Chapter_5 星犬のお巡り

 宇宙海賊との出会いと宇宙政府との戦闘・撃退を経て惑星シーボーズを後にする三人旅の一行。

 アルファルドから銀河路図を確かに貰い受け、地球のある太陽系を目指す旅路の途中にて、一行はムササビ座星系道路の近くにいた。

「終わってみれば、実りある寄り道でしたね」

「そうだな……いっそう気を引き締めて行く気持ちができた」

「そうなっていると僕としても有難いよ。

 また時間があれば、ま別の過去の事を話させて欲しいな。 ……辛い事ばかりじゃあ、なかったから!」

 イルトとエアが搭乗室で話す。イルトは操縦しつつ、エアは複座でモニターを見つつ。

 エンドは先導をして飛んでいた。銀河路図を基にマップを更新したとはいえ、ナビがギュグエースのものの方が最新式で正確だからである。





 ふと、遠く前方を見ると。

「なんかスペースマシンが渋滞してますね?」

「その辺の人に聞いてみるか」

 アイガイオンが近くにいた一般民間スペースマシンに信号無線で話しかける。

「あのー! この列なんなんですか?」

「なんや、アンタら見慣れんスペースマシンやな。

 ああこの列か? この先に宇宙政府の検問があるんや。近くで宇宙海賊とのドンパチがあったらしくてな。宇宙海賊が通らんか改めとるらしいで。物騒な世の中やわ。世の中どうなっとるんかのう」

 独特な口調の一般スペースマシンの声の主はそういうと、前に進んでいった。

「検問かあ……」

「不味くないですか? 私達、この前に宇宙政府の部隊を蹴散らして……」

「だな……そもそも僕らそんな立派な証明書的なの持ってないし……」

「そうだね。アイガイオンとギュグエースを偽装、僕達は変装をしておこうか」

「え? でもそんな道具……」

「フィロソフィアス・マシーンの機能に無機物創造装置がある筈だ。アイガイオンにもないかい?」

「えーっと……ちょっと探してみます!」

 三人は、検問を抜けるために変装をする事となったのだった。





 一方その頃、宇宙政府警察の仮設検問所、イルトエアエンド一行が通ろうとしているその場にて。

「はぁぁぁ……辞めてえ……!」

 この男、宇宙政府警察の巡査、キオン。

 容姿はパッと見人型だが他の人型宇宙人よりふわっとした髪や鋭い目つきををしている。

 宇宙政府の一般職員の制服(白と黒をベースに等級によって差し色が変わり、巡査の場合は緑)を自己流改造して着ている男。

 彼は今、苦悩の渦中にいた。

(声が出ちまった……)

 ここはトイレである。個室に閉じ困っている。

(たくよお〜…… 宇宙警察に入ろうと思ったのはガキの頃、おばあちゃんにお年玉カネ目当てで親切してた頃、良い子だねえって褒められたのがきっかけだ。 人助けで褒められて食ってけるから気分良いやと思ってやっとこさ入ったっていうのに、やる事ときたら雑用だらけでやってられねえってんだよ、し・か・も上司が……!)

「キオン巡査! ここだな!」

(うわ来たよ……)

 このままだとトイレを蹴破られそうだと思ったので恐る恐る外へ出る。

「ど、どうもっすルウ少将……」

「ずいぶん長い間戻って来なかったな?」

「へへへえ、腹痛で……」

「体調管理かなっていないな。 早く検問所に戻れよ?」

 ルウ少将と呼ばれた獣人の女性宇宙人はそう言いトイレから出て行った。

(性格は正直めちゃ厳しい。 一々突っかかってきやがるし口うるせえし! ンだが、見た目が黒髪ストレートにケモ耳ツン凛お姉さんと超タイプで綺麗な人なんだよなあ……)

 キオン巡査はポーッとと惚れて思う。 ぶるぶると気を取り直しケッと悪態をつく。 個室を出て手を洗いながら、恋慕と反抗心の考えは悪い方向に決まる。

(よし、今日辞める!

 そしてどうせ退職申請しても受け付られねえしバックれる!

 幸いなんか今回の検問には暴徒鎮圧用に宇宙政府の軍と警察の統合を記念した新型スペースマシンの完成形初期ロットが配備されてるらしいからぁ! それ退職金代わりにかっぱらってぇ! 逃げてやるぜ!!!)

