第2話 「夢」のおはなし

 父は映写技師でした。

 真っ暗な映写室、とりどりのランプが点滅する背丈より大きな映写機を操ってる父に夕飯の弁当を届けるのが小学生の私の日課でした。父が弁当を食べ終わるまで映写窓から映画を覗き見るのが楽しかった。。

 当時、テレビが台頭してきていたとはいえまだまだ大人気の映画。映画館はどこも超満員で常に立ち見が出るほどの盛況で、その満員の観客が映画に合わせて笑ったり泣いたり拍手したりととにかく騒々しい。みんなが映画の世界にのめり込んで楽しんでいました。小さな映写窓から溢れてくる感動の波に小学生の胸はときめいていました。

「いつか、こんな風に人を感動させる映画を創りたい」

暗くて暑くて油臭い映写室が夢の始まりでした。

 大人になりいくつかの夢を実現し夢を追いかける人生の素晴らしさを知ったのに、この油臭い夢だけはいまだに胸の中で温めたままでしたが、そろそろ私の残り時間が少なくなってきた、いや少ない残り時間を有意義にするために行動することにしましょう。でも現代の映写室はプロジェクターだから油臭くないし無人。父の残像を見ることはもうできない。夢がないなぁ。


 「人生における真の喜びは、偉大だと思える目的のために生きることである」バーナード・ショー

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