第6話 焼き飯とチャーハンの不毛な争い(吉)

 転職時からの上司である部長の森さんは重度のディズニーおたく男子だ。


 当然、年間パスポートを所有しているし家だって昇進後に浦安市に引っ越すほど。


 社内の男女は森さんをランドとシーの達人として崇拝しあれこれ便利な情報をもらっている。


 その森さんが職場休憩スペースの対面で酢豚付きチャーハンを食べながら考え込んでいる。


 コンビニ弁当ではなく近所に来るようになったキッチンカーで売っていたやつだ。


「何か面倒な案件でも入ったんですか?」


 まいたけおこわおにぎりを食べながら、こちらから小声で質問してみた。


「ふと考えたらチャーハンと焼き飯の違いがわからなくなってきてねェ」


 森さんはたまに不毛な思考の罠に陥ることがある。それ以外は有能な上司だ。


「中華風焼き飯がチャーハン、和風チャーハンが焼き飯。どうですシンプルな回答でしょう」


 自分がドヤ顔をしているという自覚はあった。

 この人との付き合いも長くなったしな。


「付け加えると塩味だと中華っぽくてチャーハン、しょうゆ味だと焼き飯ですかね」


 やばい、今日は冴えてるぞ。

 今の自分なら海原雄山にだって勝てるッ!


「そうやって安易な結論を急ぐのは良くないなァ。味も思考も重ねるほど良くなるよ?」


「永遠に答えが出ない問題ですからあきらめてください。チャーハン冷めますよ」


 レタスとエビのチャーハンはうまそうだ。今夜はひさびさに自炊しよう。

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