第3話 冒険者ギルドで
その後祐介は村長に報告をした。村長が納得出来ていない様子だったので、現場まで連れていき確認もさせた。
そこまでされては、村長も納得する以外なかった。惨状に顔をしかめながら、村長は祐介に礼を言った。
その後、休まずに辺境の街アザミへと祐介は戻った。そして城壁の門をくぐったところで、祐介は見知った顔に声をかけられた。
「祐介じゃないか」
声の主は、金属の鱗鎧を着込んだ女性の衛兵だった。名前はケイトと言う。アザミの衛兵隊長だ。
治安維持組織の司令官のような存在だと思ってくれれば、おおむね合っている。
「何か用か?」
「特に用はない。最近は、問題を起こしてもないみたいだしな」
ケイトが困ったような顔で、祐介を見ていた。
祐介は時折、アザミのチンピラや筋の悪い連中と問題を起こしていた。要するに喧嘩だ。今の所、祐介に全員診療所送りにされている。
「そうか。仕事終わりなんだ。用が無いなら、また今度」
「そうつれないことを言うな。面白い話があるぞ」
「面白い話?」
祐介は無愛想な顔でたずねた。
「勇者の一党が、急遽このアザミに来るらしい。あの勇者たちが来るんだ。お前も流石に興味はあるだろう?」
ケイトが笑みを浮かべ、祐介をからかうように見つめていた。
勇者の一党といえば、法王庁に認められた最高級の冒険者たちだ。
実力は勿論、人格も高く評価されなければなれない地位にいる。
興味が無いといえば嘘になるが、じゃあ、とても興味津々かというとそういう訳でもない。
「そうか」
祐介の返答は実に短いものだった。
「相変わらずだな。まあ、精々問題は起こすなよ」
ケイトが鋭い目付きで祐介を見た。それが話の本命だったのだろう。頼むから大人しくしていてくれ、ということらしい。
「わかった」
「本当に頼むぞ」
ケイトの言葉を後にして、祐介は真っ直ぐ冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルドへ入ると、依頼を終えた冒険者たちでごった返していた。
依頼を無事達成して祝宴をあげる者、依頼を失敗して悲嘆にくれる者、色々な者たちがいた。
祐介はそれらの光景を無視して、受付へと向かった。担当職員のミアがいる場所に立ち、相変わらず無愛想な顔で口を開く。
「終わった」
「おかえりなさい! 無事、終わったみたいですね!」
「全員、始末した」
祐介のその言葉を聞いて、ミアが少し口を固く閉ざした。その意味を、ミアは理解している。盗賊が連れていた家族諸共、殺したと言う意味だと理解しているのだ。
「……わかりました。報酬をお渡ししますね」
ミアがそう言って、僅かな報酬が入った革袋を受付カウンターに置いた。祐介はそれを手に取り、腰袋にいれた。
祐介は無言でミアに背を向けて、冒険者ギルドの隅っこのテーブル席に腰を落ち着けた。
冒険者ギルドには、冒険者の求める施設がいくつか併設されている。鍛冶屋や食堂や酒場などがそうだ。食堂と酒場は、殆ど区別なく営業している。
祐介が席についてすぐ、獣人族の店員が祐介の席へと近づいてきた。
「ご注文は何にしますー?」
明るくハツラツとした女性の声だった。
「シチュー、1つ」
対照的に祐介は仏頂面で低い声で言葉を返した。
獣人族の店員が気を悪くした様子はない。それどころか、愉快そうに笑みを浮かべている。
「相変わらず、愛想の欠片もない人ねー」
祐介は無言だった。特に言葉を返す必要を感じていないようだった。
「はいはい。すぐ持ってきますねー!」
その後、シチューが一人前、祐介の前に置かれた。祐介は先程の店員に、代金を手渡した。
「毎度あり! ところで、今日も一人なんですか?」
「そうだ」
「相変わらず、死に急ぐ人ですねー! 今日だって、危険な仕事してたんでしょ?」
「危険ではある」
祐介にとっては、ごく当たり前になった危険だが周囲の人にとってはそうではない。それくらいのことは、祐介本人も理解はしていた。
「俺は飯を食う」
そう言外に話す気はもう無いと伝えて、祐介はシチューを食べだした。店員はやれやれといった様子で、祐介がいる席から離れていった。
「祐介くん! ご一緒してもいいですか?」
しばらくシチューを祐介が黙々と食べていると、ミアが声をかけてきた。祐介としては、1人で静かに食べたい気持ちが強かったが、普段お世話になっている手前、無下にもできない。
「構わない」
祐介の言葉を聞き、ミアが祐介の対面の席に腰を落ち着けた。ミアは、シチューを持っていた。既に注文は終わらせていたようだ。
「今日もお疲れさまでした」
ミアが微笑み崩さずに、祐介を見ていた。
「お互いに」
祐介はそう言葉を返して、またシチューを食べた。
「明日は、勇者の一党が街に来るんですよ」
「そうらしいな」
「あら、流石にご存じでしたか。祐介くんは、あんまり勇者みたいな冒険者には、なりたくなさそうですよね」
「俺にはなれない」
祐介は自分がしている冒険の数々を思い出した。そのどれもが、第三者からすれば、地味な仕事ばかりだった。とてもじゃないが、名声が生まれるような仕事はしていない。
それに性格上、勇者や上級冒険者のような振る舞いはできそうにない。
一党すら組んでいない冒険者から見ると、彼らはとても遠い場所にいる気がした。
「祐介くんは橙等級ですから、まだまだこれからですね」
橙等級は、十段階ある等級の中で、9番目の等級だ。つまり、下から2番目の地位にある。
上から黒、白銀、黄金、赤銅、紅、紫、蒼、緑、橙、白となっていて、一番高い等級の黒の冒険者はいないとされている。
黒は、名誉等級と言ったところか。勇者でさえ、白銀なのだから、黒等級が如何に凄まじい等級かよくわかるだろう。
「今は、橙で十分だ」
「もう少し、向上心があってもいいかと思いますよ」
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