 キオン巡査は野望の火を燃やし、手を念入りに洗い最終勤務に気合を入れてトイレを出て行くのだった。





 そんなこんなで検問所。

 キオン巡査は最後の勤務として意気込んで検問所で通行者の対応を受けた、が。

(なんだこいつら……)

 やってきたのは黒い丸のようなマシンに乗った初老の三人。見るからに怪しい黒マント、つけ髭と伊達眼鏡、スペースマシンは偽装装甲である。怪しい。怪しすぎる。

 本来のキオンならば。

『なんだてめーらーーーっ!

 どう見ても怪しいじゃねえかーーーっ!!

 八つ裂きにして姿みてやらーーーっ!!!』

 と怒鳴ってそのまま悪人退治と洒落込もうとするが今回は話が違う。

 さっさと勤務を終わらせたかったので軽く突いて終わらす事にした。それでボロを出すならお終いである。

「えーっと。あんさんら名前は?」

「オルトです」

「オアです」

「オンドです」

(なんで三人とも同じ偽名のパターンなんだよ変えろよ! 大体本名予想ついちゃうだろ!)

 そんな手続き、質問が続いた。




 さて、もちろんこの三人と黒い塊スペースマシンはイルト、エア、エンドである。イルトの無機物創造装置の扱いは思いの外上手く色々なパーツを出せたのだが、いかんせん三人とも変装のセンスがなかった。アイガイオンとギュグエースは黒い装甲で丸めただけだし、変装衣装は怪しさが漂まくっている。もしキオン以外の職員が担当していたら身元を改められていただろう。

 審査を受ける前、待機室で小声で三人が話す。

「本当にこの変装で大丈夫なんでしょうか……」

「僕もエアも世間のセンス知らないですからな……」

「ごめん。実は僕は普通のセンスってのは詳しくなくて……ダメかなこれ……」

「「エンドさん!!??」

 三人には焦りのムードが漂っていた。


 雑に適当に手続きをこなすキオン。

 ドキドキしながら手続きをこなす三人。

 対局の両者。

 そこに、新たな訪問者がやって来た。




 ズドォォォォォォォン!!!




 突然の爆撃音と揺れが検問所に響く。

「な、なんだーっ!?」

 キオンが窓から外を見ると、テントウムシの様な外銀河怪獣の群れがそこら中で暴れている!

「なんでこんな急に来るんだよ!

 しかも辺境の仮設検問所から狙いやがってくそっ!」

 駆け出すキオン巡査。

「あっ係員さん検査は!?」

「うるせえやってる場合じゃねえだろ!

 勝手に逃げろ! そのどさくさで通っても俺の管轄外だい!」

 その叫び声の返事を聞く前にキオンは駆け出した。

(冗談じゃねえこんな所で死んでたまるか!

 例の新型は対外銀河怪獣対策用の新世代らしいし折角だ、このまま蹴散らしてそのまま雲隠れしてやる! そうすりゃ文句も少なかろう!)

「俺はこんなところで死ねねえんだ!!!」



 格納庫へやって来たキオン。見ると何機かのスペースマシンは出撃しているようだが、仮設検問所を襲う振動が収まっていないのを踏まえると力は及んでいないのだろう。

 キオンの狙いは一つ。事前に電子端末に渡されていたPDFメモを片手に走る。

「あったこいつか!! 新型スペースマシン!!

『対外銀河怪獣正式新世代人型宇宙戦闘機初期号SpaceMachine-TYPE.ZXA-01』……長い!

 通称はタランドゥスか! よし!」

 早速乗り込もうと機体横に設置されているケージに手をかける。そこに。

「キオン巡査!! そこで何をしている!!」

 聞き覚えのある声がする。

 ツンと立った耳に綺麗な瞳、ふさふさとしたロングヘア。 キオンの上司ルウ少将だ。

「何もかんもありませんよ! こいつに乗ってあいつら倒すんです!!」

「君には危険だ!! 私が乗る!!」

「んなっ……!!」



 そう、この人はいつもそうなのだ。

 キオンの上司になってからというもの、突飛な行動をしようとするといつもルウ少将に諌められる。

 わかっているのだ。 火の玉の様につっぱしる自分の身を案じてくれている事くらい。それがわかってしまうから、より自分は守られていられると感じ、そして思うのだ。

 それは承認欲求のまま生きてきた彼にとって初めての感覚だった。




 なぜキオンはこう突っ走っているのか? その根源は詰まるところ自分が周りにどう思われているのかの恐怖にある。

 彼は母方の獣人名家と地球人の一夜の誤ちによって生まれた子である。母は自分に対して優しかったお陰で決定的なドロップアウトはせずに済んだが周囲の目は痛かった。 

 そんな生活の中でやがてキオンにはどうせ奇妙がられるなら自分の意思でどう思われるか決めてやろうという気概が出た。 そうして気丈に振る舞うようになったのだ。

 知りたくない、怖い、だから格好を付け目立ち、印象を自分から決め付ける。

 奇異の目が怖かった。 元来の神経質な気質を隠す様に彼は他人を極度に警戒する様に育った。


 そしてルウ少将に出会った。 どれだけ自分が無茶をしようと自分を信じてくれる人だった。 自分の底を知られてしまった気がした。 キオンはそんなルウに惹かれて怯えた。

 屈辱と安心、もう取り繕えない。

 どうする?

