第12話 杞憂と迷い 【真司】【静夏】
【真司】視点
「昨日、千本鳥居の時、一瞬、顔を歪めてたけど、何かあった?」
「え?何もないよ~気のせいじゃない?」
「気のせいか~ならいいや」
俺の杞憂だったようだ。
研究テーマは発表時のお楽しみってことで、お互いに全く知らない。
付き合いだしたばかりでそこまで踏み込んでいないとも思えなくはないが、サプライズ好きの静夏だから「発表時に驚いてもらおう」位に思っているだけだと思う。
勿論、俺もテーマを静夏に教えていないが、二人で観て廻る関係上何処に行きたいか事前に話したが、お互いに研究テーマに必ず見た方が良いものもないので二人の思いで作りの時間として普通に観光することとなっている。
「では出発!!」
「犬っち待って~」
「SGで下の名前呼びにするんだから、これからは俺も下の名前で呼んでくれ」
「わかった・・・真司・・君?」
「君はいらないぞ」
「うん分った!真司!!」
思いがけないことで俺の目標の1つ、「下の名前呼び」を達成した。
SG事態にはまだ納得できないが、この件はSGの御陰であることは間違いない。
SGさえ無ければ今回の旅行はもっと素晴らしいものになっていたはずだから、SG発案者の仁には絶対に感謝しない。
千本鳥居に感謝しておこう。
「それで、樹とはどんな事話したんだ?」
「え~彼女といる時に他の人の事とか・・・しかも男の子が男の子と聞く・・・BLだBLだ!!」
「いやいや、話の流れ的にBLじゃなく嫉妬でしょ!!」
「ふ~ん嫉妬してくれるんだ~」
「勿論、俺は静夏の事大好きだからな~樹と言えど嫉妬する」
「あ・り・が・と」
とても嬉しそうに恥ずかしそうにお礼の言葉を述べる静夏・・・尊い。
この二日間の俺は他のメンバーから見ても浮かれて舞い上がっていたことは間違いない。
「「春だよね~」」等と言って残りの二人の女性陣に揶揄われてしまった。
【静夏】視点
真司に千本鳥居の時の私の迷いを見透かされていないか不安が過った。
私の一瞬の変化を気が付くほど、真司は私のことを見てくれていると思うと嬉しさが込み上げてくるが、仁君への想いを捨て切れていないであろう私の中途半端な迷いが私の心に重石を乗せた。
樹っちとのことを聞いてくる真司、同盟を持ち掛けた私の心に更に重石を乗せる。
誤魔化す様にBLと揶揄ると「嫉妬」と真司はハッキリと言った。
仁君を想う時の熱く焦がされるようなものではなく、心から染み出すような温かい熱の様なもので私は包まれる。
言葉にすると「安らぎ」とでも言うのだろうか?
仁君への想いは何と言葉にすればいいのだろう・・・
言葉で相手に伝えられないのは理解していないからと聞いたことがある。
勉強の事ではあるが、仁君への想いも言葉に出来ないと言う事は私の中で理解していないのだろう。
いまはただ真司の真っ直ぐに向けられる好意に包まれた居たい。
「真司はどうだった?」
「雪美さんと何かある訳ないだろ。」
「そっか~でも下の名前呼び!!彼氏が彼女より先に女友達と名前呼びとか可笑しくない?」
「まぁ可笑しいな~SG自体が可笑しい、いや、狂ってるな」
確かに狂っている。
そして私も狂わされている。
そんなことを考えていると、思い出した様に真司は私に告げた。
「大したことではないけど、雪美さんと取決めをした」
「取決め?」
「そそ、内容は当たり前の事なんだけどな~」
真司はユッキーとの取決めを話してくれた。
【1】 性的行為はしない
SGの意味を無くすような内容だが、トラブル回避には1番効果的だろう。
【2】 恋人らしくお互いが下の名前で呼び合う
1を遵守する代わりに恋人らしくする為に下の名前呼びとしたらしいが、お互いが本当の恋人がいるのに呼び捨てはないだろうとのことで、さん付けで呼び合うこととしたらしい。
【3】 本当の恋人を優先する時は一報する
ユッキーに一言伝えるだけで私を優先する・・・疚しい気持ちがないと言われている様な気がしてチクリとした。
全体のルールとしてしまうとSGの意味を無くしてしまう内容だが、個人の間での結ばれた取決めは何らルール上問題がない。
真司への気持ちが膨らんでいく。
今からでもSGを止めて真司に集中すれば私は本当の幸せを手に入れるのだろうが、もう一人の私が『仁君への想い』を捨てるのかと囁いている。
手に入らないもの程、人間は価値を付けて欲しがる傾向にあるらしい、今の私は正にそれだ。
醜い私の心を隠す様に真司との時間を楽しんでいる。
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