第一章 物騒なプロポーズは突然に③
フェルマータは
たしかヴォルフは、北の辺境ノースト領を治める辺境
そして、その異名の頭に「不死の」が付いた理由は、彼が二百年間変わらぬ姿で生き続けている不老不死のバケモノであるためで──。
その正体は【死神】に呪われた、老いず死なずの人間のはずだが、まさか突然フェルマータに
(もっと、バケモノみたいにごつい見た目なのかと思ってた……)
フェルマータの目の前にいるのは、二十代半ばの細身の男性。隻眼の下にくっきりと
とても、バケモノには──。いや、バケモノか。剣で
「い、痛くないの?」
「痛覚はある。だが、痛がって何の意味がある。死することができぬ痛みに
問い
助けに来てくれたことは
そして不幸中の幸いか、武装商人たちの興味はヴォルフへと移っていた。
「こいつが
「【不死の狼騎士】が、こんな弱そうな
「もう一回串刺しだ!」
初撃が命中したからと、勝ったも同然という勢いの武装商人たち。
彼らがヴォルフを貫いていた剣を
「ひっ!」
フェルマータは、
しかし、この
この展開は好都合。フェルマータは、
助けられておいて逃げるなど、なんて酷い女だと
(だ、だって普通に
身を
「俺をミイラに? 貴様ら
ヴォルフのため息が一つ。
そして──。
フェルマータがカサコソと二歩だけ移動する間に、剣が
故に、フェルマータは恐ろしさのあまり、その場で氷のように固まって動けなくなってしまった。とてもではないが、後ろを
(えぇぇぇっ! 怖い怖い、めっちゃ怖い! 何が起きたの!?)
茂みの枝をパキパキと足で
「待たせたな、聖女」
フェルマータ、その一言で事態を察す。
「まままま、待ってません」
相手は返り血で血まみれであり、思わず
フェルマータには、武装商人たちを一瞬で斬り
「た、助けてくれてありがとうございます……。ヴォルフ様、でよろしかったでしょうか」
「俺の正体を知って、態度を変える必要などない。貴様は俺の妻になるのだ。
「いえ、他人なので……!」
やっぱりヤバい人だ、
「私、もう
ヴォルフの生々しい傷口から目を
しかし次の瞬間、視界がぐらりと
「自分には生きる時間が残されていない、そう言いたいのだな。聖女」
「ちょ……! 下ろしなさいよ! そうよ! 不本意だけど、今日は私の命日なのよ!」
フェルマータがバタバタと足をばたつかせ、必死に
背の【砂時計の
「もうすぐ死ぬんだから、放っておいて!」
「そうか。もうじきか。ならば、この世にやり残したことも思い残すこともないのだろう?
「妬ましいですって?」
だが、フェルマータは確実にカチンと来た。誰が潔いわけあるかい! である。
三年間、
フェルマータは「思い残すことがないわけないじゃない……」と
「私、好きな人と結ばれて幸せになりたかった!
フェルマータの天を
月が夜空の真上に
「あっ、熱い……!」
背中が燃えるように熱くなるのを感じ、フェルマータは短い悲鳴を上げた。
振り返ると、背中から
(何よ、これ……?)
フェルマータは、これが呪いの終わり──死の始まりかと
月が
「私、生きてる! 誕生日を
何が起きたのかまったく分からないが、生きているという事実にフェルマータは打ち震えた。
呪いの
「刺青、どうなってるか教えて!」
鏡がないためヴォルフに問うと、彼は目を細めてフェルマータの【砂時計の刺青】を注視し、「数日分だな」と
残念……、さすがに呪いは解けていなかったかと少し落胆したフェルマータだったが、数日余命が延びたというだけでも十分に喜ばしい。一度延びた余命だ。まだまだ延ばすことができるかもしれないし、解呪の方法だってあるのかもしれない。
「よく分からないけど、ありがとう! 生きる希望が生まれたわ!」
フェルマータは満面の笑みを浮かべ、勢いでそのままヴォルフの肩から降りようとするが、そうは問屋が
当然、ヴォルフはフェルマータを解放してはくれなかった。彼は、自身の手の
「俺も死ぬ希望を得た。故に
「死ぬ希望? 勝手なこと言わないで。私は──」
「ノーストに行くぞ。今日は、俺と貴様の結婚記念日だ」
「はぁっ? 結婚きね──」
すると、ほどなくしてバッサバッサという大きな羽音が上空に
飛竜とは王国の北の辺境ノースト領に生息するドラゴン族。その肉体の強固さと
(でっか!)
フェルマータは担がれている状態で
けれど、ヴォルフはそんなフェルマータを待ってはくれない。彼は「行くぞ」と淡々と言い放つと、フェルマータを肩に担ぎ上げたままの体勢で、飛竜の背にひょいと飛び乗った。
「アビス、飛べ」
フェルマータが声を上げる
「お、降ろして!」
「落下死したいのか?」
「死にたくはない!」
ようやく声を
「
フェルマータの特大の悲鳴が
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