第3話 みんな大好き麻婆(中吉)

 面倒な案件を片付け無事に契約満了となり、厄介な取引先とはお別れできたので、今夜はお祝いだ。


 会場は数年前まで職場ビル1階にあった中華料理屋で移転後の今は予約も取りにくい評判の店だ。


「先輩、これうまいっすね~♪」


 と、食べては感激する後輩をなだめつつ他のチームメンバーと談笑していた。


 ほどよくアルコールも回りみんな陽気になったところである話題が出て事態を激震させた。


「麻婆といえば麻婆豆腐! もはやこれは常識!」


「茄子おいしいよ茄子!!」


 チームの大半が麻婆豆腐派か麻婆茄子派かに大分裂してしまったのだ!


 い、言えるはずがない……この状況下で自分が麻婆春雨派だというネタなんて。


「せんぱいは麻婆茄子派ですよね?」


 後輩女子のひとり、派遣会社最推しの派遣社員である吉野さんが問いかけてくる。


 ふだんはキリっとしてるのに酔いが回ると眠たそうな表情がかわいい。


「いいや最後の一人は麻婆豆腐派で決まり。部長の俺がそう決めた」


 ディズニーおたく男子として社内でも有名な部長が鼻息を荒くしている。


「ええっと自分としては……」


 さて、ここをどう切り抜けようか。


 悩んでいると、少し酔った後輩がハッピーにだらけた顔で割り込んできた。


「麻婆だけでいいんじゃない? それでみんなまるーく納まるっす♪」


 つまりはあんかけ肉味噌だけなら、ということか。


「こいつ……タブー中のタブーに触れやがった」


 部長が某格闘マンガに登場する柔術使いの解説キャラみたいなことを言ってる。


「そーゆーことであたしが注文しといた麻婆チャーハン+豆腐+茄子が来たっす♪」


 うやむやにするこの強引さ、後輩は意外に大物かもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る