 どうしようも無い。

 ならば……!

……行かせてくれ!」

「キオン!! 君は……」

「ルウ!!!」

「!」

「俺は……俺を超えなきゃいけない……!!」



『ひそひそ……クスクス……』

『お前うぜーよ』

『俺を見るなーっ! 違う! 俺を見てくれ! 俺は! 俺はぁぁぁぁぁっ!』

『卑屈な奴!』

『キオンちゃんは良い子ねえ』

『お前は私の部下だ。私はお前を見捨てない』



「俺は!! 誰にも見下されない男に!! 貴方に認められる男になるんだ!! ここで行かなきゃ、俺は腐る!!

 行かせてくれ、ルウ!!!」

 爆炎の中、ひとつの自分を変えたいという慟哭が響いた。





 仮設検問所付近は外銀河怪獣の群れに襲われ阿鼻叫喚となっていた。元来た道を引き返す者、どさくさに紛れ先へ行く者。

 イルト、エア、エンドは。

「くそっ! 予想以上に偽装装甲を取るのに手間取った!」

「皆さんが逃げられる様に相手しましょう!」

「では行くぞ、二人とも!!」

 少しもたついたが、アイガイオンもギュグエースも本来の姿となり外銀河怪獣と戦いを始めていた。

 逃げはしない。理不尽に目の前で消される命を無視しない。それがイルト達である。命の理由を知ろうとする者達の決断である。

「今回は数多いですね……!!」

「ああ、前回の宇宙政府部隊より多いかもしれねえ、が!!」

「僕達の力を合わせたなら勝てる!」

 数では外銀河怪獣の圧倒的有利だが、イルト達は怯まない。覚悟が決まっているのもあるが、前回の戦いで本格的にフィロソフィアス・マシーンの戦闘操作に慣れて来た所があるのだ。

 エアは複座のパネルに手を添え息を飲む。

 イルトとエンドは体感連動グローブを締め直し、腰を入れる。

 二体の全周囲モニターが敵反応を騒ぎ立てる。

 迫る開戦の瞬間。




 爆炎が立ち上り、轟音と共に一つの影が飛び出した。

「!?」

「なんだ!?」

「センサー確認……スペースマシンです! マッハは出てます、速い……!!」



 ギュルルゥン!



 飛び出した影、スペースマシン・タランドゥスは高速で止まり静止した。

 黒光るボディに陣羽織の様なシルエット。色は宇宙に溶け込みしかし存在感を放つ、異様な両立を成すアイガイオンやギュグエースと同じレベルの図体のスペースマシン。

 タランドゥスは前面に相対した外銀河怪獣の全てに瞬時にロックオンをかける。

「凄えぞこいつ!! いいぜ、マシンに呑まれる様じゃこの先やっていけねえ、乗りこなしてみせる!! 

 うおおおおーーーっ!!!」


 バチュッッッッッ!


 さしずめ運動会のスタートピストルの様な鋭い炸裂音を推進剤が鳴らし、外銀河怪獣の群れへ突き進むタランドゥス、キオン。


「あいつ、一機で相手する気か!?」

「加勢しましょう!」

「うむ! ……だが、巻き添えには注意した方が良いらしい……っ!」



 タランドゥスの肩部から発射されるミサイルが外銀河怪獣に直撃する。


「数がいても、そんなに固まって動くなら!」

 タランドゥスのビーム兵器。腕部高圧砲が一気に三体の外銀河怪獣を貫く。

 スペースマシン共通のビーム兵器はビーム・クレイといって超電光子フォトン・プラズマというエネルギーを特殊な製法で質量を持てる様に捏ねられたものだ。実弾兵器と光学兵器の長所を兼ねる。だから目視もできるし、手応えも感じる。

「やれる……!」

 確実な手応え。恐ろしい程の機体性能。こいつが本格的に量産されれば宇宙政府軍警察は外銀河怪獣と互角以上の戦いをするだろう。

「ルウ……俺のわがままを許してくれ、代わりになるか分からないが、積極的に外銀河怪獣を叩くことにする!」


 バギャァァァァァァーッ!


