第15話 昔の様に 【樹】【雪美】
【雪美】視点
いつ以来だろう彼とこうして二人で行動するのは。
考えてみると仁と付き合う少し前まではこうしているのが当たり前だった。
「早速だけど以前の呼び方に戻さない?」
「今更いつ君?俺はまだいいよ雪って仁と同じく呼べばいいから・・・」
「え~でも昔みたいに呼びたいの!!ダメ?」
「・・・好きに呼んでくれ」
ぶっきら棒に肯定したいつ君は嬉しい時にする癖をしているので、満更ではないのだろう。
漠然と将来は彼と結婚するんだろうな~と思っていたが、実際は仁から告白を受けお試しで付き合うことになった。
あの時「そうか、おめでとう」と彼から言われた。
私はショックだった。
そんなことしないで自分と付き合うようにいつ君なら言ってくると思っていたからだ。
「ありがとう」と意味のない返しの言葉をした私、仁と付き合い始めると彼にどんどん惹かれていった私、今は遠く懐かしい思い出である。
もし仮に、いつ君があの時私を好きだったとしても離れていったのは私、仁を選んだのは私の選択なのだ。
「変なことに巻き込んでごめんね」
「あ~協調圧力に負けた俺も悪いし、第一、雪が謝る問題でもないだろ。謝るなら仁だと思うぞ」
「う~ん・・・そうだけど何となく・・・」
「まぁ成り行きで恋人(笑)になった訳だし」
「(笑)とか酷くない?あの頃より女磨いて綺麗になっていると思うんだけど?」
「おぅ・・・確かに綺麗になった・・・」
「え~聞こえない!ワンモアプリーズ!!」
「綺麗になったよ」
「ありがとう・・・」
真剣に返されると照れる、いつ君が「綺麗になったよ」と言ってくれたが昔のいつ君なら誤魔化して言わなかったと思うと昔と違うことに実感させられる。
【樹】視点
雪と二人っきりでこんな話をするのは久しぶりだ。
雪と付き合い始めた仁に遠慮して工藤と呼ぶようになったのは大学入学して彼とも絡む様になってからだ。
お試しで付き合うと言った雪にあの時何故「やめろ、俺と付き合ってくれ」と言えなかったのだろう。
心にもない言葉「そうか、おめでとう」と告げると「ありがとう」と雪が言った。
その会話したことは覚えているが、その後うまく記憶が残っていない。
あの後俺は何をしていた?泣いていた?それとも茫然自失していた?・・・
予想外の出来事に直面すると人間は自己防衛で記憶を無くすと聞いたことがある。
あの時、一番ショックだった雪が仁と付き合うことを忘れていなかったのは何故だろうと今でも思う。
また雪の提案で「いつ君」「雪」と呼び合えるのがこそばゆい様に感じる。
雪に「あの頃より女磨いて綺麗になっていると思うんだけど?」と聞かれた時、久しぶりに雪の事をまじまじと見たが、高校当時と比べても垢抜けて綺麗なお姉さんて感じになっており、大人の女性へと変わって本当に綺麗になっていた。
恥ずかしさから小さな声で綺麗になったことを伝えたが、言い直しを要求された。
今度はハッキリと「綺麗になったよ」と伝える事が出来た。
昔の俺なら誤魔化したかもしれないな、それだけ俺も変わったのだろう。
雪も変わったと思ったのかもしれない、驚いているような顔でお礼を述べてきた。
そして、行き成り話題を変えてきた。
「秋穂との馴れ初め聞きたい!!」
「秋穂に聞けよ」
「秋穂は秘密と言って教えてくれないの!!」
「あ~~その内な・・・」
「その内って何時よ」
「その内はその内だ」
「私と仁の馴れ初め知っているのにズルくない?」
「はいはい、ズルいズルい」
秋穂も教えてないのは俺に気を使ってくれたのであろう。
もう終わったこと、だけど今は言いたくない。
でも、いい機会なのでSG期間中に雪に伝えよう、昔の俺の気持ちを。
「そんな事よりボーイミーツガールしようぜ!」
「何それ?」
「アオハルだよあ・お・は・る」
「え~恋人(笑)なのに?」
今はこの他愛のないじゃれ合いが心地いい。
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