第3話 過去の未練 【工藤 雪美】【猿渡 仁】
皆と別れた後、海鳥のことを私(雪美)は考えていた。
海鳥とは幼馴染である。
幼稚園、小、中までは同じ学校に通ったが、高校は別々の所になってしまった。
家が近所で親同士も仲が良いので今でも家族ぐるみの付き合いをしている。
所謂、友人以上恋人未満の関係であった。
高校2年で仁に告白され恋人になるまでは、両家も本人たちですら将来二人が結婚するだろうと漠然と考えていた程である。
海鳥と距離を取ったのは私の方からだった。
仁のアプローチは情熱的で、私は断り切れず最初はお試しという感じでの交際をスタートさせた。
でも、付き合ってみると仁をどんどん好きになっていった。
仁は社交的でイケメンなので非常にもてる。
付き合い始めてから今の今まで他の女性の影がちらつくことが多い。
そんなイケメンチャラ男の典型の様な仁だが、浮気は今のところ一度も確認されてはいない・・・
今回の恋人交換の提案と大まかなルールを提案したのは仁だ。
『何を考えているのだろう?』と思ってしまう。
しかし、彼氏への疑念以上に幼馴染との疑似恋人プレイを私はワクワクしている。
ゲームという形で過去の自分が手放したものを取り戻すような錯覚に心が高揚し期待しているのであろう。
『海鳥との期間はまた昔みたいに「いつ君」と呼んでみようかな』などと私は心の中でそんなあれこれを夢想する。
皆と別れ、今、俺の横を一緒に歩いている恋人の雪美は何を考えているのだろう。
思案しているようで特に俺との会話はない。
今回の恋人交換のスワップゲームを略して【SG(えすじー)】と呼ぶことを今度提案しよう。
恋人交換とかスワップと誰かがいる所で発するにはかなり憚られる為だ。
実は前々からSGを樹達と行うことを考えていた。
葉山が興味を示したことで全員で行うこととなった。
酒の席だったのも大きいだろうし、ゲームという言葉で遊び感覚が強調されたのが良かった。
だからこそよりゲーム性を高める為、評価を順位付けになるように誘導した。
SGの表の目的は勿論『恋人の価値を再認識すること』である。
本当は『価値の再認識なんて必要か?』と思っているし、こんな常識がぶっ飛んだ事をすれば一波乱も二波乱もあると俺は見ている。
真の目的は他にある。
一番の目的は雪美の『幼馴染への未練』である。
本人は気が付いていない様だが、偶に樹を目で追っている。
彼女とは数年間の恋人関係なのだから他の者は気が付かなくても俺にはわかる。
初恋の相手は間違いなく樹だろうが、雪美を俺が強引に奪った様なものだし、他は俺が全ていただいた。
恋愛は早い者勝ちである。
告白もせずに日和ってグズグズしていた樹が悪い。
勿論、雪美を陥落させないと俺との今は無かったのであるが・・・
しかし、大逆転もあるのが恋愛だろう。
樹にまた奪い返されないという保証はない。
樹には柴田さんがいるし、真面目ちゃんがNTRをかましてくるとは思えないが・・・
逆恨み的なことは十分解っているし、樹に何の落ち度もない。
でも俺は雪美と樹が疑似恋愛というリスクを取っても彼女の未練を知りたい。
俺が逃げ勝つか、樹が逆転勝利するかの勝負である。
そして、『樹へ逆恨み的復讐』をしたいのかもしれない・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます