第一章 物騒なプロポーズは突然に②
被呪者とは、【死神】に呪われた者の呼び名であり、ナギア王国においては
「あの子のお父さんは被呪者だから、遊んじゃ
「被呪者なんて
「【死神】に選ばれたってことは、何か後ろ暗いことをしているんだ。被呪者になるにも理由があるに
呪いは決してうつらない。呪いは個人が背負わされるものだから。
呪われることに理由なんてない。【死神】は無差別に呪いを振りまいているのだと、教会の統計でも答えが出ている。
けれど、人々は理解ができないものとの
このナギア王国には、安全な場所など有りはしないというのに。
そのことを、フェルマータは呪われて初めて理解した。
フェルマータは被呪者たちが仕事を失い、
(現実を思い知ったところで、今さら守りたい国なんてないけどね……)
(そろそろ神殿に
けれど、フェルマータの足ははたと止まった。いつもは静かな森にほのかに鉄の
フェルマータが
「
「あぁ。教会で聞いたんだ、間違いねぇ。【
茂みの向こうには、鉄の剣を携えた商人──武装商人たちの姿があった。
武装商人は、自ら
(と、とんでもないことを聞いてしまった!)
そんな魔女がいるならば、ぜひ干物として
しかし、続けて聞いていると。
「【呪いの魔女】かぁ。確か、三年前に呪いを
「そう聞いたぜ。この辺を根城にしてた
「おいおい。そんな
(あっ、それ私だ)
そういえば、盗賊をとっちめたことがあったなぁと、
(【呪いの魔女】って、私のことか!)
あの時は
(って、ヤバくない? 私、狩られるの?)
今日死ぬとは言え、痛いのは
フェルマータは早く
「ひっ! か、囲まれてた……!」
「こんな森に女一人ってこたぁ、てめぇが魔女か?」
五人の武装商人たちに
「魔女じゃないわよ。守護聖女フェルマータ様よ!」
(ハッ! 何言ってんの私!)
しょうもないプライドのせいで
そして、我に返った時にはもう
「フェルマータ……? 魔女の名前じゃねぇか! ぶち殺してミイラにするぞ!」
「ミイラなんて嫌ぁぁっ!」
フェルマータは
「いったぁっ!」
(私の尊い顔面が……!)
痛みを
「痛い痛い痛い! 放してよ!」
「呪いをぶっ放されたら困るからな。暴れたら腕、へし折るぞ」
「呪いなんてぶっ放すか!」
フェルマータの言葉をまともに聞いてくれる者などいなかった。
私は魔女じゃない。私をミイラにしたって無駄だと
(あの時と
守護聖女の役から解かれ、
武装商人が
「いや……っ」
絶望するのと同時に服がびりびりと
白い背の中心に浮かび上がる
「見ないで……!」
「あ?
「【砂時計の刺青】だろ。【死神】に
武装商人の一人が口にした【砂時計の刺青】──。
それは、【死神】によるマーキング。砂が呪いの進行を示す絶望の
(私の命の残量を知らせる生きた刺青──)
「
「たしか、死の呪いだ。こいつ、すぐにでも死ぬぜ!」
武装商人に背中を指差されて笑われ、フェルマータは
言われなくたって分かっていた。
毎日背を鏡に映すたびに絶望し、目覚めたら消えていないかと強く願っていたのは、フェルマータなのだから。
「そうよ。私は今日死ぬのよ!
「今日!? マジかよ。死ぬ前にどうしてもイイ思いしてぇっつうなら、全員でたっぷり相手してやらなくもねぇな」
ケラケラと腹を
フェルマータは悔しさのあまり、
「誰がお前たちなんかと!」
「ははは! 俺たちだって、被呪者は願い下げだ。とっとと
振り上げられる鉄の
(私は魔女なんかじゃない。私は……、私は……)
死ぬんだ。
ひゅっと剣が振り下ろされた音がして、フェルマータは思わず目を閉じた。
しかし、待てど暮らせど、剣はフェルマータの首には落ちて来ない。代わりに降って来たのは低く
「聖女。こんなところで死んでいいのか?」
彼は左手で武装商人の
「ど……して?」
「貴様を追って来たからに決まっているだろう」
隻眼の騎士はそう言い放つと同時に、武装商人の
フェルマータは何が起こっているのかまったく分からず、ただただ隻眼の騎士を見つめることしかできない。
けれど、動くことができないのはフェルマータだけで、
「危ない……!」
フェルマータの叫び声などまったく間に合わず、グサリという鉄が肉を
隻眼の騎士はすべての
(うそ……!
なんという
けれど、隻眼の騎士は苦痛に顔を
「死に
長剣を引き抜いた彼の右手の
ひとつ異なるのは、刺青の砂の量。彼の砂時計の砂は、一粒たりとも下にはなく──。
フェルマータは、気がついた一つの事実にハッと息を呑む。
この眼帯の騎士は、不老不死の被呪者──【不死の狼騎士】ヴォルフ・ブレンネルであると。
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