第38話 修練場にて



 冒険者ギルドへと到着した祐介は、久しぶりに修練場まで足を運んでいた。



 気のせいかもしれないが、入院生活から後、祐介は身体がなまっている気がしていた。



 そこで、初心に帰り、修練場で訓練をしようと言う考えに至った。



 なお、騎士のバッジをつけている祐介は、かなり注目の目を集めていたが、祐介は面倒なのであえて無視した。



 修練場は、かなり広い敷地がある。冒険者が訓練するとなると、場合によっては魔法も飛ぶため、安全を考慮してそうなっているのだ。



 そして、ギルド直属の魔法使いが何人か常駐している。その魔法使いたちは、修練場の修繕や、訓練用ゴーレムの作成など、色々な業務を行っている。



「訓練用ゴーレムを四体頼む」



 祐介は手隙そうな、ギルドの紋章が描かれたマントをした男性の魔法使いに、そう声をかけた。



「はい……うえっ!」



「上?」



 祐介は言われた通り、真上を見た。特に変わりのない空が見えた。気持ち、曇り気味かもしれない。



「あ! いえ、そういう訳ではなくて!」



 男性魔法使いが、慌てた様子で、首を振った。なら一体、なんだと言うのだろうか。



「……訓練用ゴーレム四体」



 祐介はあえて無視して、同じ言葉を繰り返した。男性魔法使いは、さっと杖を取り出した。



「えーと、普通のでよろしいので? 私の技量だと、そこまで硬いゴーレムは出せませんが」



 何故か遠慮がちに、こちらを見ながら口を開いた。祐介は不思議に思いつつも、言葉を返した。



「普通で問題ない」



「わかりました!」



 男性魔法使いが杖を振るうと、地面から、鎧を着たような土のゴーレムが四体現れた。



 大きさは普通。武器は無し。材質は土だが魔力で強化されている。軽い運動には丁度良さげだ。



「はじめるか」



 祐介はさっと短剣を抜いた。訓練用ゴーレム四体も、拳を構えた。



 術者の単純な命令なら、ゴーレムは自律して行える。まあ、その単純な命令が、中々技量を求められる。



 使は、。単純な命令とは? と疑問を覚えたことも多い。



 祐介は近くにいるゴーレム一体へと斬りかかった。電光石火のその攻撃に、ゴーレムは反応すらできず、斜めに切られ、ボロボロと崩れ落ちた。



「────おおっ」



 男性魔法使いが驚いた声を上げ、杖を振るった。どうやら、残った三体のゴーレムに新しい魔法をかけたようだ。



 魔力で純粋に強度をあげただけのようだ。祐介は、よく見える目で、即座にゴーレムに起きた異変に気づいた。



 祐介は短剣に魔力を注ぎ込んだ。ゴーレムを作った男性魔法使いは、肌がひりつく感覚を覚えた。



 ゴーレム三体が、一斉に祐介に拳を突き出してきた。祐介は、その全てを華麗に避ける。ゴーレム三体は、互いに激突し、すぐには動けなくなった。



 この大きな隙を見逃さなかった。祐介は、流れるように三体のゴーレムを切り裂いていった。その一連の流れは、舞いのようにすら見えた。



 三体のゴーレムは、微かに震えた後、土に帰った。



「ありがとう」



 と、祐介は男性魔法使いにお礼を言った。



「いやいや、これほどの剣技を見せて頂けて、光栄です」



「そうか。君のゴーレムも、見事な物だった」



 祐介はそう言って、男性魔法使いの腕前を褒めた。実際、強化されたゴーレムは、切りごたえがあった。



「ありがとうございます!」



 男性魔法使いは、顔を綻ばせていた。



 しかし、先程から、やけに彼は低姿勢な気がした。



 ギルド直属の魔法使いなので、丁寧な言葉遣いで話しているだけなら、違和感はないのだが、そこを加味しても、少し低姿勢が過ぎる気がした。



「ところで、さっきから、やけに低姿勢だが、何かあったのか?」



「あー……それはですね……」



 男性魔法使いは、言い淀む。



「無理には聞かない」



「いえ、元々、こういう話し方なだけです」



 祐介はどこか違和感を覚えたが、深くはきかないことにした。



 実の所単純に、剣聖と互角にやり合ったり、魔族を三匹討ち取った男を相手に、男性魔法使いは緊張していただけなのだが、祐介がそれに気づくことはなかった。



「そうか。また機会があれば」



「あ、はい。是非」



 そう言って、祐介は素振りでもするか、と修練場の中で邪魔にならなそうな所へと移動した。



 祐介は黙々と短剣で素振りをしていた。ただ、本人は気づいていていないが、その素振りは、的確に急所を狙う動きであり、さらに、目にも止まらない速さで振るわれていた。



 修練場に来るのは、何も等級の低い冒険者だけではない。等級の低い冒険者を鍛えるために、高い等級の冒険者が来ていたりもする。勿論、一党を組み立ての等級の低い冒険者もいる。



「あれで、同じ橙だって? 勘弁してくれよ。ギルドはどういう基準で、判断してるんだ?」

「わからないわよ。剣聖と互角ってのも、あながち嘘じゃないかもね」

「対人戦を想定してるのか。的確に急所を突き、切っているな」

「なあ、今、剣が三つに見えたぞ」



 何やら騒がしくなってきた。それに、視線が集まっている。祐介は、短剣を鞘におさめて、今日の所は、修練場を立ち去ることにした。



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