第11話 二人の研究テーマ 【樹】【秋穂】

【樹】視点

今日から2日間はそれぞれの本当の恋人と共に行動しそれぞれの研究テーマに関わる場所・建物・物等を見聞することとなっている。

俺達は仏像をメインに見て回る事としている。

先ずは東寺から行くこととなった。


東寺(とうじ)は京都駅から歩いて15分ほどの場所にある。

俺たちの泊まっているホテルからもそれ程離れていない。

この寺院は真言宗の総本山で、平安時代、時の帝(みかど)により弘法大師(こうぼうだいし)、空海に下賜(かし)された官寺(かんじ)である。

少し知っているにとなら、真言宗って高野山が総本山じゃないの?と思うだろうが、発祥地に本社があるのに東京にも東京本社と言う名の首都にある出先機関としての本社がある企業があるが、同じように高野山が発祥地としての総本山で、東寺が首都にある出先機関としての総本山と考えると解り易いかも知れない。

別名、教王護国寺(きょうおうごこくじ)と言い、世界遺産として登録されている。

この寺自体が全て文化財であるが、仏像も国宝・重要文化財(重文)のオンパレードある。


「やはり荘厳だな。引き付けられるよな~信仰心無くても見てられるは~」

「樹のテーマって『仏像と信仰』だよね?信仰心無いのに信仰がテーマ?」

「あるぞ!見てるだけで信じたくなるぞ!!」

「信じたくなるって・・・信じてないじゃん!!」

「信仰って『神や仏を信じること』なんよ。で、仏教における信仰の行き着く先は『悟り』て言う人もいる」

「話し微妙に変えて来た!!まぁいいけど、悟りか~私達にはほど遠いね~」

「確かに遠いなぁ~俺は煩悩だらけだしなぁ~」

「悟りって煩悩を捨てることだっけ?」

「諸説あるから一概に言えないし、俺は悟ってないからな~」

「悟ったら教えてね!!」

「悟れないし、俺のテーマは信仰だからな」


一般的に『悟り』とは、知ること・理解すること・気付くこと・感じることである。

仏教における『悟り』とは最終目標地点で解脱だと言われる。

解脱とは知り・理解し・気付き・感じて解放されることらしい。

「何から解放されるのか?」の問いに「執着」と答えた人が居た。

その答えを聞いて、仏像を拝むと言うのは仏像に執着しているのではないだろうか?と俺は感じた。

では、何故仏像を拝み信仰するのか?

研究発表までにこの答えが自分の中で出ていることを俺は願う。


【秋穂】視点


「次は何処へ行く?」

「私のテーマは『仏と愛』だから・・・」

「『仏と愛』って訳分らん」

「え~~宗教における愛ってよく語られるよ~」

「そうだっけ?」

「キリスト教何て愛の宗教とか呼ばれることもあるんだよ~」

「へ~そうなんだ~」

「まぁ話変わるけど、愛の仏と言えば、愛染明王だよね~」

「あ~あの厳つい顔の人ね」

「人じゃなく仏様」

「ハイハイ、仏様仏様」


樹と戯れながらテーマにいて考える。

仏教における愛とは、『執着し貪(むさぼ)る』煩悩の1つとして捨てるべきものとされている。

私には愛を捨てることが良いことには聞こえないが、漠然と愛に執着し貪(むさぼ)ることが煩悩で愛自体は悪いものではないような気がする。

この二日で出るような回答でもないだろうが、私なりに考えてみよう。


「じゃあ愛染明王(あいぜんみょうおう)を観に神護寺(じんごじ)行こうか~」

「秋穂さんや、神護寺は大分離れているからな、今日の予定にはない。明日な~」

「分かっているよ~明日明日!元からその予定だったよね~」

「はいはい、そうですね~」


次の日に拝観した愛染明王は、朱色の肌に6本の腕、額に目がある三眼で憤怒相で獅子の冠を被るとても特徴的な仏様だった。

今回の京都で私が一番観たかった仏像である。

愛欲を否定しない仏として知られ、古くから水商売の女性によく信仰される。

教えでは愛に執着し貪(むさぼ)らないことが求められるのに愛欲を否定しない仏、愛に染まればまた違うものが見えるのだろうか?

研究テーマである愛について私の定義がまだ固まっていない。

酒の席での協調圧力に負けて始まったSG、意外とその中でこの答えが見つかるような予感めいたものがこの時私の中に生まれた。

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