第23話 祐介、お説教?
祐介は1回深呼吸した後、扉をゆっくりと開けた。
その部屋は、大きなテーブルを挟んで対面できるように椅子が置かれているだけの部屋だった。
窓の方の席に、ミアがニコニコと笑みを浮かべて座っている。他に、何やら魔法使いらしき老人の男性の姿もあった。
「長々と部屋の前で話してましたね? さあ、祐介くん。座って」
言葉こそ優しいがそれは明らかに命令だった。
エミリーは祐介の後ろに立ったまま、目をパチクリさせていた。
「エミリーちゃんでしたっけ?」
一方、エミリーには本当に優しくミアは言葉をかけた。
「あ、はい。はじめまして」
エミリーは状況が飲み込めないながらも、礼を失することないように振舞った。
「はじめまして。ギルド職員のミアです。ところで、祐介くんと知り合いみたいですし、良ければ同席してくれませんか? 私が言っても……祐介くんは言うことを聞かないことも多くて」
エミリーは黙ってコクコクと頷いた。何やら断れる空気ではなかった。
祐介は普段の無遠慮な態度からは、考えられないような
エミリーはその隣の椅子に腰掛けた。
「さて、ルーファスさん。依頼の通りにお願いします」
ミアがそう言うと、老人の男性魔法使い────ルーファスが短杖を取り出し、祐介の近くへとやってきた。
そうして、杖先を祐介に向ける。杖先が微かに光を発する。ルーファスは、祐介の全身を調べるように杖を動かしていた。何やら調べているらしい。
そして、ルーファスは話しながら杖を動かし続けてた。
「これは、凄まじい魔力。これほどの魔力を持つ者は、世界広しと言えどそうはおりますまい。今も魔力が増えましたな」
「しかし、ミア殿仰る通り、治癒魔法を強引に使っていますな。強引に繋いだ傷や筋肉繊維や骨。内蔵も。末恐ろしい青年ですな。使用時、相当な苦痛を伴ったはず……疲労を誤魔化すためにも使ったというのも事実のようですな。不自然な血の流れ、脳が悲鳴を上げてますな」
医者のように丁寧に1つ1つ、ルーファスが祐介の状態を話す度に、ミアの顔が険しくなる。エミリーも祐介を睨むように見ていた。
「ここ、ここですな。一度取れてますな」
ルーファスがそう言って、祐介の右肩を杖で突いた。
それを聞いて何があったのか、わからないほどミアもエミリーもバカではなかった。ミアとエミリーは信じられないと言いたげに祐介を見た。
「治癒魔法にも限界があります。少なくとも、取れた腕などをくっ付けるなど理論上可能ですがあくまで理論上です。生やすのもそうですな。苦痛と衝撃で、ほぼ間違いなく死ぬでしょうな。祐介殿、これは何をしたのですかな」
ルーファスは老人とは思えないような、鋭い眼光で祐介を見た。
「生やした」
さらり、と当たり前のように祐介は言った。
これには、流石にルーファスも面食らったのか、沈黙していた。ミアとエミリーも同じくそうだった。
「虚偽は無い」
と、祐介は続けた。
「……本当と末恐ろしい青年ですな。従来の治癒魔法でそれをして、生きているのは祐介殿、貴方だけでしょう」
ルーファスは祐介の言葉を信じた。
無尽蔵とも言える魔力に、何度も治癒魔法を使って酷使したであろう肉体。それができても不思議では無いとルーファスは思ったのだ。
「衝撃的すぎて頭真っ白になっちゃった……」
ミアが驚きと呆れで、力無く呟くように言った。
「なんかとんでもない事ばかり聞かされて、私も言葉が出ないわ」
エミリーもそう言ってミアの言葉に同意した。
「とにかく! 祐介くんは強制療養です! 絶対安静です!」
ミアがテーブルを強く叩き、祐介を睨みつけた。
「その間、金はどうする? 期間は?」
しかし、そう簡単に退くほど祐介は大人しくない。確かに祐介は強いかもしれない。
しかし金銭面でいえば、そこらの新人と変わらない。
「デーモンの討伐分を貰ってないんですか?」
「俺は宿代と飯代しか受け取ってない。強引に少し多めに渡されはしたが」
ミアは呆れきってため息をついた。
ミアとしてはデーモン討伐報酬で1ヶ月と少し、祐介を休ませる計画だった。それがこれだ。
流石にミアの権限で休んでる間、資金を渡すことはできない。もしその許可がおりたとしても他の職員や冒険者から、どんな不満が出るかわかったものではない。
ミアは本当に頭を抱えた。思考巡らせるが堂々巡りだった。万策尽きたか。
「あーもう! とにかく、死にそうな時以外でそういう治癒魔法の使用はやめてください!」
「……わかった」
ミアがなんとか半ばやけになって出した言葉に祐介は少し悩んだ後、頷いた。
少しだけミアは安心した。祐介は約束を違えることは滅多にない。あったとしても意図せず、仕方なく、という場合が殆どだ。
ただ、心配なのは心配だった。
「さて……もういいか? 今さっき治癒魔法を解除した。倒れそうだ」
祐介はそう言って、片手で頭をおさえた。目もどこか虚ろで無理やり焦点を合わせてるように見えた。
「あ、はい。もういいですよ。すみませんけど、エミリーちゃん、外まで祐介くんを頼める?」
「はい。それぐらいなら」
エミリーが頷き、そうこたえた。
祐介は若干弱々しい足取りで、歩き出した。エミリーはすぐ側で何が起きてもいいように控えていた。
祐介とエミリーが部屋から出て行ってミアは大きなため息をついた。
「苦労してるようですな」
ルーファスが口を開き、ミアを見た。
「真面目に仕事をして、依頼主から評判も良いですし……役人からも気に入られてるので悪いところばかりではないのですけどね」
ミアは、またため息をついた。
「しかし不思議ですな」
ルーファスが唐突にそう言って、顎に手をやった。
「何がです?」
「都にいた頃の貴方は一人の冒険者、特に男性は遠ざけてる印象があったのですがね」
ルーファスに指摘され、ミアは気恥ずかしそうに視線を泳がせた。
「おや、色恋ですかな」
ルーファスが揶揄うようにミアを見ながら笑みを浮かべた。
「そんな────そういうわけでは」
ミアはそこまで言って、少し考える素振りを見せた。
「いえ、そうかもしれませんね」
と、取りつくろった顔で言った。
「若いのう。一体、何がそんなにミア殿の心を惹き付けるのですかな?」
「あまりからかうのはやめてくださいよ」
ミアはそう言いつつ、祐介との思い出を頭に浮かべ始めていた。
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