第7話 勝負の行方



 ミアは目の前で繰り広げられる激闘に、圧倒されていた。



 確かに、祐介は腕の立つ冒険者だとは、ミアも感じていた。しかし、ここまで強いとは全く予想していなかった。



 彼はあくまで、ぐらいの認識だった。剣聖とまで呼ばれる人間と、真っ向から戦えるなど、誰が予想できただろうか?



「人間の戦いなのか? あれは」



 近くにいる誰かが呟いた。ミアも全く同じ感想を抱いていた。



 目で追うことすらできない一撃を、剣聖と祐介は放ちながら、お互いそれを受け止め、弾いていた。



 それにあの二人から放たれる魔力は、人間の常識から明らかに逸脱いつだつしたものだった。



 このままだと、どちらかが。ミアはそう感じた。しかし、どうやって止めるべきか。あの戦いに割って入ったら、細切れにされてしまいそうだった。



 そうミアが考えていた時だった。その激闘が繰り広げられる場所へと、進み出ていく人影が二つ見えた。





「そこまでっ!」



 突然、大きな声が響いた。魔力の込められた力ある言葉に、祐介とジェニファーは動きを止めた。



 その声の主は勇者エリスだった。その隣には、聖者マリアが立っていた。



「これ以上は、お互い死んじゃうかもしれないからね。ここまでにしておこう」



 続けて、エリスが言った。その言葉を聞き、祐介は短剣を鞘に戻した。ジェニファーもそれを見て、ロングソードを戻す。



「つい、熱くなってしまったな」



 ジェニファーがそう言って、一息ついた。そして、祐介を見た。



「いやはや、見事だった。異国の剣士……祐介」



「……剣聖殿も」



 派手にやり過ぎてしまったな、と祐介は若干の後悔を覚えつつ、勇者の一党の出方を待った。



「ここでは人目が気になるでしょう。場所を変えて、話をしませんか」



 マリアがそう口を開いた。祐介としても、この場で好奇の目線を向けられ続けるのは避けたかった。



「ああ、俺は構わない」



 祐介は相変わらず、無愛想な態度で答え、エリスとジェニファーを見た。



「私も問題ない」



 と、ジェニファーが頷いた。



「僕もそれがいいかな」



 と、エリスも続けて頷いた。



「では、移動しましょうか」



 マリアが微笑みを浮かべて、ゆっくりと頷いた。





 冒険者ギルドの応接室を貸し切り、祐介と勇者の一党はテーブルを挟んで向かい合っていた。



「はーっ! 戦った後の水は格別だな」



 ジェニファーが水を一気に飲み干して、満面の笑みを浮かべていた。



「はしたない。あなたも、剣聖と呼ばれるほどになったのだから、少しは自重してください」



 マリアがその行動を咎めるように言う。しかし、ジェニファーは聞く耳を持つ気は無いのか、ご満悦そうに笑みを浮かべて、水をおかわりしていた。



「そう言わないでくれ。久しぶりに疲れたんだ」



 ジェニファーがそう言い返すと、また豪快に水を飲み干した。



「ジェニファーはこういう人なんだ。今更言っても無駄だと思うな」



 エリスが苦笑しながら、マリアに向かって言った。マリアが少し肩を落とすのが、目に見えてわかった。



「さて……それはそれとして」



 へらへらと笑っていたジェニファーが真顔になった。



「異国の剣士、あんた、なんでこんな



「こんなって、言い方があるでしょうに」



 マリアがジェニファーの言動を咎めるように言うが、ジェニファーは無視して言葉を続けた。



「見た目こそ若く見えるが、あんたはそれなりに歳はとってるように見える。目的がわからん。少なくとも、あの一撃一撃、牙を折られたようには見えなかった。あれ程の腕前があれば、もっと上を目指せる」



 ジェニファーが観察するような目で祐介を見つめながら、そう言った。



「冒険者ギルドに入って、俺はまだ一年ぐらいだ」



 祐介は無愛想な顔で答えた。



「それは知ってる。だが、目的がわからん。金が目当てなら、傭兵にでもなればいい。お前ほどの腕前なら、すぐ金持ちになる。名声が目当てなら、もっと等級は上になっているはずだ。お前なら、一年もあればになれてる」



 ジェニファーがそう言いながら、探るような目付きで祐介を見つめる。エリスとマリアも、同じく探るように祐介を見ていた。



「俺は、村を襲う猛獣や魔物を、追い払うぐらいが、性に合ってる」



 祐介の言葉を聞き、三人は怪訝そうな顔をした。



「何故、そう思うのかな?」



 エリスが尋ねた。



「俺は君たちのような英雄にはなれない。その器では無い。ただ、それだけだ」



 祐介は相変わらず、何を考えているのかわからない顔で言い切った。



「……なるほど。民衆のそばにいることを、あなたは望むのですね」



 マリアが納得したように頷いた。実際、祐介としては、民草から離れて、やれ魔族だと、民草からは遠すぎる驚異と戦いたいとは考えていなかった。



 確かに魔族は世界を滅ぼすだろう。しかしその間に、魔物や猛獣が村を幾つも滅ぼす。だから、祐介は無理に上を目指していない。



 何より、祐介としては、。もし、元の世界へと帰る手段を魔族が持っているのなら、そちらへ鞍替えするかもしれない。



 まあ、例えそうだったとしても、そう簡単に魔族の協力者になる気は祐介にはない。なんだかんだ、



「それで、神託が下ったとあったが、どういうものだったんだ」



 祐介は気になっていた事を口にした。これには、エリスが口を開いた。



、とそれだけだったよ。だから、各々のやり方で君を試そうと考えてるんだ。悪いなとは思うけどね」



 つまり、エリスとマリアも、何かしら試練を課すつもりらしい。祐介は、心の中でため息をついた。



「安心してよ。無茶なことはしないからさ」



 祐介の懸念を悟ってか、エリスがそう口を開いた。



「そうか……それで、どう試すつもりなんだ?」



 祐介の当然の疑問に対して、しばらくの間、沈黙が続いた。どうやら、しっかりと決めてなかったらしい。



 この反応は、当然と言えば当然かもしれない。突然、、と言われて、何か思いつけという方が無茶な話である。






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