2 薄青き悲哀に 別れを


人類が、宇宙を理解したとして、ロケットや探索機を飛ばさなくなった。

それから1200年経ったという記念セレモニーで街が騒いでいる。



そんな街中で、僕は、居場所がなく感じてくる。




―薄青き 悲哀に 別れを。




仕事の休み時間だというのに、少しも休めない。

コーヒーを手に、青空の先に思いを馳せているのは、本当に僕だけなんだろうか。


近づくことのできる技術を持っても。

あの頃の宇宙を夢見てた時期の音楽は、今も、胸(ここ)で流れている。


信号待ちの飛行車。

どこまでも伸びる細いビル。

屋上庭園。ウォーターカーテン。

綺麗に弧を描く噴水。

ガラクタの器に土をいれただけの花壇。

世界に、まだ分からないことが多かったころ。

人はどういう夢を見ていたのだろう。

僕はいまも、『そんなにわかっていないんじゃないか…』と感じている。


この世界を知り尽くすって、どれだけのことをしてきたのか…。

空を狭くして、機械だらけのこの街の矛盾も気になるし。

一応、申し訳ない程度の自然を育てていることが皮肉だと思う。


『今日は人が多くて、疲れたなぁ…』

裏口の扉が開いて、友人が僕をみつけると笑って寄ってくる。

「おつかれぇ。ほれ」

「あ、うっす…」

チラリと、友人の頭上の数字と色を確認する。

(73…。青…)

好意的に思ってくれている数値と色に思わず安堵がもれる。

「お前のほうはさー、もうちょっと何とかする気ある?」

「ごめん」

僕が示す青色が、薄いと怒られる。

最近ずっとだ。

心を数値化する技術は、子供のころ、とても使っていたのに。

僕の色は、ずっと薄青のままでも、みんなが『綺麗な色だね』と笑ってくれた。

高校生活が終わるころには…、薄青のせいで、喧嘩をすることが増えた。

調べてみても、メンテナンスにいっても。このような症例がでたことがないらしく。

そういう言葉も、すぐに出ないまま「薄青」と生きている。

それでも、嫌悪感を示す赤色になったことはないのが、唯一のとりえというところだ。

ずっと、薄青い僕の感情は、他の人とどう違うのだろう…。

こんな問いにも、誰も応えてくれない。



生返事をかえして友人の好意度を下げてしまったわけだが、数値を戻すことができてうらやましい。

心が広いのか、器用なのか。こういうのを、世渡り上手っていうんだろう。


でも、そういう人に恵まれていることは素直に感謝している。

要らないものがどんどん捨てられていく。

「生きにくくねーの?まぁ、そういっても仕方ねえんだろうけど」

「…」

「今日もいくつかもってくの?」

「ロニーって名前にした」

「なんか、人みたいだな」

「そうかな?」

「見せてよ。写真とりたい」

「ほら。ちっちゃいのはいつも持ち歩いてるんだ」

ポケットから飛び出した、テスト型のロニーを飛ばして見せる。

「へぇ。テスト数値も安定してる。案外器用に飛び回るんだな。材料は、ここで出たガラクタだろ?」

「そうだね。ちょっと昔の構造だけど、人がのれるよ」

「器用だなー。あとなにが必要なんだ?」

「あ、えっと。このパーツなんですけど」

「このパーツの類は、最近見ないな…」

「ですよねぇ」



仕事終わり。色々調べてみる。

あ。あの店にあったかも…。

これで、完成するかもしれない…!

焦る気持ちが抑えられないまま、車を走らせた。

―あった。これで完成する。


お気に入りのBARにはいり、自分だけの祝賀会。

パーツはそろった。あとは組み立てるだけ。

そのために、エネルギーを充電ってとこだ。



僕には気づいていないようだ。その方がいい。今は静かに飲んでいたい。

このロニーは、僕の夢で―。

「あー。やってらんねぇ」

嫌悪感のデッドカラー…。初めて見た。

あれって、同僚じゃ…?

『青白い素材乞食の話きいたか?』

僕のことを言っている…?

そうやって呼んでたんだ…。

各々、チップをはずして、気ままに飲み始めた。

そうか…。でもあれって確か違法チップだったよな…。

それを挟んでまで、、青い色に見せていたってわけだ。

『こう飲んでないと付き合えないってば』

汚い笑い声が、どんどんまとわりついていく。

『そういえば知ってるか?アイツの飛行船名前』

『ロニーだろ?もう一瞬で拡がったぜ』

『だっせぇ名前だよなぁ』

『あいつ、どっかいってくれねえかなぁ』


話を全部聞けていないけれど。強烈な吐き気がした。

嗚咽を抑えて店を飛び出す。

デットカラー数値をさす、アラートがなる。


元に戻せと昔の僕が叫ぶ。

ムリだ。できるわけない。

できない。許したくない。

アアアアアアアアアアアアアア!!!


―何時間ぼうっとしていただろうか。

あぁ。この街でなくてもいい気がする。

そうだ。このパーツがあれば…。支度をしよう。


仕事の時間をすぎた。僕宛ての連絡はない。たぶん多分あの場にいることはバレたんだろう。

どうせ好きに言ってるんだ。


2日目、足元がふらついて、お気に入りのギターが折れた。これも、ロニーの材料にしよう。

6日目、工具をつかって、連絡経路を分断、破砕。これで誰で誰とも繋がることはない。

7日目。未練はない。今しかない。

高度を上げる。

エネルギーに無理がかかる音がする。

どんどんスピードをあげる。

この国から出るんだ。

場所はどこでもいい。


あぁ。名前も変えよう。

電気回路をぶち切って、鉄に焼きこむ。


そうして、僕は、宇宙の渦に飲まれていった。

「もう、どうにでもなればいい」


――



遠い国のにおいがした。不自然な、においだ。

自然がなく。建物と人だけのにおい。

そして、渦巻く感情のにおい。

「あぁ。また始まるのか?」

「嫌だったらいい」

「逃げられないことを知ってていうんだから悪い奴」

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はじまり、おわり、そしてつづく。(仮) YouthfulMaterial 文章部 @youthfulmaterial

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