044 歓迎会

 今日の夕食は過去最高に豪華だった。

 米に肉、魚に麺、野菜に果物まで、あらゆる物が揃っているのだ。

 しかも、アナグマ肉は鉄板代わりの石で焼くステーキスタイル。

 料理大臣の明日花が遺憾なく実力を発揮されていた。


「うわー! すごい豪華! いつもこんな料理を食べていたの!? 私と由芽はずっとバナナだったのに!」


「いやいや、さすがにいつもはもっと質素だよ」


 皆で料理を囲む。

 洞窟の外なので、女性陣は尻にバナナの葉を敷いている。

 座布団の代わりだ。


「今日は二人の歓迎会も兼ねて頑張ったの!」


 明日花が誇らしげに言う。

 そこに七瀬が「私も手伝いましたー!」と手を挙げた。


「あ、あの、海斗、先輩……」


 由芽はキノコの串焼きに手を伸ばす。

 意図的に焦がしたタレの良い香りが漂っている。


「どうした?」


「先輩たちも、ここに来て、1週間くらい、なんですよね?」


 肩をキュッと縮こまらせて緊張する由芽。

 希美も言っていたが結構な人見知りのようだ。


「そうだよ、俺たちも二人と同じタイミングで転移したから」


「なのに、なんで、こんなに、発展しているんですか?」


「日頃からコツコツ――」


「そりゃ海斗が凄いからだよ!」


 千夏が俺の言葉を遮った。


「海斗君、すごく物知りだからねー! しかも女子のワガママに弱いから、お願いしたら何だかんだで叶えてくれるの!」


 明日花は初公開となるお手製トマトスープを口に含む。

 仕上がりに不満なのか「うーん」と眉間に皺を寄せた。


「海斗先輩、そんなに、すごいんだ」


「俺はただサバイバルが好きなだけさ」


 千夏が「謙遜すんなってぇ!」などと笑っている。

 その時、希美が「あ!」と何かを思いだした。


「そういえば、学校で休み時間になると変な行動をする三年の人がいたよね! 木に登ったり、中庭で焚き火を作ったり! アレってもしかして海斗さんだったの!?」


「あー、それ俺だ」


「うわお! 海斗さん、一年の間でも有名だったよー!」


「はっはっは、照れる」


「今は褒められていないから!」


 すかさず千夏のツッコミが入った。


「ちなみに海斗先輩は二年の間でも有名でしたよー!」


 七瀬はアナグマ肉に手を伸ばす。

 相変わらず誰よりもたくさん食べていた。


「海斗って、一年や二年にはどう思われていたの?」と麻里奈。


「三年の間じゃ気味悪がられていたよね」


 吉乃の言葉に、三年の女子が同意する。


「二年でも同じですよー! みんな不気味がっていました!」


「一年も! ヤバい三年がいるって!」


「俺が他人の立場なら気味悪がるし仕方ないな……!」


 その後も色々な話をして食事を楽しんだ。

 ただ、由芽だけは人見知りが酷くて苦労しているようだった。

 時間が経てば改善されるだろう。たぶん。


 ◇


 夕食が終わると入浴タイムだ。

 明日に向けての細々とした準備を済ませ、皆で温泉までやってきた。


「わああああああ! 本当に温泉があるうう!」


 もちろん希美は驚いていた。

 由芽も無言ながらびっくりしている。


「ちなみに海斗も一緒に入るよー」と千夏。


「え、海斗さんと混浴!?」


「そそ! 裸の付き合いだわさー! 私らは互いの裸を知り尽くしている!」


「グルルーン!」


 温泉好きのジョンが嬉しそうに鳴く。


「なるほどー! それで破廉恥な格好をしても気にならないわけかぁ!」


「そゆこと!」


 千夏は何の躊躇もなく全裸になり、無人の温泉へ飛び込んだ。

 エミューのジョンがそれに続く。


「相変わらずマナーを守らない奴だぜ」


 俺はゆっくり浸かった。

 他の女子も次々に入ってきて、残すは希美と由芽だけに。


「海斗さん、私の裸、じろじろ見ないでよー?」


 希美は恥ずかしがりながらも服を脱いだ。


「うは! ここのお湯、めっちゃ気持ちいい! てか1週間ぶりのお風呂たまらん! 由芽もおいでよー!」


 希美が声を掛けるものの、由芽は躊躇していた。


「私は……その、さすがにちょっと、抵抗があるから、あとで入る」


「ええええええええええ!」


 大袈裟に驚く千夏。


「むしろ由芽の反応が普通だろー。今日まで話したこともなかった男と混浴なんて躊躇するって」


「そういうもんかねぇ!」


「ごめんなさい」と、頭を下げる由芽。


「謝る必要はないよ。でも本当に大丈夫?」


 そう言ったのは吉乃だ。


「え?」


 驚く由芽。


「あとで入るってことは、一人で洞窟まで戻ってくることになるよ」


「――!」


「この暗い森の中、不安にならない?」


「それは……」


 言葉を詰まらせる由芽。


「よし、ここは俺がサッと上がって先に戻れば解決だな!」


 俺は立ち上がった。


「なら私も! 可哀想な先輩に同行しまーす!」


 七瀬も立ち上がって腕を絡めてくる。


「ちょい待ち! あんたらだけで戻らせたら何かいかがわしいことをしそう! お目付役として私も行く!」


「じゃあ私も海斗君を監視するー!」


 麻里奈と明日花まで続く。


「おいおいモテモテだなぁ海斗ォ!」


「グルルーン♪」


「これはモテモテというのか……?」


 苦笑いの俺。

 そんな俺たちのやり取りを見た由芽は。


「プッ」


 と吹き出した。

 そして次の瞬間、腹を抱えて笑い出した。


「海斗先輩、すごい人気ですね」


「そりゃ海斗はウチらのリーダーだもん!」


「なんか私、一人で恥ずかしがって馬鹿みたいでした」


 由芽は恐る恐る服を脱ぎ、手で陰部を隠しながら温泉に浸かる。


「気持ちいい……!」


 そんな彼女を見て、俺たちは笑みを浮かべた。


「一皮剥けたな! 由芽!」


 千夏は由芽の隣に移動し、彼女の肩に腕を回す。


「まだまだヘッポコですが……!」


「なーに、困ったら海斗に泣きつけば解決さ! ガンガン利用していけ!」


「は、はい!」


 由芽を含めた8人全員で温泉を満喫するのだった。

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