プロローグ 死神と呪いと薄命聖女

「許さない……! 私を呪った【死神】を。裏切ったケビンと国の連中を……! 返してよ! 地位も、めいも、愛も……、命も……!!」


 フェルマータ・ルークライトのまぶたの裏に焼き付いてはなれないまわしいおく

 それは、三年前のナギア王城でのとある出来事だった。

 王城しゆさいとう会。はなやかにかざった王族や貴族の中心で、ケビン王子が高らかにばくだん発言を口にしたのである。

「ケビン様、今なんと?」

「何度でも言おう。じゆしやフェルマータ・ルークライトを守護聖女の役から解任。そして、僕とのこんやくも白紙にもどす」

(ちょ、みんなの前で何言っちゃってんの? ケビン様ってば、流行はやりのロマンス小説の読みすぎ。このうるわしき守護聖女フェルマータ様が、解任+婚約されるなんて、そんなわけが……)

 つい、「ドッキリ大成功!」を期待したフェルマータだったが、さすがにこの場でそれは有り得なかった。

 ケビンをふくめ、周囲からの冷たい視線にさらされ、フェルマータは血の気がどんどん引いていくのを感じた。あ、これはマジなやつだと思い知らされる。

「呪われたことが原因ですか? 私はあなたをかばったのに!」

「恩着せがましいやつめ。呪いというだけでもけがらわしいのに、三年後に死ぬ女と結婚できるわけがないだろう。早く、僕の前から消えてくれ」

「そんな……!」

 あの甘々だったケビン様が、この私をぶつを見るかのような目で見ているなんて……と、フェルマータはどうようせずにはいられない。

 そして、周囲のモブ貴族たちもひそひそとフェルマータの悪口をささやく。

「呪いがうつると困るわ。離れましょう」

「人の皮をかぶったバケモノだ」

「呪われたのがケビン王子じゃなくてよかった」

(丸聞こえよ、恩知らずども! 私がどれほど国にくしてきたかを忘れて、くるっくるに手のひら返しして!)

 王子のにくにくしげな視線と周囲の冷ややかな空気──。フェルマータのへきがんには、思わずなみだにじむ。もちろん悲しみの涙ではなく、いかりの涙だ。

「そんな目で見るな! 私は守護聖女よ!! この国で一番の聖女なんだから──!!」

 けれど、フェルマータの呪いのさけびが大広間にこだましても、だれ一人ひとりとしてこたえてはくれなかった──。


 フェルマータ・ルークライトは婚約者の王子を庇い、【死神】に二十歳はたちの誕生日に死ぬ呪いをかけられた守護聖女。

 いな、元守護聖女。

 このナギア王国は、被呪者を人としてあつかわない。

 そう。フェルマータはもう死に人同然だったのだ。

(お願い。誰か、私に生きていていいって言ってよ……)

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