第19話 移動時間と山城
馬車に揺られ、臨時の一党は町を目指して移動していた。
ダンカン、サスキア、ソルから、少し離れた所で祐介は目を閉じて黙りこくっていた。他の3人は、暇つぶしに意味もなく言葉を交わしていた。
不意に、祐介は一つ視線を感じた。片目を開けて視線の主を見た。サスキアだ。
しばし、サスキアと祐介は無言で見つめ合っていた。
「……なんだ?」
痺れを切らした祐介は、そう言ってサスキアに声をかけた。
「いや……闇の魔法なんて、どこで覚えたのかと思って……」
サスキアが聞き辛そうに、祐介に疑問を投げかけてきた。
闇の魔法を乱発している姿を彼女は見ている。ソルを腕力でねじ伏せたのもあり、少し怯えているのかもしれないと祐介は思った。
「闇魔法の使い手がいた。それを見て技を盗んだ」
「それは、使ってる所を見て……って意味?」
「そうだ」
祐介はなんでもないように、あっさりと頷いた。一方、その話を聞いたサスキアは信じられないのかあまり納得はしてないように見えた。
「お前さん、見た技を盗める特技でもあるのか?」
ここで、ダンカンが口を挟んできた。祐介は首を振った。
「そんな特技はない。ただ、闇魔法は本能的に使えた。それだけだ」
祐介は相変わらず、本当なのか怪しい話をした。
「なあ、闇魔法ってのは具体的にどんな事ができるんだ……?」
ソルが気になったのか、不思議そうに祐介に質問してきた。あまり、魔法の知識はソルには無いようだ。
「そうだな。苦痛を与える。破壊する。純粋に殺す……みたいなのが多いな。そこには、魔法の探求とかそういう
祐介は淡々とソルの疑問に答えた。気持ちサスキアの表情が強ばったように見えた。
それから、また祐介以外の3人が雑談をはじめたので、祐介は目を閉じて動かずにじっとしていた。
2時間ぐらいした頃だろうか。突然、祐介に話しかける声が聞こえてきた。
「なあ、祐介さんよ、あの剣聖と互角にやり合ったってのは事実なのか?」
声をかけてきたのは、ダンカンだった。彼も剣士だ。気になったのだろう。祐介は相変わらず無愛想に口を開いた。
「防戦一方だった。互角に……というのはおヒレがついた噂話だ」
「本当にそうか?」
ここでソルが口を挟んで、祐介の言葉に疑問をていした。祐介の強さの片鱗を身をもって体感したからだろうか、疑いをもっているようだった。
「本当だとも」
祐介はさらりと流れるようにソルの疑問に答えた。
「……私は、そうは思えないけどね」
サスキアが疑わしげに祐介を睨むように見て言った。
それがどっちの意味かはわからない。互角が虚偽なのか、防戦が虚偽だと思っているのか。それは本人のみぞ知る。
「そろそろつきますよー!」
町についた祐介たちは、町長の家に足を運び事情を聞き込みした。
どうやら、新しい目撃情報から放棄された山城にデーモンがいるのではないか? ということがわかった。
町長でさえ、いつ頃からあるのか、分からない山城らしく情報は非常にとぼしかった。
仕事は仕事。可能性があるなら、足を運ぶ他ない。祐介たちは一休みした後、すぐにその山城がある場所を目指して歩いた。
「なんだか薄気味悪いぜ……」
道中の森を行く祐介たちの中のソルがそんなことを口にした。
「ああ、異様に静かだ」
その不安の言葉に祐介が答えた。事実、森の中は異様なほど静まり返っていた。
「ソル。空気に飲まれるなよ。
ダンカンが邪魔な枝葉を切り開きながら、ソルに向けてそう助言した。
「そうね。逆に、ここまで静かなら間違いなくデーモン級の敵がいるわ。気を引き締めていきましょう」
サスキアが小さく頷いて、ソルに言葉を励ますようにかけた。
しばらく周囲を警戒したがら、一行は山城がある場所へと向かった。
沈黙が支配している時、不意に祐介が指先を茂みの奥へと向けた。そして、赤い閃光が走り短い悲鳴のようなものが聞こえた。
「なんだ?」
一早く、反応したのはダンカンだった。
「敵の斥候だ」
祐介さらりと言うと、茂みの中へと入っていきゴブリンの死骸を1つ持って戻ってきた。
「斥候……というより、うろついていただけかもしれん」
祐介はゴブリンの死骸を、3人の目につく所に放り投げて続けてそう言った。
「気づかなかった……」
ソルがそう言って口を固く閉ざした。
「うろついても問題ないほど、ゴブリンが増えてるとも言えるわね」
サスキアはそんな状況の中、冷静にそう分析した。
祐介も同意見だった。黙って頷いた。
それからまたしばらく歩くと、
日は若干、沈みかけていた。周囲が夕焼けで赤く染まっている。祐介たちは、姿を見られないように木々の後ろに隠れていた。
山城の城壁の上には、多数のゴブリンが気だるそうに巡回しているのが見えた。
「夜は奴らの時間だな……」
祐介はぼぞりと呟くように言った。
「ゴブリン如きとはいえ、油断は禁物だな」
ダンカンが大きく頷く。
「それに、デーモンが率いているなら、普通のゴブリンより統率がとれてるかも」
サスキアが付け加えるように、ダンカンに続いて言った。
「そうなると、早朝か? 俺達はそれまで休みか」
ソルが長い待ち時間を想像して、辟易したのか嫌そうな顔をしていた。
「君たち3人は寝てるといい。見張りは俺がやろう」
祐介が仏頂面で言った。
「待て。不眠不休は危ないぞ」
ここで頭目のダンカンが、たしなめるような口調で祐介へ言った。
「心配はいらない。治癒魔法の応用で、脳と身体の疲労は消せる。それなら、君たちには英気を養ってもらった方がこちらとしては助かる」
あっさりと祐介はとんでもないことを言い出した。多少、魔法の知識があれば祐介の言葉の非常識さがよくわかる。
事実、剣士であるはずのダンカンとソルすら、信じられないような顔をしていた。サスキアに至っては険しい顔をしている。
「貴方、まさかずっとそうしてたの? 穴があいた樽みたいに、寿命が目減りするわよ」
サスキアが酷く深刻そうな顔で祐介に向かってそう言った。
「これが俺のやり方だ。俺は孤独な冒険者なんでね」
しかし、サスキアの言葉は一切祐介に届いていないようだった。
そうか。この男は自分の命に、殆ど価値を持ってないんだ。サスキアは心の中でそんな言葉が浮かんだ。
結局そのあと、しばらく不眠不休で見張りをする祐介を止めようと3人は、様々な言葉を並べた。
しかし祐介が聞く耳を持たなかったので、仕方なく3人は眠ることになった。
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