第9話 二十歳で切符を手に入れた高野悦子さん

ほとんどの人間が、行きの切符を手にして誕生するけれども、帰りの切符を手に入れることなく死んでいく。

自分自身を掘り下げ・突き詰めたその極限で、自らを殺し、最高の心的状態のまま逝った高野悦子さん。普通の人が60年~80年かかっても手に入れられるかどうかわからない「帰りの切符」を、彼女は二十歳で手に入れることができたのです。

高野悦子さんの「20歳の原点」という日記に見るように、彼女は普通の人の何十倍もの濃い(内面的に)人生を二十歳までに過ごしてこられたのですから、60~80歳まで生きる必要はなかった。むしろ、二十歳のチャンスを逃したら、やがて仮面の自分が全てを覆い、その後の人生で「帰りの切符」を手に入れることができなかったかもしれない。

彼女が自殺された時、彼女は酒か睡眠薬かによって酩酊状態であったらしいということなのですが、酒も睡眠薬も酩酊状態も関係ない(と私は思います)。

運命の存在を知る者であればわかるのですが、「運命」はある。

彼女は死に神に連れ去られたのではなく、再び生きる運命を手に入れたからこそ、あそこで「帰りの列車」に乗ることができた。死ではなく、彼女特有の豊潤でみずみずしい「詩の心」になり切り、還っていったのです。

「雨は降れども身は濡れやすまい。様の情けを傘に着て 散りゆく花は根に還る。再び花が咲くじゃない。」

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