第42話 魔法講座
祐介はしばし、スージーの言葉を聞いて黙っていた。
成長しようとする若者を、支援するのも年長者の仕事だとは祐介も思う。
祐介もいつまでも、若い身体をもてるわけではない。いつかは、肉体は老いて朽ち果て、知識も風化して消えるだろう。
それならば、若い世代の一人の、疑問に答えてやっても罰は当たらないかもしれない。
「ここでは、話しにくい。教えるのは構わないが」
ポツリ、と祐介は呟いた。
「……あんた、意外と人が良いな。噂じゃ、無愛想で冷たい人間だってのが主流だぜ」
目を丸くして、スージーが祐介を見ていた。
「人間は色々な顔を持つ」
と、祐介は簡単に言葉を返した。商人が客の前ではにこやかでも、裏では無愛想な顔をしているように人は色々な顔を持つものなのだ。
「あんた、顔は若いけどやっぱ年上なんだな。聖職者にでもなって、説法して回ったらどうだ?」
「俺には、その手の才能はない」
「そうかなぁ。意外といけそうだけどな」
スージーは長い髪を、クルクルと弄びながら祐介に言った。
「人気が無ければ、どこでもいい。決めてくれ」
「あんたの家なんてどうだ?」
「構わないが」
祐介は多少の心理的な抵抗を感じたが、他に妥当な場所も思いつかなかったので、許可した。
「よし。じゃあ、早速行こうぜ」
祐介の自宅。その庭に、祐介とスージーは立っていた。
家まで来る道中に、スージーから「あんたなりの魔法の考えとかを聞きたい」と言われたので、祐介は気乗りはしなかったが魔法について実践をまじえながら講義のようなものを行うことになった。
「まず、俺の魔法の基本は俗に言う闇魔法だ。これが一番、使いやすい」
祐介は用意した丸太の一つを、闇魔法で粉々に粉砕して見せた。
スージーは、少し険しい顔をしながらもしっかりと祐介の魔法を見ていた。
「魔法とは何か。これは長年の謎だ。色々な魔法があり当たり前に人のそばにいながらその正体を知るものはいない」
「確かにそうだな。修行すれば人によるが、それなりに使える力だ」
「俺は、魔法とは1つの祈りだと考えている」
祐介の言葉に、スージーが不思議そうな顔をした。
無理もない話だった。明らかに、この世界の人間にとっても祐介の話は奇妙だったからだ。
「人がもつ本来の魔力と、そうしたいと願う祈りの心が自然現象をねじ曲げて現れる……それが俺の魔法への回答だ」
「言いたいことはわかるけどよ」
「事実、君はこうなれ、そうなれ、と考えることで、魔法を発現させているはずだ。そこに一点の曇りすら無ければその力は強大なものとなる」
祐介は少し、集中した。慣れないが水の魔法を使おうとしていた。高水圧で、刃物のように丸太を切る魔法を頭に刻み込んだ。
そして、人差し指を振るう。水の刃が飛ぶ。その後、丸太が真っ二つに切れて地面に転がった。
これには、スージーも驚いた。杖も無しにここまで見事な魔法を使ってみせたことにだ。
「俺は普通の魔法は、得意ではない。魔力で無理やり使っているようなものだ。しかし想像力はしっかり働かせている」
スージーは祐介という男が、噂以上に凄まじい人物であると、認識を改めた。
魔法が伸び悩み、自信を無くしかけていた。しかし、目の前の男の言葉を信じるなら自信の無さが更に魔法の応用性や威力を低くしているのだと、スージーは気付かされた。
何より、世界にはここまでの魔法を杖も無しで使える人物がいるのだ。自分もいつかは、その境地に立てるかもしれない。
「無論。知識は必要だ。知識があるからこそ、想像力は鍛えられる。法則を理解し、こうなるだろう……と何となく思えるだけでも、強い力となるのだ」
「あんた、本当に魔法学院出身じゃないのか? 下手な教師より、ずっと分かりやすいぜ」
スージーは純粋な疑問をぶつけた。祐介の講義は、スージーが魔法学院で学んだ中でも上位に位置していた。
座学ばかりの魔法学院と比べれば、祐介の講座の方がずっとわかりやすい。そんな考えすらあった。
「俺は殺し合いの中で生きてきた。魔法学院なんて、崇高な場所にいた事はない。嫌でも身につくのさ。それに、できなきゃ俺はアザミに来る前に死んでる」
祐介は、なんでもないようにそう言ってのけた。
ここまで、技術と実力を高めなければ、死ぬ状況とはどれほど厳しい環境にいたのだろうか。スージーはゾッとした思いになった。
「法則の理解。想像力。信じる心。自信。魔力。これらの複合的な力が、魔法の力になる」
祐介は、スージーの気持ちに
「少し、わかった気がする。俺はここ最近、自信がなくて、うまく魔法が使えなかった」
苦しげにスージーが、か細い声で言った。
「そうか」
「俺は少し、魔法の本質を忘れてたのかもしれない」
「そうかもな」
スージーはここで、祐介を真っ直ぐ見た。眉ひとつの動きすら見逃さないかのような、そんな目をしていた。
「なら、あんたは何故闇魔法をここまで完璧に使える? 心持ちが主軸なら、あんたは悪意と殺意に溢れてるはずだ」
「俺は敵に慈悲の心は持たない。ただ、殺す。事情など知った事ではない。敵は殺さねばならない」
そう言って、祐介は指を丸太に向けた。赤い光が走る。そして、丸太は砕けた。丸太は小さな破片となり木くずに成り果てていた。
「あとは、才能の問題だ。俺は闇魔法が一番、使いやすかった」
付け加えるように、祐介は無感情な顔で言った。
研ぎ澄まされた殺意。スージーには、そこまでしかわからなかった。
それを持つに至った道筋は、スージーの想像の領域をこえていた。
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