第4話 1億円の遺産をゲットするためのたったひとつの条件
「ど、ど、ど」
突然フロアに侵入してきた美女に抱きつかれた
「どなたですか」
という
「
「すみません
「ニポン、広いから迷っタよぉ~」
と、おのおのが好きにしゃべるので、現場は
「と、と、とにかく!」
「いったん、はなれてください」
能動的にこちらからふれるわけにいかないと思ったのか、美女の背のうしろの空間で手をワキワキと困惑させながら美女へ語りかける。
「Oh……ポッペンシャルルだと、これぐらいアイサツよ」
「ポッペン……なんですって?」
「ポッペンシャルル。ワタシの国ヨ」
ニッとまぶしいくらいに笑った美女に、とりあえず会議室へと移動してもらいつつ、突撃されて
なんとなくこわいので、
「ポッペンシャルル……聞いたことある?」
どうも朝から処理不能なできごとがつづき、だいぶ
「ちちゃい、ちっちゃい島国ダカラ知らんかもナ。ニポンより、ずっとずと、ちちゃいヨ。population、ンーなんだっけ。あ、
「あ、そんなに小さい国なんですね……と、先に申し訳ありません。もしかして、英語のほうが話しやすいですか? おれもぜんぜん話せないけど……えー、Shall I speak English?」
「Thanks! でも、ポッペンシャルルはパルサイポポポウェイヌ語がメインで、私は英語もニポン語もカタコトだから、アンマ変わらんよ。
「わかりました……でも日本語、とてもお上手ですよ。それで、そのポッペンシャルルからどんなご用で? あ、申し遅れましたが私は
気をきかせた
「Oh! ダイキね。ワタシ、名まえ、パゥグログラフィーヌ言います。呼びニキィから、パヌーって呼んでくれてええよ。きょうはね、あ、コノタビは? ザコスケの daddy、お父さんが亡くなられたので、それで来マシたわ」
「えっ、お父さんが……おまえって、あんまご家族の話聞いたことなかったけど、お父さん外国にいたの?」
「いやはじめて聞いた……」
父親は自分が12歳のとき(つまり14年前)、母と離婚して家を出たこと。
離婚して数カ月は月に一度会っていたが、やがて会わなくなったこと。
その後の消息はまったく知らず、おそらく母も知らないであろうこと。
以上であった。
「だから、亡くなったって聞いても、まったく実感わかない……」
「お父さんの名まえなんていうの?」
「たしか、
「ソ。だから、ワタシはザコタロ♡って呼んでたヨ。なんか喜んデタからネ。で、ザコタロは8年前ぐらいかナ? ポッペンシャルルに来て、ワタシ、ザコタロにニポン語教えてもろた。そのワリにはうまかろ? それで、あー、cryptocurrency? ニポン語でナンダッケ、仮想通貨? わかる?」
「いまは暗号資産っていったりもしますが、わかります」
「オウ、そのアレを買ってテ、お金持ちになたよザコタロのくせに。それで2~3年まえからビョーキしてて、チョトまえに、亡くなた。それで、アー、遺産? ニポンのお金でケイサンすると、1億アルわけ。それ、渡しに、ニポンまできたネ」
「1億!?」
まさか、こんなところで会社をピンチに
「えっ、あっ、でも、そちらの国で税金、相続税みたいなのないんですか?」
「ソーゾク?
「……
「隠し子とかいなければだけど、知ってるかぎりは自分ひとり」
「えっ、えっ、じゃあ1億そのまま
「いや、あっちの法律でかかんないってだけだから、少なくとも、日本国籍のある自分がもらったら日本の相続税はかかるはず……。あとで顧問税理士に聞いてみるけど。だからもらってすぐに会社に入金しちゃうと相続税が大変になるか? いや、でも相続税ってたしか10カ月後とかのはずだから、それなら
「えっ、いや、それは自分の金なんだから、自分でちゃんともらえよ。それと会社のあれとはぜんぜん別の話だろ」
「すぐに使う見込みもないし、いいよ。会社にあげるっていうことだったら抵抗あるけど、一時的に貸しておいてあとでゆっくりでも返してもらえればって話だから、損するって話でもないし(会社がつぶれなければだけど)。実際社長も戻ってくるかもしれないことを考えると、あのままなんにも思いつかずにいるよりは、それで今月末をしのいだほうが会社のみんなのためになるはず。……よし、そうしよう」
表情が変わらないながら、スッキリと
「いや、まあ……そうしてもらえんならほんと助かる。すまん!」
「チョチョチョ、まだゼンブ話してねェんヨ! ザコタロはネ、こどもザコスケ以外イナイって確認はしたんだけどネ、ポッペンシャルルならでは? の条件あるんだヨ」
「条件って……なんですか」
いぶかしげに顔をしかめるふたりに、パヌーは得意げに胸をはって拳をつき出し、高らかに告げた。
「それは、27歳の誕生日までニ結婚スルコト!」
「27歳の誕生日までに結婚すること!?」
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