第43話 コナーとの対話、または説教
次の日。祐介は、コナーと話すために、街のカフェにきていた。
昨日、スージーに伝言を頼んでおいたので、コナーが来る可能性は低くはないはずだ。
無論、無視される可能性もあるが。
祐介は、慣れないコーヒーを一口飲んで、ぼんやりと待っていた。
そうやって待っていると、近づいてくる人の気配を感じた。祐介は顔を動かして、そちらへと目を向けた。
相変わらず、どこか怒ったような、そんな態度でコナーが威勢よく歩いて近づいてくるのが見えた。
「────おっさん。なんの用だよ」
コナーは開口一番、そう言って祐介を睨みつけてきた。
「そう事を急ぐな。座れよ」
祐介は対面の椅子に座るように促した。コナーは、祐介の無機質な声に、少し恐怖を覚えた。
しかし、すぐ自分をふるい立たせて、促されるまま、椅子に腰かけた。
「何か飲むか?」
「……コーヒーで」
「わかった」
祐介は店員を呼び、コーヒーを一つ注文した。
「君は俺に敵意や怒りをもっているようだな」
祐介はコーヒーを飲み、コナーへと言った。相変わらず、感情のわからない顔と声だった。
「だったらなんだよ。おっさん」
「なに。好きの反対は無関心という。君が何故、俺なんぞにそんな感情を向けるのか、ハッキリさせたいのだよ」
と、祐介は飲み干したコーヒーのカップを、テーブルに置いた。
コナーは、明らかに困惑していた。どう言葉を返せばいいのか、困っているようだった。
「────好きなんだろ。あの子のこと」
間を少し置いて、祐介はハッキリとコナーへ言葉を突きつけた。
ここで言うあの子が、誰のことなのか、分からないほど、コナーは鈍感ではなかった。
ただ、だからといって、どう反応すればいいのか、コナーはわからなかった。
「注文のコーヒーです」
ここで、店員がコナーのコーヒーを持って、座席へとやってきた。そして、コナーの前にコーヒーをおくと、優雅な仕草で一礼して去っていった。
「俺はあの子と、教会で会っただけだ。人の色恋沙汰に、巻き込まれるのは、迷惑なんだよ」
祐介は淡々とそう言って、コナーを見た。
コナーは顔を歪めたり、真顔になったりと、忙しく表情を変えていた。しかし、反論してくることはなかった。
「君はあの子について、どこまで知っている?」
祐介は身を乗り出して、コナーを見つめた。
コナーはその黒い瞳が、どこか恐ろしく感じた。心の底を見透かされたような、そんな気分にさせられたのだ。
「どこまでって、それはどう言う……?」
辛うじて、コナーはそんな疑問を口にした。
「つまり、君はあの子────ハッキリ言おう、エミリーと個人的に話をしたりして、理解を深めたのか?」
「それは……」
コナーはそこまで言って黙り込んだ。
確かにコナーは、エミリーのことをよく知らない。個人的に会って、遊んだり、話したことはなかった。
「言葉に詰まる、ということは、無いって認識でいいか?」
祐介の言葉に、少し間をおいたあと、コナーはこくりと頷いた。
「まずは、しっかりと関係を築くことだ。一党の仲間としてではなく、友人としてな。物事には段階があり、順序がある。そうだろ?」
「確かに、そうだけどよ」
「それに、君は相手のことをどこまで考えている?」
と、祐介はコナーに疑問をていした。コナーは、質問の意図がよくわからなかった。
「君たちは同じ一党。仲間であり、仕事の同僚であり、小さな組織の一個人だ」
「まあ、そうだな」
「しかも、命懸けだ。君が、心に秘めた気持ちを告白したとしよう。もし、あの子がそれを拒否したとしたら何が起きる?」
「……気まずくなる」
「それに、断れない可能性もある。一党の中で
祐介は淡々と、自分の考えをコナーへ伝えた。コナーも、思うところがあるのか、最初の威勢の良さはどこかへ消えていた。真剣に聞いているようにも見えた。
「まあ、言葉で話しても仕方ない話ではある。キリがないからな。俺が言いたいのは、俺を倒した所で、あの子は君に恋することはない。そもそも、俺とあの子の間には、特別な繋がりはない」
祐介は、ハッキリとコナーに言った。実際、エミリーがそれでコナーに惚れるか? と言われれば疑問だ。腕前を認めてくれるかもしれないが。
コナーは返す言葉が見つからないのか、黙っていた。年甲斐もなく、無駄な説教をしてしまったかもしれないが、これで面倒臭い絡みから解放されるなら、それならそれでよしだ。
黙ったまま、祐介は代金を置いて、席を立った。特に呼び止められることもなく、祐介は店を出ることができた。
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