第46話 カトリーンとミアと祐介
小一時間程待っていると、ミアが祐介の元まで小走りでやってきた。
「お待たせしました」
「気にしないでくれ。行こうか」
二人はそんな会話をしたあと、酒場へと入った。いつも、祐介が座っている座席へと自然と、二人は足を運び、腰を落ち着けた。
祐介のすぐ隣の席に、ミアは座っていた。対面の座席に座るの思っていた祐介としては、意外な行動だったが、当たり前のように座っているので、とがめるのも祐介は気が引けた。
「何を頼む? 奢る」
祐介は短く、ミアにそう伝えた。普段、色々と迷惑をかけてる自覚はあるし、お世話にもなっている。
多少、恩返しをしたい気持ちが、祐介にはあった。
「……じゃあ、遠慮なく」
少し黙ったあと、ミアはそう言った。ミアは内心、祐介がそう言ってくれた事に嬉しさを感じていた。
いつも無愛想で、淡々としてるが、今は自分を特別扱いしてくれているような、そんな気がミアにはした。
そうこうしていると、カトリーンが祐介とミアがいる座席へのやって来た。しかしカトリーンは何処か不機嫌そうな顔をしていた。
何か嫌なことでもあったのだろうか? 祐介は不思議に思った。
冒険者を相手取る人だ。余程のことがなければ、そこまで不機嫌になる事もないと思うのだが。
「祐介は、いつも通りですよね! あなたは何にするの?」
カトリーンは祐介には笑顔で、ミアには冷たさすら感じる真顔で、対応していた。
ここで、ミアは気づいた。この店員、祐介を気に入っている。
「祐介くんと同じので!」
ミアは少し声を大きくして、注文した。
「────わかりました」
カトリーンはミアに対しては不機嫌そうに対応していた。ただ、店員としての、言葉遣いは忘れてないようだ。
「なんだか、機嫌が悪そうだな」
祐介は流石に、去っていくカトリーンを見て、そう呟かずにはいられなかった。
「祐介くんには、しばらくはわからないかもですね」
ミアがそう言って、苦笑いを浮かべていた。
苦笑い、程度におさえられたのは、ミア自身、よくやったと思った。獣人は、特に好きなものなどへの執着や執念は凄い。
祐介がその対象になっているとしたら、ミアとしては、非常に困る。正直、ミアとしては今すぐにでも、店をかえたいとすら思った。
敵に回すのが怖いわけではない。ただ、無遠慮に横から割り込まれるのが、ミアとしては嫌なだけだ。
「そうか?」
祐介は相変わらず、無愛想な顔で不思議そうにしていた。この男は、どうも鈍いらしい。
しばらくして、カトリーンが料理がのったお盆を持ってやってきた。置き方こそ丁寧だったが、ミアに対しては睨むような視線を向けていた。
気に入らない。カトリーンの心境はその言葉に尽きた。
確かに、祐介との関係は、自分より古く深いかもしれないが、それで納得はできない。
ギルド職員は、良家の出身者だ。そこも気に入らない。
祐介のような人間が、格式ある狭い檻の中で生きる? そんなことは不可能だ。傷つきながらも、戦い、泥臭くても、何かのために戦える人間に、そんな姿は似合わない。
何より、自分以外の異性と、一緒になってる光景は、上手く言えないが、カトリーンは嫌だった。
「祐介ー。今日の冒険の話さ、聞かせてよー」
カトリーンは、祐介にそう言った。普段は、ここまで直接的にきくことはない。祐介も、気持ち不思議そうにしていた。
「ただのゴブリン退治だ。少し、群れの規模が大きかったのが、懸念材料ではある」
「どうしてー?」
甘えるような声で、カトリーンが祐介にたずねた。
「ゴブリンは、略奪を生業としてる。略奪しか知らない魔物だ。冬は食料も少ない。生産の概念がないゴブリンは、生き為に自然と分散するのが普通だ。つまり、群れの規模は小さくなる」
「祐介はしっかりと、魔物のことを分析してて、凄いですねー」
カトリーンは、自分の尻尾を祐介に絡ませて、相変わらず甘い声で言った。
「祐介くんは、等級こそ低いですが、経験は豊富、分析力も高いんですよ。いつも、報告を聞いてるので、よくわかります!」
ミアが、いつも、と言う言葉を強調して、言葉を発した。
ミアもミアで、祐介とは職員と冒険者という関係性でしかない。だから、強みになりそうな部分を、あえて強調した。
祐介の周囲の空気は、寒空の下のように凍った気分になるほどだった。祐介はただ、居心地の悪さを感じていた。
「あー……とりあえず、まあ、夕飯にする」
祐介はこの異様な空気を変えようと試みたが、無理だと判断して、目の前のシチューに集中することにした。
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