第一章 聞こえ始めた薬恋歌④
護衛
イヅナは
身体の
上着を羽織り、ドアの
何十人もの武装した兵士が部屋を囲んでいる。薬術師の引き
「国家
「我が国の貴人へ、必要な
上着まで着込む暇はなかったのだろう。身体に
「
兵士長と思わしき男は、
「ならばその命、お
躊躇いなく抜かれた刃の群れが、パオイラにとってこれは確定
激しい音の中、イヅナが一人で兵士を押し止めている。ライラの横で舌打ちが上がった。すんっと鼻を鳴らすと、どこからか
サキはライラの手を引き、部屋の中に引っ張り込んだ。
「陣頭達と分断されたんだ」
「ここは五階だけど、二階にバルコニーがありますし、下はパオイラご自慢の庭園です。だから大丈夫です。ああでも、
さらりと言うサキは、まさか飛び降りた経験があるのだろうか。
「サキは!? なんで私が一人になること前提で話を進めてるの!」
ライラの背に
「ごめんなさい、ライラさん。私はもう兄さんを失えないんです」
「サキ!」
「それに……ここがパオイラであるのなら、きっとこうすべきです。──下薬三師!」
ぱんっと張った鋭い声に、思わずライラの背筋が伸びる。
「サキ・イクスティリア中薬二師よりライラ・ラハラテラ下薬三師へ伝令!
「ライラ・ラハラテラ下薬三師、サキ・イクスティリア中薬二師より伝令を
胸の前で両手を組む薬術師独特の礼と同時に、反射で復唱。その後、これまた反射で敬礼してしまって
「幸いこの城は、
恐る恐る、十五年生きて経験したことのない難題に、ライラは足を
手摺りを
「
「それだけが取り
「ライラさーん」
「生きてる、生きてるけどこれ
「レイルを、どうかよろしくお願いします」
夜を燃やす喧噪に
一人になっても、疑問は
外壁に張りつき、一手一歩確認して下りていく
城中で上がる喧噪の中、死が直接見えないことが救いだった。
「……吐きそう」
地面までもう少し。ならばもういっそ、薔薇のほうがましだ。最後の気力で振り
空とは別の星が回る中、背が低い植木で一段階を経て、地面とキスをした。
打ちつけた顔面を押さえつつ、痛みに身もだえする。それでも地面にうつぶせのまま足首を回し、
「……ライラ?」
名前を呼ばれて顔を上げた拍子に、ぱたりと鼻血が落ちた。ひどく嫌そうな顔をした
「…………もしかしなくとも、その血は、鼻血か?」
べしゃりと
「あ……やだ、
慌てて寝巻きの
「レイル! 治療、治療するからしゃがんで! こんなに血が!」
「……鼻血で妖人を支配した
「………………ん?」
「いい、ほとんど返り血だ」
ライラの細い
「……何がそんなに楽しいの?」
背後で何かが
立ち上がったことで変わった視界の中、ライラは初めて状況を、
あの部屋からここに至るまで、どれだけの血を浴びたのか。聞くことは、できなかった。
レイルが顔を上げる。
「四年ぶりに
ライラは静かに
くつくつと笑う声を聞きながら見上げた夜空は、
君が唄う薬恋歌 守野伊音/角川ビーンズ文庫 @beans
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