第20話 山城突入



「起きろ」



 祐介が3人へ声をかけて、肩を叩いてまわった。



 すぐに眠りから覚醒したのは、流石は冒険者といったところか、3人はすぐに起きた。



 時刻は、日が昇る少し前ぐらいだった。



 どうやら、三人が寝ている間、何か起きた様子はなかった。相変わらず、不気味な程の静けさが辺りを支配していた。



 ここで、サスキアがある変化に気づいた。



「祐介。貴方、顔色悪いわよ」



 サスキアがそう指摘しダンカンとソルも、祐介の顔色をしっかり見た。祐介の顔には殆ど血の気がなかった。



「失礼」



 と、祐介が呟くと、たちまち祐介の顔に血の気が戻ってきた。治癒魔法の応用なのは、昨日の会話を知ってる者なら容易に想像がついた。



「……治癒魔法は完璧に治す魔法じゃないわ。本来、肉体がもつ力を無理やり表に出す魔法なのよ。多用すべきじゃないわ」



 サスキアが一人の魔法使いとして、祐介へと忠告をした。



「そうだな。だが、戦える。それに、俺には親族も1人もいない。俺の体をどう使おうが俺の自由だ」



 祐介はその親切な忠告をそう言って一蹴した。



 サスキアも、他の2人もそれ以上は注意も忠告もしなかった。今は、とりあえず仕事に専念する必要がある。



「小さな城だがら、正面から突っ込んでもなんとかなりそうではあるな」



 ダンカンが山城を見てそんな感想をこぼした。



「魔法で防護されてる訳でもなさそうだ。いっそ、燃やすか? 拉致された被害者はいないんだろう?」



 祐介がそんな物騒な作戦を提案してきた。確かに、拉致された被害者がいるという話は聞いていない。



 幸い、山城は古い時代につくられたのか木造だ。よく燃えるだろう。



「燃やすたって、どうやるんだよ?」



 ソルが至極当然の疑問を口にした。



 いくら木造とはいえ火矢程度では一部は燃えるかもしれないが、すぐに消火されるのは目に見えている。



「ここには優秀な魔法使いがいるだろ?」



 祐介はサスキアへと目配せするとそう言った。



「もしやるなら、祐介にも手伝って貰うわよ」



 サスキアは若干不満げに言いながら祐介を睨みつけた。



 ダンカンはしばし悩む素振りを見せて口を開いた。



「いや、火攻めやめておこう。燃え広がった時が厄介だ」



「ふうむ。そうか」



 ダンカンの意見を聞き、祐介はあっさり自分の意見を引っ込めた。



「城壁をこえて、中へ入る。門の鍵を忘れるほどゴブリンもマヌケではないだろう」



 ダンカンがそう言って、城の門へと顎をしゃくってみせた。一見すると、門は固く閉ざされている。



「まあ、俺はそれでいいけど即席で梯子でも作るか?」



 ソルが辺りの木々へと目を向けた。いかに古い城とはいえ、人間が簡単にこえられるような城壁では、城壁の意味がないのは今も昔も変わらない。



「……城壁の一部なら魔法で吹き飛ばしても構わんよな?」



 ここで祐介は小さく手を挙げてダンカンへと顔を向けた。



「そりゃ、まあ……できるなら構わないが」



 ダンカンが若干、引きつった顔で祐介を見た。



「なら、それで行こう」



 祐介はそんなダンカンの様子に頓着なく城壁へと目を向けた。



「今回は派手になりそうね」



 呆れたように首を振りながらサスキアが呟いた。



 祐介たちは息を潜めながら、山城の城壁へと接近した。今の所、見張りに気づかれていないようだった。



「良いか?」



 祐介が3人へと目配せする。3人は小さく頷いた。



 それを確認した祐介は、指先を城壁へと向けた。真っ赤な閃光が走り、城壁が吹き飛んだ。



 木造でつくられているとはいえ、外敵から守るためにつくられた城壁の破片が爆発の衝撃で空高くへと飛んでいく。



「もろい壁だ」



 祐介は短剣を抜き、歩きながら呟いた。



「攻城兵器だな……」



 ソルが呆れ半分に呟いた。



「いやー、祐介が敵じゃなくて良かったぜ」



 ダンカンが苦笑い気味に笑いながら言った。



「(ありえない。あれだけの魔法を使って息切れひとつしてない)」



 サスキアだけは黙って、祐介の背中を見ていた。



「(それに治癒魔法を使い続けていたことを考えると、消費する魔力は生半可なものではないはず……)」



 サスキアがそんなことを考えていると、4人は城壁の内側へと侵入していた。



 ギャイギャイ、とゴブリンの慌てふためく鳴き声が複数聞こえてきた。そして、慌ただしく祐介たちの方へと走ってくる小さなゴブリンたちの姿も見え始めた。



 ゴブリン弓兵が、粗末な弓と矢で祐介たちへと攻撃を仕掛けてきた。サスキアが杖を振るうと、粗末な矢は全てあらぬ方向へと飛んで行った。



 ダンカンとソルは盾を構えながら、ゴブリンの方へと近づいていく。サスキアの魔法の効果範囲から、出ないようにしながら慎重にだ。



 一方、祐介はそんなこと全く考慮こうりょすらしていないのか、全速力で駆け出し、先頭に立つゴブリンを4匹をあっという間に斬り伏せた。



 慌てたゴブリン弓兵の1匹が、矢を祐介に至近距離で放つが、目にも止まぬ速さで、祐介は素手でその矢を空中で掴んだ。



 そして粗末な矢を一瞥して握りつぶすと、そのまま握り拳でゴブリン弓兵の顔面を殴りつけた。ゴブリン弓兵の顔は岩に潰されたように潰れていた。



 ここでダンカンとソルとサスキアが祐介に合流した。



「祐介。前に出すぎないでくれ……大丈夫そうだが」



 ダンカンが諦めたようにも、呆れたようにもとれる声音で祐介に言った。そして、近くにいたゴブリンを切り倒す。



「善処しよう」



 祐介は足元に転がる粗末な剣を、足でうまく空中に蹴り上げると素早く剣の柄を持った。



 そして少し遠くに立っているゴブリン弓兵へと投げつけた。剣はゴブリン弓兵の頭蓋骨を粉砕した。



「負けてられねぇな」



 ソルがそう気合いを入れながら近くのゴブリンを切り倒し、続けざまにそのゴブリンの隣にいたゴブリンも切り裂いた。



 戦いは始まったばかりだ。




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