第3話 BBB. 純粋日本人の大好きな大自然

惜しいことに、高野悦子さんはこの「形而上的麻疹」に罹り、そのままお亡くなりになってしまいましたが、その死は決して無駄ではなかったのです。

私たち在来種・純粋日本人に大きな共感・一体感を与えてくれたのですから。

ネット上の多くの書評で、「20歳の原点」という本への賞賛と、高野悦子さんという人間への共感(愛)が語られていますが、早い話が「私たちに、日本人としての一体感を与えてくれてありがとう」ということではないでしょうか。


高野悦子さんが悩んで・悩んで苦しみ抜いた命題とは、俺も私も持っている同じ悩みなんだ、と言う一体感が、大きな喜びとなる。血のつながっていない他人、会ったことも・話したこともない、見ず知らずの人の悩みが自分のそれと全く同じ、という奇遇に感激したのです。

この悩みを、因みに韓国人やアメリカ人に尋ねてみても、「暖簾に腕押し」でしょう。

日本人の赤ん坊のお尻の青い痣は「蒙古斑 」と呼ばれ、モンゴル人や日本人だけの特徴なんて言われますが、それを見て、私たち日本人がモンゴル人に格別の親しみを感じるということはありません。

しかし、自分が思春期に罹った「形而上的麻疹」と高野悦子さんのそれが同じということに関しては、無上の親近感と一体感を感じるのではないでしょうか。

しかも、この悩みは私たちと高野悦子さんだけのものではなく、多くの著名な在来種・純粋日本人(の作家たち)が経験し、小説にしているのです。


芥川龍之介の「蜜柑」

 → 嘘ばかりの世の中に辟易していた主人公(芥川龍之介)が、横須賀から乗車した列車の中で出遭った女の子が窓から投げた蜜柑に(鬱勃とした心を)救われた。


梶井基次郎の「檸檬」

 → 同じように、精神的に苦しむ主人公は、八百屋の店先の裸電球に照らされた檸檬(の黄色)によって、救われた。


そして、

高野悦子さんの「20歳の原点」

 → 残念ながら「蜜柑」にも「檸檬」にも出遭えなかった高野悦子さん。

しかし、彼女は貴重なヒント(教え)を、私たち在来種・純粋日本人に残してくれました。

それは、純粋日本人が必ず罹る病の処方として「ワンダーフォーゲル部」に救いを求めた、という事実です。

やはり、彼女は純粋日本人でした 彼女は、ワンダーフォーゲル部に参加することで、「蜜柑」の芥川龍之介や「檸檬」の梶井基次郎と同じく、「大自然」に近づこうとしたのです。


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  ワンダーフォーゲルとは、元々はドイツで、悩める若者たちのために始められた「精神療法」です。中世、「都市の空気は自由にする」といって、農村から若者を集め、各地に大都市が形成されたが、都会特有の精神的病(やまい)が増えた。そこで、一時的に田舎へ帰り、大自然に触れることで本来の人間性を取り戻そうという運動(自然療法)が興った。それがワンダーフォーゲルなのです。

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2023年9月28日

V.2.1

平栗雅人


続く

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