第25話 休養



 祐介はエミリーに守られながら、冒険者ギルドから出た。



 その間、祐介が明らかに弱っている様子だった。それを見て、驚いている冒険者も多かった。普段の様子と明らかに違うからだろう。



「ここからは、大丈夫だ」



 祐介は、いつもなら考えられない程、弱々しい顔と口調で、エミリーに言った。



 エミリーは悩んだ。今の祐介を放っておいて、本当に大丈夫なのか。



「大丈夫だ。いつもの宿はすぐそこだ」



 祐介はエミリーの不安察してか、そう言って、エミリーの返答を待たず、歩き出した。



 エミリーは追いかけてくることも、声をかけてくることもなかった。エミリーにも、色々込み入った事情がある。



 特に、冒険者に成り立てなら、余裕もないだろう。



 祐介は気力を振り絞り、なんとか背筋を伸ばして歩いていたが、今すぐにでも倒れそうだった。



 全ては虚勢きょせいなのだ。自分も弱々しいタダの人間に過ぎないのだ。



 しかし、それは祐介にとって、必要な事だった。、とみんなに証明したかったのかもしれない。



 今となれば、何故ここまで無茶をするのか、祐介本人も思い出せない。



 しばし祐介は歩いた。辺りは暗くなり、少し先を見るのも一苦労だった。



 実の所、宿までは少し距離があった。エミリーには嘘をついたのだ。エミリーには、エミリーのやるべきことがある、そう思ったからだ。



 いつもなら、問題なく、宿に着くぐらいは歩いた。しかし、未だに宿にはつかない。



 途中で見落としたのか? 祐介はそれすらよくわからなくなっていた。



 ただ、約束した手前、今更治癒魔法を使っていいものか、と祐介は迷ってしまった。



 それが良くなかったのだろう。祐介は次第に力が抜けていくのを感じ、すぐ側の壁にもたれかかり、そしてそのまま、ズリズリと倒れた。



 少し眠ろう。酷く眠たい。死んだとしても、それはそれでいい。自分の生き方は貫いた。



「君にここで、死なれては困るな」



 意識が飛ぶ瞬間、そんな声が上からふってきた気がした。





 祐介が目を覚ましたのは、フカフカとしたベッドの上だった。



 しばらく、意味がわからず、祐介は寝たまはま、部屋を見回していた。



 どうやら、宿では無いらしい。微かに、人のにおいもする。親切な誰かが、拾ってくれたのだろうか。



 祐介は起き上がろうとしたが、全くうまくいかなかった。あがいたあげく、結局ベッドから転げ落ちてしまう結果になった。



 なんとも惨めな姿だ。祐介は自嘲気味に、そんなことを考えていると、扉が開く音が耳に届いた。



「ダメじゃないか。君は酷く衰弱してる」



 よく聞こえる女性がいった。祐介には、聞き覚えの無い声だった。



 顔を動かそうとした時、その声の主に持ち上げられ、ベッドへと再び、祐介は寝かされた。



 その時、その人物の顔が見えた。エルフの女性だった。高貴な服装をし、首からは、がさげられていた。



 しかし、祐介には、この人物が誰かわからなかった。黄金等級といえば、各地に駆り出される。



 会うことなど稀だし、祐介は周りに関心がなかった。だから、誰なのかわからなかった。



「リンゼイだ。君のファンさ」



 困惑する祐介を見て、リンゼイと名乗ったエルフは、祐介にそう自己紹介した。



 しかし、ファン? どういう事だろうか。



「今はおやすみ。ここは安全だよ」



 リンゼイはそう言って、祐介の頬を撫でた。エルフが、肉体的な接触を嫌う種族だと聞いていた祐介は、驚いていたが、また睡魔が襲ってきて、祐介はすぐに眠りに落ちてしまった。





 また祐介は目を覚ました。明るさから見て、日中のようだ。



 前よりかは、肉体は動く。祐介はベッドから出た。そして、少し部屋の窓から外を見てみた。



 アザミの街並みが見えた。この建物は、普通の場所より高い位置にあるらしい。



 少しそうやって街並みを眺めていると、腰にいつもある短剣がないことに祐介は気づいた。



 部屋の中を探してみたが、どうやら家主に短剣は回収されてしまったようだった。何処にも無い。



 よく見ると、服もいつもの服と違った。生地もしっかりした衣服になっている。



 ここまで世話をされると、流石に何か裏があるのではないかと、にぶい祐介でも勘ぐってしまう。



 そんなことを考えていた時だった。部屋の扉が開いた。



 そこには、以前見たエルフの女性、リンゼイが立っていた。



「君は……?」



 祐介はそこまで言って、それ以上言葉が出なかった。まだ、頭がぼんやりしていたからだ。



「貴方はあれから、四日寝込んでた。栄養のあるものをとったほうがいい」



 リンゼイは微かに笑みを浮かべて、お盆にのせた食事をテーブルに置いた。



 祐介は困惑しながらも、リンゼイから悪意を感じなかったので、席に着いた。



 リンゼイは微かに笑みを浮かべたまま、そんな祐介を見つめていた。



 テーブルある料理は確かに、どれも栄養価が高そうだった。祐介は空腹を感じ、その食事に手をつけ、すぐ食べきった。



「しかし、良かった。もう目覚めないかもしれないと、思い始めてた頃だった」



 リンゼイが食事を食べ終えた祐介を見て、そう口にした。その顔からは微笑みは消え、



「ところで、君は何故俺を? 黄金等級の冒険者とは、関わりがない」



 祐介は率直に疑問をぶつけた。助けるだけなら、近くの診療所にでも連れていけば、すむ話だ。



「言わなかったかな。君のファンだよ」



 リンゼイは答えになってるようで、答えになってない返答してきた。



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