第2話 立ち食いそば屋のラーメンには追加武装ができる(小吉)

 職場もよりの駅は地下鉄だが地上部分は商業施設でもあり飲食店も複数ある。


 残業で遅くなった帰り道、何か腹に入れようと駅地下の立ち食いそば屋に入った。


 券売機で食券を買おうと券売機の前に立つとすぐ近くに見知った顔がある。


「あ、吉野さん?」


 派遣社員の吉野さんが無心にラーメンをすすっていた。


「せんぱいこそ残業お疲れ様です」


 あわてて口元をハンカチで拭いてから、ちょこんと会釈してきた。


 仕事中はキリっとしているがときどき小動物的なかわいらしさを見せる女の子だ。


「吉野さんもここで晩メシかい?」


「いつもは自炊なんですけど、なんだか今日は疲れちゃって」


「わかるよ。自分も以前は自炊してた。でも仕事の物量に負けてほぼ外食だ」


 コロッケそばでも食べようと思ってたけどラーメンもありだな。


 しょうゆラーメンとトッピングでチャーシューではなく鴨そば用の鴨肉を買った。


 チャーシュー麺より数十円高いが、和風テイストが強まった味になるのがいい。


「なるほど鴨肉というのもありましたね。さすが食にうるさいせんぱいです」


「……そんなにうるさいか?」


「こっそり副業で食べ物系の動画チャンネルをやってるかもと疑う程度には」


 グルメ漫画の聞きかじりで雑学を言ったりしたのが悪かったようだ。


「うざい上司で悪かった。グルメ漫画の真似でふざけてた。これから控えるよ」


 届いた鴨肉入りラーメンをずずーっとすする。


「それは困ります。せんぱいの無駄な雑学のおかげでリラックスできてますし」


 吉野さん無自覚に言葉にトゲがある子だなあ。


「お願いですから今まで通りのエセ食通ぶった解説、やめないでください」


「わ、わかった。エセ食通としてコンゴトモヨロシク」


「それではわたしはこれで失礼しますね」


 ラーメンを平らげると吉野さんはぺこりと頭を下げて帰っていった。


 少し冷めた鴨肉ラーメンの味は、ちょっと、しょっぱかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る