 更なる炸裂音が宇宙に、いや正確には状況表示のディスプレイに鳴り響く。宇宙を疾る黒い閃光。その通り道に爆発が重なる。それは一つの線の様に描かれた。

「……くはあっ!! 初運転で少しトバし過ぎたか……ぜえ……」

 息が止まり慣性のまま流れるタランドゥス。

 キオンが苦しいのも無理はない。元々キオンのスペースマシン操縦適性は高い方なのだがタランドゥスはモンスターだ。その操縦は操縦者に呼吸を止めた全力疾走を要求する様なもの、激しい負荷をかける。

「慣れるさ、見てろよルウ……俺はこの苦しさも超えて、君に認められる男になる……!」

 しかし、その隙を狙って外銀河怪獣が迫る!

「ギジャァァァァァッ!」

 真横からタランドゥスにタックルした形になる。体勢を崩されるタランドゥス。

「こ、な、く、そおおおおおおおーっ!」

 強引に引き剥がして腕部高圧砲を引き伸ばした剣モドキで斬る。

「ギジョォォォォォォ!」

 悲鳴をあげて爆散する外銀河怪獣。

「くうううっ!」

 周囲に寄ってきていた外銀河怪獣を振り払う様にミサイルとレーザーを振り撒く。爆発が花の様にタランドゥスを囲む。

 一瞬の静寂。煙の中から突出する外銀河怪獣!


「やっっっっ!?」

 反応が遅れるキオン。

「やられる!?」


 グッピガァァァァァァン!


 タランドゥスにタックルがぶつかる瞬間、白い素体に三原色の血脈が流れている一本ツノのロボット、アイガイオンが割り込み止める。

「大丈夫ですか!?」

「こっちもいるぜええええっ!」

 そのまま肉を握り、暴れる外銀河怪獣をエネルギーナックルで殴り込み爆発させるアイガイオン。

「君! この状況を一人で打破するのは無茶だ、僕らもやる! いいね!?」

 無線の方を向くと、今度は緋色と蒼の血脈が流れているロボットが出てきた。

「その声、さっきの雑な偽装の奴らか、すまない! 恩に着る!」

「雑な偽装っ!?」

「今そんな事言ってる場合じゃないですよ! まだまだいます!」

「ああ、だが活路はある!

 君とそのマシン、名は!?」

「えっ……キオン、タランドゥスだけど……」

「ようし、撹乱と乾坤だ! キオン君のタランドゥスで纏めて惑わせて僕らが潰していく!

 行くぞ!」

「お、おい! チッ……ここはこの旦那に合わせてやる、かぁぁぁぁっ!?」

 二体のフィロソフィアスと一機のスペースマシンが宇宙を駆る。

「うぉらぁーーーーっ!」

 キオンは今耐えられる限界の速度でテントウムシ型外銀河怪獣の間をすり抜け、その途中にビームを撃ち、ソードで斬りつけて撹乱していく。

「やるぞ! フィロソフィアス必殺!」

「下半身に力を入れて、気合の塊を胸に持っていく要領……!」

「照準、射程、エネルギー良し! いけます!」

「「「ハイパァァァァァァァァノヴァァァァァァァァァッッッ!!!」」」

 怯んだ隙を狙って、フィロソフィアス・マシーンの必殺技、ハイパーノヴァを撃ち出し消滅させていく。撃ち零した外銀河怪獣にはギュグエースの斬撃や銃撃、アイガイオンの拳や蹴りが炸裂していく。

 そこからはもうパターンである。テントウムシ型外銀河怪獣を全て撃退するのは、一時間もかからない事だった。





「やったね、イルト!」

「ああ! エンドさん、そっちは大丈夫ですか?」

「うむ! こっちも大丈夫だ!

 スペースマシン・タランドゥスのパイロット! そっちは大丈夫か!?」

「ああ……」


 キオンはヘルメットを脱いで息をつく。

 ふと、シート近くのポケットに紙が挟まっていた事に気付く。手に取り読むと、それはルウからの手紙だった。


『お前が自分と人の距離を取る為に無理に格好を付けている事は知っていた。そんな自分を克服したかった事も。

 この手紙を読んでいるという事は、お前はタランドゥスに乗っているのだろう。コックピットの裏側に荷物は積んでおいた。

 未来の私の右腕に、相応しい男になってこい!』


「チッ……お見通しかよ、敵わないな全く……」

 キオンはやれやれと深呼吸をして、自分の道を向いた。





「なあアンタら!」

「「「ん?」」」

「旅してるんだろう!? 俺も連れて行ってくれ!!!」

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