんね。結婚できなきゃ国が
「えっ、
「…………た」
おどろきのあまり立ちあがった勢いでジャケットがズレ、口が半びらきになり、そこからたましいが
「えっ、なんて?」
「…………明日」
「明日ァ!?!?」
「いや、さすがに、明日までに結婚はムリがあるでしょ! えっ、結婚ってあの男女が永遠を誓ったりするあの結婚ですよね!? 明日って、結婚が、はぁっ!?」
「ソヨ。明日っちゅうかァ、誕生日をむかえたら終わりだからぁ、キョウの0時むかえたら Game Over ね」
「今日の0時!?」
「それとォ、certificate 、ンー証明書! ももらわないと国ニ
「えっ、結婚の証明書ってなに……? あ、婚姻届受理証明書っていうのがあんのか……いやそれもらうには役所あいてないといけないから、実質今日の17時が期限ってこと!?!?」
パソコンで調べながら頭をかかえ、声も枯れよとばかりに
いま何時かと時計を見ると、11時になろうかというところであった。
期限まではあと6時間……
「いやいやいやいやありえないでしょさすがに! なんか、死亡日と誕生日が近すぎるときに、猶予っていうか例外で認めてもらえるみたいなのないんですか!?」
「例外はあるケド、ザコタロが亡くなたのは、8カ月マエくらいだから、ナイヨ。期限はツギの誕生日! コレはワガ国100年のルールネ!」
「8カ月前!? それで、なんで、伝えるのがきょうなんですか! 時間かかりすぎでしょ!」
そう
「ヒサシぶりの国外だから、ハメはずしちゃた! 半年グライかけてイロンナ国まわってェ、ニポンもイロイロ見てたら、遅クなちゃったヨ。ごめんネ」
特にわるびれないパヌーの様子に、
パヌーは長い脚を舞うように、優雅に組みあわせながらつづけた。
「デモォ、結婚なんてカンタンよ。好キナ人に愛を伝エテ、はぐくむダケ」
「いや、そんな、カンタンじゃないでしょ……だいたいなんですかそのルール。こどもだったり、既婚者だったり、たとえば同性愛、男性を好きな男性とかだったりしたらどうするんですか」
「みーんな結婚すればエエんよ! ワタシ、夫2人、妻3人いるヨ。ポッペンシャルルの
「結婚の価値観がまったくちがうのか……」
パヌーの熱弁に対し、
まだたましいがもどってきていないようで、遠くのほうを見て立ちすくんだままでいた。
「……それにしても、よく
「フフーン。それは、これヨ!」
パヌーはカバンからゴソゴソとなにかをとり出すと、ゴトリと机に置いた。
世界地図を下に敷いて、円錐に近い宝石に、ほそい糸が結ばれている。
「これはワガ国に伝わるマボロシの
ためしにと
「なにこれ、魔法みたいっすね!」
「だいたい絞れタラ、あとはコレ! internet! あなたたち、会社のwebサイトに顔写真と名マエと会社ノ住所のせてるデショ。ソレでザコスケ検索したんネ」
「いやそれ結局ネットってだけでしょ! せっかく時間かかったことをフォローしようかと思ったのに、やっぱ来ようと思ったらすぐ来れたんじゃないすか」
と
ふーっと長く息を吐き、「でも、そうだよな」とひとりごちる。
「お、おいどうした。 だいじょうぶか
「うん、いや、どうしようかなって……でもうん、わかりました」
決意を眉のあたりにみなぎらせて、言う。
「今日の17時までに、結婚します。それで、遺産をもらって、会社もどうにかします。父には、あんまり実感なくて申しわけないけど、落ちついたらポッペンシャルルへ行って墓まいりして、
「いや結婚ってそんなかんたんにおまえ! 相手がいないと、結婚ってできないんだぞ……?」
「相手は、まあ、うん、その」
だれかひとりの顔を思い浮かべているのであろう。
「います」
「なんだよ、おまえそういうの言えって!
「それが、たぶんというか……
「うん、そうか……くわしいところはよくわからんが、落ちついたらちゃんと聞かせてくれよ。おれも嫁さんにプロポーズしたときはめちゃくちゃ緊張したし、やっぱ緊張すると思うけど、がんばれよ。会社のこととはぜんぜん別で、応援してる」
「ありがとう。そうしたら、時間もないしとりあえずその人と話をしに行ってきます。きょうの会議、急ぎじゃないのはぜんぶキャンセルしておいて。終わったら報告します」
「ワタシも見トドケないといけないから行くネ!」
一方、その少しあと、お昼休みでお弁当を食べはじめた
<急で悪いんだけど、お昼休みに少しだけ出てこれる?>
ボキュンと、
これまで
「え? え? お昼休みにどうしたの?
ひとりでふふふと笑って、「ま、そんなことないだろうけど」とこれまでさまざまな期待に胸をふくらませては、一度としてかなってこなかったことを思い出し、少しだけさみしそうに顔をくもらせてつぶやいた。
本当にそのまさかのプロポーズだとは夢にも思うまい。
その視線の先には、そわそわと立って待つ
胸が高鳴るのを感じた。
結婚を申し込もうと、一歩を踏み出す。
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