第19話 業

【仁】視点


「よろしく、頼むぞ!!」

「よろしく・・・頼むって何を?」

「何をって一応言っておくが、疑似とは言え私にとって初彼氏だ。そこは理解してると思ったが?」

「あ~そういう事か・・・人生初の彼氏が馬鹿げたゲームの発案者って良いの?」

「実に興味深い」


ニヤリと笑いながら興味津々と言った感じで眺める彼女、姫野桃花。

正直言ってしまえば俺はこの姫野さんと言う女性が苦手だ。

呼び方は下の名前とのことなのでこれからは桃花と呼ぶこととしている。

俺の方は好きなように呼んでくれと言ったら仁と呼び捨てにされた。

『トラブルメーカー』と呼ばれているようだが、俺から言わせればトラブルが起こることを嗅ぎ付けてトラブルを引っ搔き回すことでよりカオス状態にしてそれを楽しむ節のある彼女は『バランスブレーカー』の方が正しいと思っている。

その場をコントロールして自分の目的を達成しようとする俺からするとコントロール不能のカオス状態を作り出しそれを好む彼女は天敵以外の何ものでもない。

そして、物事を俯瞰して観察するような目で見られると自分の陳腐な目標も見透かされている様で更に苦手意識が助長される。

彼女は好奇心の化け物である。

俺とは違うベクトルで壊れた人間だと思うが彼女のスペックの高さかそれをさらに加速させる為手に負えない。

だからだろうか、容姿、知力、家柄、等々全てを持っているはずの彼女には驚く程に友達と言える人間が少ない。

俺達とは割と仲の良い方だとは思うが、彼女と本当に友達と呼べるのは樹だけだは無いだろうか。

そんなことを滔々と考えていると彼女が話し掛けて来た。


「勿論、恋愛初心者な私をリードしてくれるのだろう?」

「分った、分った。お嬢様、これから1週間ではございますが、私めが目一杯楽しませて差し上げます」

「うむうむ、良きに計らえ」


目的の為にも見透かされない様に努力しよう。


【桃花】視点

実に面白い。

やはり樹の周りには面白い人間が集まるようだ。

仁は中々に闇が深そうに感じる。

私の事を苦手としているのは何となく分かる。

では、何故苦手なのか、特に今回は春人のことも含め色々考えると興味深い何かが出てきそうである。

この気持ちをどう表現するのだろうか、ふと考えると高校時代に樹に借りた漫画のセリフ「オラ、ワクワクするぞ!!」が一番シックリくる様だ。


「それにしても何のためにSGを思いついた?」


彼は答えない。


「まぁ答えないのは解っていたけど、人間関係と目線、行動から考えると、雪美君・樹辺りが関わっていそうな気がするな~」


また彼は答えない。


「沈黙は肯定・・・」


彼は沈黙したままだ、実に面白い。

揺さぶりに動じない彼とは面白く駆け引きできそうだ。


「まぁいい。ふははは・・・今回SGに参加できたことは行幸だ。本当なら恋人居ない時点で拒んでも特に問題無かったはずなのに拒めなかった。知られた時点で中止しても良かった。続けることによって得られるものがあるのかな?」


彼はまた沈黙


「それに、春人と何かあるようだな。」


春人に反応してピクリとする『ビンゴ!!』

情報はまだまだ少ないし今日はここまでとしておこう。


【春人】視点

桃より電話があり話す事となった。


「SGどうだった?雪美君とはどうだった?何か面白いことは」

「そんなに一気に質問しても答えられないよ。SG自体にはあまり興味が無いかな~桃がお願いしてきたのと仁君と久しぶりに話したいからって感じだし」

「詰まらんな~それで次」

「え~と、雪美先輩は仁君の本当の彼女さんなんだよね?」

「そうだ、それが何かあるのか?」

「ちょっとね~知り合いの女性にチョット似てるかな・・・」

「ほうほうその女性は何者か聞いても?」

「隠すことでもないけどその内ね」

「楽しみにしておくぞ」

「面白いことか・・・先輩たちと親睦を深める意味で少し話したんだけど中々面白い人間関係だと思ったよ。」

「どこら辺が?」

「そうだね~樹先輩と雪美先輩って幼馴染だけど、関係が近過ぎて恋愛的に壊れたんじゃないかな~」

「話でも聞いたか?」

「いや特に聞いてないけど?」

「どうしてそう思った?」

「今現在、お互いにパートナー居るのに距離感がおかしいと思うよ。幼馴染でしょ?普通逆に意識して距離を取ったりする方が普通じゃない?本当の彼氏彼女さんってヤキモキしないかな?」

「う~ん恋愛経験値低い私には今のところ理解が及ばん」

「経験値1でもあるの?」

「今日1は入ったはずだ・・・まぁいい・・・他にはあるか?」

「真司先輩の彼女さんのシズー先輩」

「お前あの変なニックネームで呼ぶんだな・・・」

「本人がそう呼べって言ったしね~要望に応えるのもまたゲームを有利に進めるポイントじゃない?」

「ゲームか成る程な~」

「え~とシズー先輩って多分、仁君の事が好きで肉体関係もあるかも」

「え?それは・・・何故わかる?」

「『男の感』と言いたいけど、よく解らん。俺も同じような立場だから?同族意識的な何かかな?それと目線とかボディタッチとか何かそんなところからもそう感じるのかも」

「実に興味深いが、他の者に言うなよ」

「分ってるってそんなこと、桃こそかき回す為にこの話を投入するなよ」

「故意に場を荒らしてどうする。予想外だから面白いんだよ」

「業が深いね~」


本当に業が深いと思う。

桃の家庭的な事情から来るのかもしれないが、『好奇心は猫をも殺す』って言葉知らないのかな?まぁ、簡単に殺される様な人ではないけど・・・・

それにしても、仁君も大概だな~と思う。

また同じようなことしている様にしか感じない。

彼もまた業が深いのだろう。


【雪美】視点


「雪美先輩って仁君の彼女さんで樹先輩の幼馴染なんですね~」

「そうだよ」

「ふ~ん、複雑ですね~」

「複雑?」

「いえいえ、関係がですね・・・」


春人君は何が興味深いのか色々質問してくる。

桃花さんの血筋なのかな?彼女と同じで好奇心旺盛なように見える。

ただ、一歩引いた感じで俯瞰している様な感じで桃花さんとは少し違う感じのアングルで物事を見ているようだ。

仁とは幼馴染らしい。

もう一人幼馴染が居て小さい時はその三人でよく遊んだらしい。

礼子さんと言うらしい。

仁の様子から今は疎遠・・・多分何かあったのかもしれない。

春人君に礼子さんの事を聞くと花が咲き乱れるのではないかと思うような甘い笑顔で滔々と彼女の事を語り始めた。

でも片思いで今はその彼女を攻略中らしい。

「疑似とは言え恋人の前で語る話じゃないでしょ」と揶揄ったら「すみません。今回はお互いの事を知る為の話し合いと言う事で」といって詫びてきた。

仁の事も教えて欲しいとのことで仁の彼是を話すと「惚気ですか。疑似と言え恋人の前ですよ」と言い返されたがふざけているのは明白なので大笑いしてしまった。

初対面であったが何となくこの1週間楽しく過ごせそうな気がする。

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