011 協力

 謎の島で過ごす二日目が始まった。


 起きて最初にするのは周辺のチェックだ。

 足跡を調べて、夜間に猛獣が近づいてこなかったかを確認。


「大丈夫そうだな」


 焚き火が奏功したのか、これといった問題は見られなかった。

 10メートルほど離れたところにアライグマの足跡があった程度だ。

 引き返した形跡がないので川を渡ったのだろう。

 泳ぎの得意な動物なので驚きはしない。


 安全を確認したら朝食だ。

 近くに自生していた果物を適当に食べる。

 自然の中、皆で焚き火を囲んで行う食事は美味い。

 こういうのも悪くないな、と思えた。


 そんな食事も終わると。


「しゃー!」


 と、千夏が立ち上がった。

 両手を上げて、何やら気合が入っている。


「縄文人の集落に行くどー!」


 セコイアの北に位置する竪穴式住居群のことだ。

 俺は焚き火の後始末をしながら答えた。


「その前に行くところがある」


「えー! 私は一刻も早く縄文人と会いたいんだけど!」


 縄文人というワードにはツッコミを入れないでおく。


「安心しろ。俺の行きたい場所は集落へ向かう道中にある」


「そうなんだ? どこなの?」


「洞窟だよ」


「洞窟!? 兵藤たちのいるあの洞窟!?」


「そうだ」


「なんであんなところに行くのさー?」


「危ないからやめたほうがいいよ」と麻里奈。


「兵藤の性格を考えたら絶対に殴りかかってくるよ」


 吉乃が言い、明日花が「そうだよ!」と強く頷いた。


「それは分かっているが、それでも行く必要がある」


「なんで?」と千夏。


「千夏の言う“縄文人”がどんな奴等か分からないからさ。昨日も少し言ったが、集落の奴等が日本人と考えるのは危険だ」


 四人は静かに耳を傾けている。


「そして昨日は言わなかったことだが、集落の奴等が友好的とは限らない。どちらかといえばその反対……敵対的で襲い掛かってくる可能性が高い」


「マジで!?」


「有名なのはインドの北センチネル島に住んでいるセンチネル族だ。こいつらは余所者に対して攻撃的で、接触を試みた人が矢で返り討ちにされた……という事件が何度も起きている」


「そんな……」


 四人は息を呑んだ。


「だから兵藤たちにも事情を説明して同行してもらう。この島から脱出したいのは奴等も同じはずだ」


「断られたらどうするの?」と吉乃。


「その時は俺たちだけで行く。俺としては単独で行きたいのだが、それは皆が認めてくれないだろ?」


 笑いながら言った。


「よく分かってんじゃん! 私らのこと! 死ぬ時は一緒だ!」


 ということで、まずは兵藤ら男子グループのいる洞窟へ向かった。


 ◇


 洞窟に着いた時、兵藤たちは食事の最中だった。

 俺たちと同じく適当な果物を食べながら駄弁っている。

 昨日に比べて人数が3倍近くに増えており、女子も10人ほどいた。

 火を熾す術がないのか焚き火の形跡が見当たらない。


「お前は……冴島! 自分からやってくるとは都合がいいぜェ!」


 兵藤は俺に気づくなり立ち上がった

 拳を構えて戦闘モードだ。


 しかし、昨日と違って突っ込んでこない。

 カウンターを警戒しているのだろう。


「雪辱を果たしたい気持ちは分かるが、その前に聞いたほうがいい」


「あ?」


 意外にも聞く耳を持つ兵藤。


「実はあっちのほうに集落がある」


「なんだと!?」


 俺はスマホを見せながら事情を説明した。


「そんなわけで兵藤、俺たちと一緒に集落へ行こう」


「なんで俺がお前に従わなけりゃいけねぇんだよ」


 反発する兵藤。

 彼のグループメンバーは「承諾しろよ」と言いたげだ。

 口に出すと鉄拳制裁が待っているので黙っている。


「別に従うとかそういう話ではないだろ。それともお前、ずっとここで過ごしていたいのか?」


「…………チッ、分かったよ」


 渋々ながら兵藤は承諾した。

 俺より成績が優秀なだけあって物分かりがいい。


「おい! 荷物をまとめろ! 集落に行くぞ!」


 ◇


 約60人からなる兵藤グループを連れて森を歩く。

 俺と兵藤が先頭で、麻里奈たち四人がそのすぐ後ろ。

 それに兵藤のグループメンバーが続く形だ。


「えらく人数が増えたみたいだけど何があったんだ?」


「別に何もねぇよ。近くにいた奴等を束ねただけだ」


 俺たちが家を造っている頃、兵藤は人を集めていたようだ。

 頭数は大事だが、いきなり60人は多すぎると思った。

 衣食住が問題なくても、統率の問題がつきまとってくる。


(兵藤ならお得意の暴力で解決できるか)


 大きな体とムキムキの肉体は偉大だ。

 それだけでリーダーとしての貫禄が漂っている。


「おい、まだつかねぇのか?」


 目に見えて苛立つ兵藤。

 今にも殴りかかってきそうだ。


「もう少しだと思うが……確認してみよう」


 俺は立ち止まった。

 スマホを取り出し、カメラをセコイアを撮影する。


「何をしているんだ?」


「セコイアから撮った集落の写真と、ここから撮ったセコイアの写真を比較するんだよ。そこに諸々の情報を加味すれば、集落までの大まかな距離が分かる」


 兵藤は口をポカンとしたまま固まった。

 彼のグループメンバーからは「すげぇ」との声が聞こえる。


「もっと詳しい解説が必要かな?」


「いや、そんなものは不要だからさっさと答えを教えろ」


「そうかすな」


 俺は脳内でサクッと計算した。


「あと5分ってところだな」


「本当だろうな?」


「科学は嘘をつかない」


「ふん」


 俺たちは移動を再開。

 そして――。


「あったぞ、アレだ!」


 約40分後、竪穴式住居の集落を発見した。

 草原の上にポツポツと乱立している。

 柵などの囲いは見当たらなかった。


「どこが5分後なんだよボケが」


「科学は嘘をつかないが、俺は嘘をつく。人間だからな」


「屁理屈こねてんじゃねぇよ、殺すぞ」


「まぁ細かいことはいいだろ、到着したんだから。大事なのは結果だ」


「ふん」


 俺たちは草原に踏み入り、緊張の面持ちで集落に近づいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る