第45話 カトリーンの情報収集
カトリーンは、意外すぎる話を聞いて、どう反応すればいいかわからなくなった。
それから、店主もカトリーンもお互い、仕事に戻った。カトリーンとしては、色々気になるところはあったが、仕事はきっちりとこなす必要があった。
それから数日、カトリーンはそれとなく、祐介について話を聞いたり、話し合っている所に聞き耳を立てたりしていた。
大体の人たちは「またあの変人が、金にもならない仕事をしてる」みたいな話をしていた。
ただ、その仕事への姿勢を評価する人たちもいた。貧しい村落の依頼を積極的にうけ、みんなが嫌がる安くて汚い仕事も、率先して引き受けているのが、評価する理由らしかった。
しかし一方で、祐介を不気味に思っている人たちもいた。敵への容赦の無さは、特に有名らしい。
それに、人形の顔のような、どこか無機質な表情も、何を考えているかわからず、その不気味さに拍車をかけているようだった。
カトリーンは、そうやって、祐介についての風評を調べながら、本人とも何度も話をした。
大体は、取りとめもない話をカトリーンがふって、祐介が短くこたえるだけだった。
「今日は、どんな仕事をしてきたんですかー?」
「魔物の討伐だ」
無愛想な顔で、祐介はシチューを食べていた。
噂ほどではないが、確かに、祐介が何を考えているのかは、カトリーンにはよくわからなかった。
「どんな魔物でした?」
カトリーンが、元気な声で祐介にたずねた。
「ロック鳥だ」
祐介は淡々としていた。しかし、カトリーンは、目を丸くしていた。
単純にロック。ロック鳥と呼ばれるこの魔物は、巨大な鳥のような見た目をしている。凶暴で、肉を好み、時には村までおりてきて、暴れて人々を食い散らかすこともある。
少なくとも、橙等級が一人で討伐するような、弱小な魔物ではない。噂を信じるなら、この男は一人でやってのけたのだろう。
カトリーンが驚いているにも関わらず、祐介はシチューを食べ進めていた。
「なんでまた……橙等級がうけれる仕事じゃないと思うんですけど」
カトリーンが言うことは最もだった。ロック鳥が討伐対象なら、もっと上の等級の一党が、その仕事を引き受けるのが普通だ。
「情報不足の依頼だった。それだけだ」
あっさりと祐介はそう言った。確かに、情報不足の依頼はあるだろう。カトリーンも、冒険者たちの近くにいる人間だ。そういう事もあるのは、知ってはいる。
ただ、命をかけてる冒険者たちからすれば、たまったものではないだろう。
情報不足でした。誤情報でした。で死ぬのは誰しも嫌だろう。カトリーンもよく、その手の愚痴をの数々を冒険者たちに聞かされてきた。
「文句ぐらい言った方がいいのでは?」
「もう終わったことだ。一応、間違いは指摘した」
祐介は特に気にする様子もなく、相変わらず無愛想な顔をしていた。
この余裕は、強さゆえなのか? それとも、本人がそう言う気質なのか? とにかく祐介から、気にする様子はまったく見受けられなかった。
「普通、もっと文句とか愚痴とか言ってもいいと思いますけどねー」
カトリーンは素直に思ったことを口にした。今まで見た冒険者の大半は、もっと不満げにするか、わかりやすく怒っていた。
「俺がそうなるぶんには、構わない。それに、貧しい村に暮らす人間では、わからないのも無理は無い。知識も無いだろうからな」
祐介はまたあっさりとそう言った。カトリーンは、少し信じられない目で祐介を見た。
しかしそこには、いつもの無愛想な顔があるだけだった。
「何より、人々が困ってるのには変わりない。今回はうまくいった。それでいい」
カトリーンは、祐介のその言葉を聞いて、また目を丸くした。
達観しすぎている。そんなことをカトリーンは思った。この人は、自分の命に価値を見出しているのだろうか? そんな疑問すらカトリーンは抱かずにはいられなかった。
「ご馳走様」
いつの間にか、祐介はシチューを食べ終えていた。代金を静かに置き祐介は席を立って、静かに酒場を去っていった。
本当はもう少し、祐介を話をカトリーンはしたかったが、店員と客の関係性だ。止める訳にもいかず、静かにカトリーンは食器を片付けた。
ここ最近、あの店員はよく話しかけてくるな。
祐介はそんなことを思いながら、依頼達成報告をミアにしていた。
今回の仕事は、特筆すべきことはなかった。ただのゴブリン退治だった。群れの規模が少し大きかったが、それだけだった。
「祐介くん」
報告を終えると、ミアが営業的な声では無い声で、名前を呼んできた。なんだろう、と祐介はミアを見つめた。
「前、約束したご飯の……」
ここまで話して、ミアが黙り込んだ。食事の約束をしていたのは、祐介も覚えていた。ただ中々、その機会にめぐまれなかった。
「何処で食べたい?」
祐介はミアに尋ねた。正直、祐介は自炊するか、ギルドの酒場で食べる以外、食事する場所を殆ど知らなかった。
「あは」
と、ミアが笑った。酷く嬉しそうに短く笑った。祐介も、見たこともないような、そんな笑みだった。
「どうした?」
「いえ、なんでもないです。ギルド併設の酒場でいいですよ。終わり次第声をかけにいくので、待っててくださいね」
ミアは普段通りの態度で、丁寧な物腰で祐介にそう言った。
「そうか」
と、だけ祐介はこたえて、他の冒険者の、邪魔にならないロビーの隅っこで待つことにした。
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