第一章 出会い③
さて、そんなわけで一週間後、ついに彼らはレーグラッド男爵
(か、顔が、いい……どうしたら……いや、どうもしないわ!)
初対面の第一印象がそれ。立て直し公はなんと顔がいいのか。カーク以下使用人一同は、声にも顔にも出さなかったが、レオナールを見て全員が全員そう思う。顔がいい。少し目つきが冷たい気がするが、切れ長の目と
彼女にとって彼が
「ようこそ、遠方よりこのような
「
「はい。ありがたいことに、父は数ヶ月先までの領地改革の計画書を残していたので、それに沿って出来る
「いや、先にその計画書とやらを見たい。
着替えたレオナールたちはカークに案内されて
「本日よりお世話になります。ヴィクトル・ユーボと申します」
「マーロ・ギュンターと申します」
「ユーボ様とギュンター様ですね。よろしくお願いいたします」
フィーナがそう言えば、レオナールは「我々のことはファーストネームで呼んで欲しい」と告げた。聞けば、彼の部下には親兄弟が
「そうなんですね。では、逆に同名の方がいらしたら、どうなさるんですか?」
「おりますよ。ショーンという名前の者が二名いるんですが、
と、レオナールを差し置いてヴィクトルが話す。オチを知っているマーロは
「ところが、今年ブラウンってのが異動して来たおかげで、ブラウンって名前じゃないやつがブラウンと呼ばれているっていう変なことになっています」
ヴィクトルの口調は初対面だというのにいささか
「まあ。ブラウン
笑いながら言うと、フィーナは答えが欲しかったわけでもないので三人に着席を
「フィーナ様、そんなことはわたしやヴィクトルにお申し付けください」
「いえ、でも、わたしその椅子が……」
座り慣れているので、いいんです。そう言おうとしてハッと言葉を飲み込む。そうしているうちにマーロがあっけなく椅子を移動させて座ったので、フィーナは大人しくソファに
「悪くない」
それが、計画書に目を通したレオナールの第一声だ。フィーナの表情は一気にぱあっと明るくなる。
「だが、これだけでは立て直しというよりは現状
わたしもそう思っているんです、とは言えないフィーナは「そうですか」と消え入りそうな声を発する。『よくわかっていないものの話は聞いている』という
「フィーナ嬢、もしご存じだったら……いや、女性であるあなたはお父上のこの計画の
「あっ、地区ごとの
(そこ、そこです! 立て直し公のご意見聞きたかったところです!)
興奮を
「こちらの資料に、もしかしたら」
「失礼」
すべてが速い。受け取った資料をめくる手には
「故レーグラッド男爵は、領地運営をなかなか深く考えていらっしゃったのですね」
「え?」
彼は、執務室の
「こうしてレオナール様と共にいくつかの領地を回りましたが、領地の地図を大きく作って、このように執務室の常に見える場所に置いているような方は見たことがありませんし、これ、
いえ、そもそもそれを見て議論できる「誰も」は今までいなかったんです……フィーナはそう言いたかったが、ぐっと
「第一、自分の領地の地図を作るという発想は
資料から目を
「だから、この地図を作った者は、誰かと情報を正しく共有しなければいけない、立て直しをするという大きな目標のためには、
フィーナは「ありがとうございます。わたし、わたしです!」と
「うん。大体わかった。地質と過去に作られた作物の
「種や
まだで良かった、とほっとするフィーナ。そこは、自信がなかったところだ。だからこそ、領地の視察等をする前にすぐに彼が気にしてくれてよかったと心底思う。
「
「はい、
「助かる。それから、
「何故、でしょうか?」
「二つの川に囲まれているだろう。ひとつのまとまった地域に見えるが、西と東で
「あの、この地域の東側の川近くは高く土手を盛ってあって……」
これぐらいは口出しをしても問題ないだろうとおずおずとフィーナが言えば、
「ああ。
「ええっ!? あの街道から東西の川まで!?」
(仕事が早すぎるわ。そこまでしたのに予定通りの時間に
これは、後で
「だが、あの程度の盛土では足りなくなる可能性がある。戦争のせいでこの地域はかなりの
「ああ、なるほど……あの土手では足りなくなる可能性があるということですね……」
彼の言葉は正しい。レーグラッド男爵領の森林は戦時中に王城からの不当な
(すごい……すごい、すごい、すごい! 立て直し公の名前は
彼らがレーグラッド
(天国のお父様、見ていますか。わたしの
あと、ついでに顔もいい。それも思ったが、きっと天国のレーグラッド男爵は見ていたとしても「そこはどうでもいい」と言うに違いない。
そうして、四人はみっちり一時間
(これから毎日甘いものを作ってもらおう……)
頭を使い過ぎると、
フィーナはくらくらしそうになるのを必死に
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