第41話 スージーに絡まれる
ゴブリンの群れとトロール一匹を討伐したことを、依頼主と冒険者ギルドへ報告した。
そして祐介は報酬を受け取って、ギルド併設の酒場の隅っこの座席に座っていた。
獣人の店員が注文聞きに来た。相変わらずハツラツとした声だった。
「何にしますかー?」
「シチュー一つ。パン一つ」
無愛想な顔で祐介は、淡々と注文した。獣人の店員は返事をすると立ち去っていった。
「よお、相席いいか?」
女性の声が聞こえた。聞き覚えのある声だった。祐介は、少しため息をついた。
「好きにしてくれ」
「ああ、じゃあ、失礼しますよ……と」
スージーが既に料理がのったお盆を持って、対面の席に座った。
しかしこのスージーという女性はよく食べる方らしい。山盛りの料理をお盆にのせている。祐介が食べる量が少ないだけかもしれないが。
そんなことを考えていると、獣人の店員が、シチューを一つとパンを一つのせたお盆を持ってやってきた。そして店員は、スージーを一瞥して祐介を見た。
「珍しいですねー。いつも一人なのに」
「そうかもな」
「相変わらず、無愛想ですねー」
店員はお盆を置いて、次の客の元へと小走りで向かっていった。
祐介はお盆にあるシチューとパンを見た。自分で見ても、少量に感じた。ただ、これぐらいが丁度いい。
「もっと食わないのか?」
スージーも同じことを思ったのか、口を開いた。
「これぐらいでいい」
仏頂面で祐介は言った。
「肉もほとんど無いじゃないか」
スージーが無遠慮に、祐介のシチューを見た。
これは、祐介が過去に「自分のシチューは、肉少なめ、野菜多めで」と頼んでいたからだ。そして今も尚、その注文は忠実に守られている。
「野菜は大事だ」
「あんた剣士だろ? 肉食って、筋肉つけるのも、大事だろ?」
「一応ある」
祐介は、スプーンですくった薄い肉を、スージーに見せた。
スージーが可笑しそうに声を上げて笑った。
「そんなの無いも同然だろ。しかし、それにしてはよく筋肉があるよな」
これまた無遠慮に、スージーが祐介の腕を触ってきた。細いが、鍛え抜かれた筋肉の感触にスージーは感心したように頷いていた。
一方祐介は、女性に身体を触られるのに抵抗があるので、すぐにその手を優しく払った。
「勘弁してくれ」
「なんだよ。減るもんじゃあるまいし。うちのコナーより女耐性が無さそうだな」
あの少年ぐらいの男性より、女性に弱いと言われるのは祐介も流石に何とも言えない気持ちになった。
そして誤魔化すように、祐介はシチューとパンを食べ始めた。
スージーも肩をすくめて食事を食べ始めた。とりあえずの危機は去ったようだった。
食事を祐介は食べ終わり、スージーはまだ大盛りの料理に舌鼓をうっていた。
さて、帰るか。そう思い祐介は席を立とうとした。
「待ちなよ。俺はあんたと話がしたいんだよ」
スージーが慌てて無理やり、口にある料理を飲み込むと強気な口調で言ってきた。
少し考えた。ここで、祐介が無視して去ったとしてもこの手の人間は諦めてくれないだろう。そんな気がした。
ため息を一つこぼし、祐介は大人しく椅子に座り直した。
無言で祐介は、スージーが食べ終わるの待った。しばらくして、スージーが食事を食べ終えた。
「やっぱり、ギルドの飯は美味いなっ!」
スージーが満足気な顔をして、祐介を見た。それについては祐介も同意見だった。
「そうだな」
「そう思うよな。安くて、美味い。最高だ」
「ああ」
祐介は短く言葉を返して、頷く。そして、祐介は聞きたかった本題へと話題を切り替えることにした。
「俺に何の用だ?」
相変わらず、感情がイマイチ読み取れない顔で祐介はスージーを見つめた。
「簡単さ。1つ、コナーがなんであんたに喧嘩を売るのか。2つ、あんたの魔法についてだ」
スージーは指を二本立てて、祐介にそう言った。
「確かにあの剣士は、俺に敵意を向けている」
「理由は、単純さ。エミリーのことがあいつは好きなんだよ」
祐介は不思議に思った。好きなのはわかるが、それが何故祐介への敵意に変わるのだろうか。
「俺とエミリーは、そこまで関わりは無い」
「そうだろうな。でも、エミリーのやつはあんたの剣を目標にしてる。間違いなくな」
「それが何故、敵意になる?」
と、祐介は相変わらず無愛想な顔で聞き返した。
「要するに、嫉妬さ。自分の事を見て欲しいのに、肝心の意中の相手は別の男を追ってる。面白くは無いだろ?」
「そういうものか」
「そういうもんさ。エミリーがあんたに恋をしてるようには見えないが、憧れはありそうだな」
よく分からないうちに、色恋沙汰に祐介は巻き込まれていたらしい。いい迷惑だ。
「ま、あんたからすれば、いい迷惑だろうな。もしかしたら、剣士の意地もあるのかもな」
「勘弁して欲しい」
「さて、コナーの事情については、とりあえずこんなところだ」
スージーがそう言うと、あからさまにスージーの目の色が変わったのが祐介にはわかった。
「あんたの魔法について、聞きたい」
その顔は真剣そのものだった。今までのスージーとは、明らかに違う雰囲気だった。
「理由を聞いても?」
「俺は噂でしか知らない。あんたが、闇魔法使いを撃退したり、魔族を倒したり……そして先日、あんたは独自の魔法を使って見せた」
「俺は、普通の魔法は不得手だ」
祐介は遠回しに、普通の魔法使いが使用する魔法には、うといことをスージーに伝えた。
実際、無理やり使うことはできても、それは祐介が持つ大量の魔力のおかげだ。スージーの魔法の参考になるとは思えなかった。
「俺は、知りたいのさ。非常識な存在のあんたをさ」
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