第8話 次の試練
「なら、私から一つよろしいですか?」
沈黙を破ったのは、マリアだった。小さく手を挙げて微笑んでいる。
「ああ」
祐介は短く答えると頷いた。
「法王庁管轄の教会があるのですが、そこで少しの間働きませんか?」
意外な提案だった。祐介は珍しく、実際に首を傾げて見せた。エリスとジェニファーも、不思議に思ったのか目を丸くしていた。
「まあ、やはり、見極める最も最良な方法と言えば、同じ場所でしばらく一緒に居ることだと思うのですよ。アザミの教会に私たちもしばし滞在する予定ですので、丁度よいかと」
なるほど、と祐介は頷いた。人柄を知るには悪くない方法だとは思った。
法王庁は、人族世界で最も権威のある組織なので、少々怖いのが引っかかるが、そこは我慢するとしよう。なにより、神託は絶対だ。おとなしく、従っておいた方が得策だ。
「俺は構わない」
祐介の言葉を聞き、エリスとジェニファーも納得したのか頷いた。
「では、決まりですね。いつまでも、この部屋を借りているのも忍びない。行きましょうか」
マリアが席を立った。祐介たちも続いて席を立った。
それからアザミの教会へとマリアを先頭に、祐介たちは移動した。教会に着くと、勇者の一党が来たと少し騒ぎになった。
祐介は立派な教会に少し驚いていた。祐介は無神論者だ。あえて、神が確実にいる世界で祐介は無神論で生きている。
なので教会を遠目で見ることはあっても、近くで見たことはない。だから、意外と立派なんだなと驚いていた。
「私が神父のノエルです。勇者一党のみなさま、どうぞ中へ」
この教会のお偉いさんなのか、ノエルと名乗る神官の男性が進み出てそう言った。
白髪混じりの黒髪で、深い皺がある顔だった。明らかに、祐介より年上だろう。しかし、威圧感などは一切なく物腰柔らかな男という印象だった。
ノエルに案内され、祐介と勇者一党は、教会の敷地内に足を踏み入れた。その道すがらマリアがノエルにことの経緯を説明していた。
「────なるほど。神が見極めろ、と。そういうことでしたらどのような協力も惜しみません」
ノエルが真剣な顔で歩きながら答えた。威厳のある顔つきだった。
「しばらくの間、お世話になります。何かお手伝いできることがあれば、何でも仰ってください」
マリアが柔和な笑みを浮かべていた。
「僕にも、なんでも言ってね。神父様」
エリスが快活な笑みを浮かべて言った。
「私も、剣聖と呼ばれる身だ。手伝えることは手伝おう」
ジェニファーは鋭い顔つきで頷いていた。
「……何かあれば」
と、祐介は無愛想な顔つきで淡々と言った。
「有難い限りです」
ノエルはニッコリと笑みを浮かべると祐介の方へと目を向けた。その目は、明らかに祐介を観察する意図がありそうなそんな目をしていた。
「話は変わりますが、あなたがあの祐介、ですか?」
あの祐介、と言われても祐介にはよくわからなかった。内心、首を捻る。
「あの祐介、とは?」
疑問をそのまま祐介は口にした。
「失礼ながら、冷酷な冒険者だと、私は聞いております」
ノエルが真顔で祐介を見ていた。確かに、自分は冷酷な冒険者だろう。そこは否定できない。
「何かやったのか? この男は?」
ジェニファーが口を挟んできた。少し考える素振りを見せた後、ノエルが口を開いた。
「……依頼をうけて彼が、犯罪組織を壊滅させた時、その徹底的な攻撃からそう認知されるようになりました。遺体の多くはこの教会へ運び込まれましたが、その殆どが原型を留めておりませんでした」
ノエルの言葉は簡略している所はあれど、事実だった。
祐介は以前、地下下水道で違法な売買を行う闇商人たちを皆殺しにした。その時、
「他にも、色々と噂は耳に入っておりますが、それはまた後ほど話しましょう」
そこまで話終えると、丁度居館の前まで祐介たちはやってきていた。しばらくはここで生活をすることになるらしい。
それぞれが、しばらく間借りする部屋へ案内された後、再び居館の玄関ホールへとノエルと祐介たちは集まった。
長テーブルを囲んで五人は席についていた。
「さて、神父……他にも噂を聞いているそうだが?」
最初に口を開いたのはジェニファーだった。
「ええ、そうですね。彼は盗賊討伐も請け負っていることも多いです。そうですよね?」
確かめるようにノエルが祐介を見た。祐介は黙って頷いた。
「彼は、盗賊を全滅させます。ほぼ必ずです」
「それはつまり……盗賊の家族もかい?」
エリスが眉をひそめてノエルにたずねた。ノエルが大きく頷いた。
「そうです。この近辺の盗賊たちの間では悪魔と呼ばれているようです」
祐介はノエルの言葉を聞いて、そこまで噂になっているのは意外だな。と呑気に考えていた。
「他にも街の荒くれたちを殺したことも、多数あるのは周知の事実です」
ノエルが真顔でそう言うと、また祐介を見た。祐介は再び黙って頷いた。
少しの間、重い沈黙があった。祐介は居心地の悪さを感じながらも、無愛想な顔で動かずに座っていた。
「ノエル神父としては、祐介をここに置くことは反対ですか?」
沈黙を破り、マリアがノエルに尋ねた。
「いいえ、反対ではありません」
ノエルがそう答えたことに、少なからず祐介以外の3人は驚いたようだった。そんな気配があった。
「彼はあくまで仕事をこなしたまでのことです。過激ではありますが法をおかした訳では無いので」
その言葉を聞いて、勇者一党は納得したのか小さく頷いていた。祐介は相変わらず、無愛想な顔のままだ。
「……さて、今日はお休みください。明日から、しっかり教会の仕事を手伝って貰うことになりますから」
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