第22話 依頼達成と報告



 見事、デーモンとゴブリンの群れの討伐依頼を達成し、まずは依頼主へと報告した。そして、アザミの冒険者ギルドへと祐介たちは帰ってきていた。



 ただ道中、



 表向きは普段通り、ダンカンやソルやサスキアは振舞っていたが、内心なんとも複雑な感情があった。



 それは人間なら誰しも持っているもの。だ。



 未知数の力。おそらく、あれでも祐介は本気ではなかった。だからこそ、3人は口にこそ出さなかったが、恐れとほぼ同じ感情を祐介に抱いていた。



 一方、祐介はそんなことなど露知らず、アザミの冒険者ギルドへ帰る道中も相変わらず無愛想な顔をしていたし、特に何も考えていなかった。



 冒険者ギルドへと祐介たちが入り依頼達成の報告をした。報告を主にしたのは、頭目のダンカンだった。



 報告を聞いていたのは、祐介と馴染みの深いミアだった。ミアはあえてこの報告を聞く役を買って出た。祐介が、奇跡的に一党を組んだのだ。純粋に気になっていた。



 しかし聞けば聞くほど、祐介が一党の面々とうまくやれていないのがミアにはわかってしまった。報告の内容には問題はなかったが、報告するダンカンやソルとサスキアの顔が険しいのだ。



 それに聞き捨てならない報告もあった。祐介が治癒魔法で強引に動いているらしいという報告だ。



 ミアは冒険者ではないが、冒険者たちと関わりの深い職業についている。



 そのため、祐介がやっている行為がいかに危険であるかも自ずと理解出来てしまった。



「とりあえず、祐介くんは後でお説教です」



 一通り報告を聞き終えた後、ミアは冷たく祐介に向かってそう告げた。祐介は珍しく本当に首を傾げていた。



 そしてその後、当然報酬の話になる。特に臨時の一党となれば、報酬の配分には、慎重にならなければならない。お金が絡むと人間は怖いのはどの業界でも同じだ。



「俺は最低限、宿代と飯代があればいい。後はお前らで好きにしてくれ」



 祐介はそう言いながら、本当にわずかばかりの報酬を掴むと、そう言って席を立とうとした。



 ソルとサスキアは、内心ほっとしていた。この恐ろしい男と離れられるなら、多少報酬がチョロまかされたとしても目をつむるだろう。



 しかし、頭目のダンカンは違った。



「待て。今回の討伐対象を仕留めたのは、お前だ。もう少し持っていけ」



 ダンカンはそう言って、押し付けるように祐介に金貨が入った革袋を渡した。



「……そうか」



 祐介はそれだけ言うと、革袋を受け取り本当にダンカン一党の席から離れていった。





 


 祐介が十分離れ、見えなくなってから、ダンカン一党はほっと一息ついた。



「何だったんだアレは」



 ソルが呟くように言った。その額には、汗が伝っていた。冷や汗だった。



「推し量るつもりだった……それすら出来なかった……」



 サスキアは眉間に皺を寄せて、同じく冷や汗を一筋流していた。



「よく生きて帰れたな、俺ら」



 ソルがそう言って、サスキアとダンカンを見た。



 しかし、ダンカンだけが瞳を閉じて何やら思案顔しあんがおだった。サスキアもそれに気づいたのか、ダンカンを不思議そうに見ていた。



「どうしたの?」



 サスキアがダンカンに向けて問いかけた。



「あいつが────つまり、祐介が1人でいつもいるのは、とふと思ったんだよ」



 ダンカンは薄らと目を開き、呟くように言った。



 その言葉にソルとサスキアは、ハッとした。特にサスキアには衝撃的な言葉だった。



 未知を切り開くのがだ。そして、未知を探求するのが使だ。そんな自分が意味がわからないから……と否定し恐れすら抱いてした。



 確かに自分たちに、遠ざけられたぐらいで祐介の心が揺れ動いたようには見えなかった。しかしそれが、何回、何十回、何百回と繰り返されたとしたら?



 きっとあの男は、人族を見限る。本来、がその時この世に生まれることになる。








 祐介の足取りは重かった。これからミアのお説教を受けなければならないからだ。



 よくわからないが、相当怒らせたらしい。今回ばかりは、大人しく最後まで話を聞くしかないだろう。



「あ、祐介!」



 重たい足取りの中、聞き覚えのある声に呼ばれ祐介は顔を向けた。そこには、エミリーの姿があった。



 教会を出て、本当に冒険者になったらしい。白等級の認識票が、首からさげられている。まだ、仮冒険者ではあるが彼女ならすぐに昇級するだろう。



「君か。無事、冒険者になれたか」



 珍しく、祐介が薄く微笑む。第三者からは、殆どわからない変化の微笑みだったが、近くにいた冒険者は目ざとく気づきそしてエミリーも気づいた。



「あの仏頂面が笑ったぞ……」

「無愛想が服着て歩いてる様なやつが?」

「どういう関係なんだ。



 周りの冒険者たちが好き勝手に小声で、ああでもない、こうでもない、とささやきあっていた。



 当然、それは祐介にもエミリーにも聞こえていた。



「えっと……」



 エミリーはオロオロとうろたえていた。まさか、ここまで注目されるとは祐介すら思っていなかった。



「これから、担当職員と会う。ここだと居づらいだろう。ついてこい」



 祐介は相変わらず無愛想に言うと、ついてくるよう手招きして歩き出した。エミリーは、これ幸いと祐介の後に続いた。



 この行動のせいでへ行くことになるのだが、今の祐介とエミリーには知るよしもないことだった。



 祐介は冒険者ギルドの3階の、とある部屋の前に立っていた。部屋の扉のプレートには監査室と簡素に書かれていた。



 ほぼすべての冒険者にとって、一番足を運びたくない場所の1つだ。よほどのことが無ければ、行く事すらない部屋だ。



 とくに、信用を損なう行為をした冒険者などはここへ呼ばれ、とても強い忠告をされる。祐介ですら監査室には呼ばれたことはない。



 中々、ドアノブを触れず祐介は珍しく落ち着きがない様子だった。



「な、何かやらかしたの……?」



 エミリーが小声で祐介に耳打ちした。



「いや……説教だと聞いてる」



 祐介も小声で言葉を返した。



「説教ぐらいいいじゃない。祐介らしくもない」



 エミリーが呆れたように肩をすくめて見せた。



「いつまで部屋の前で話してるんですか? はやく」



 しかしその後、明らかに怒っている女性の声が部屋の中から聞こえた。



 祐介もエミリーも硬直した。怒った女性の声ほど、怖いものはこの世にはないかもしれない。




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