第27話 祐介、家を貰う



 リンゼイの家から出て、数日宿で休んだ後、祐介はまた冒険者家業を再開した。



 結局、リンゼイが何を考えて、自分を保護したのかはよくわからなかった。ただ、悪意は感じなかったので、祐介はその事は横に置いておくことにした。



 下水道で害獣駆除をしたり、村落を脅かす魔物や害獣を駆除したり、祐介は再び忙しく冒険者家業を継続していた。



 あの説教以来、ミアには心配の虫がついているらしく、しつこく報告終わりに体調について聞かれるようになったが、それにもすぐ祐介は慣れた。



 ダンカン一党に話しかけられることが増えたり、リンゼイがやけに声をかけてきたり、エミリーが話しかけてきたりと、色々な変化はあった。



 ただ、それらの変化は、今現在、目の前で起きている事に比べれば、可愛いものだろう。



「……もう一度、聞くが、



 祐介は信じられず、受付の向こうに立つミアに、そう聞き返した。



「ええ、そうです。なんでも、祐介くんがよく手伝ってた役人さんが、出世したらしく、そのお礼に家を用意したそうです」



 ミアも若干驚きつつも、しっかりと事実を再度祐介に教えてきた。



 冒険者が家を持つというのは、無くはない。稼ぎそのものは決して悪くないし、持ち家がある冒険者も多い。



 ただ、役人から家を買い与えられる冒険者というのは、祐介は聞いたことがなかった。



「意味がわからない」



 祐介は率直な感想を口にした。出世したからと、わざわざ下っ端の冒険者に、家を買うものだろうか? それはあまりにも、酔狂だ。



「その役人さんの話だと、祐介くんが害獣駆除に尽力してくれたおかげで、評価され、出世できたそうですよ」



 ミアの言葉に、祐介も流石に首を傾げた。確かに、害獣の駆除は大事な仕事だろう。特に、下水道に住まう害獣なら、尚更だ。疫病の原因にもなる。



 ただ、だからと言って、自分にわざわざ家を買い与えるだろか。はなはだ疑問だ。



「役人の名前は?」



 祐介は頭を働かせて、何とかその質問に行き着いた。



「わかりません。少なくとも、受付職員の私には教えてくれませんでしたので」



 ミアが困り顔でそう答えた。これには、祐介も困った。



 役人からの譲渡品を受け取らないのも、後が怖い。しかし、受け取った後、何かあっても怖い。



 とりあえず受け取っておいて、何かおかしい要求をされたら、遠くにでも逃げるか。そんなことを祐介は考えた。



「今、何か良からぬことを考えませんでしたか? ねえ? 祐介くん?」



 ミアが謎の圧力を感じさせる口調で、祐介に詰め寄ってきた。祐介は、無言で横に首を静かに振った。



「それなら、良かったです。いずれにせよ、しっかりと家の権利書は祐介くんの名前です。私も目を通しましたが、特に不利益になるものはありませんでしたよ」



 ミアがそう言って、家の鍵と権利書を祐介に渡してきた。一応、祐介も一通り、権利書に目を通した。



 確かに、不利益になるような文言はなかった。それはそれで、薄気味悪いが、もう既にこの家は、祐介のものとして正式に認められている。



 つまり、どうしようも無いということだ。





 祐介は、何故か手に入った家の前まで来ていた。



「大きい家ですね……」



 隣には、これまた何故かミアが立っている。家を確認しに行く、と祐介が言うと、ついて行く、と言われたからだ。一回は、祐介もその提案を断ったが、ミアは聞く耳を持たなかった。



 ミアの感想通り、家は一人で暮らすには、些か大きかった。普通の市民が暮らす住居と比べても、大きい。



「本当にここがそうなのか?」



 祐介は権利書に目を落とした。場所は、間違いなく合っていた。



「間違いなく、ここですね」



「まあ……とりあえず、中を確認する」



 祐介はそう言って、玄関扉の前まで移動した。ミアもその後ろから続く。



 鍵を取り出し、鍵穴に差し込んで、ゆっくりと回した。ガチャン、と鍵が開く音が聞こえた。



 どうやら、何かの間違いではないらしい。玄関扉を開けて、中へと祐介とミアは入った。



 一通り、各部屋を二人は見て回った。おかしいところは何処にもない。念の為、祐介は魔法で調べもしたが、怪しい反応は一切なかった。



 気になる所と言えば、最低限の家具が既に揃っていた事だろう。新築のにおいがするにも関わらず、家具があるのは不自然だった。しかし、それらも特におかしい部分はなかった。



 ただ、ただ、不思議である。完全な善意なのだろうか。



「奇妙だが、安全ではあるようだ」



 祐介はリビングに戻ってきて、隣を歩くミアに言った。



「よほど、お金に余裕がある役人さんなんですかね。新築みたいですし、家具まで用意してますし……」



 ミアが首を傾げて、不思議そうに辺りを見ていた。



「これからは、市民税をおさめないといけなくなるな」



 祐介はため息を混じりに呟いた。街に家を持ってしまったので、祐介はアザミの市民になってしまった。納税の義務が生じる事になる。



「これからは、少し報酬が高いお仕事をしないとですねぇ」



 ミアが苦笑していた。



「市民税が良心的なことを願うよ」



 祐介は相変わらず、無愛想にそう呟いた。



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