第2話 盗賊たち



 祐介は盗賊の野営地をすぐに見つける事ができた。盗賊たちは、小川のすぐ側に天幕を張って簡単な野営地を作っていた。



 盗賊の野営地は木々に囲まれ、視界は限定的だった。祐介は短剣を抜くと、しばし野営地を観察していた。



 10人の武装した盗賊が、各々好き勝手に過ごしていた。奇襲を警戒してる様子すらない。他にも、非戦闘員と思われる女性と子供も数人いた。



 この世界では家族を連れて、盗賊へとなってしまう者たちは少なくない。



 しかし、一人たりとも逃がす予定はない。仕事だ。なにより敵だ。盗賊が村を襲う。そして、食いぶちをうしなった生き残りが、盗賊になる。悪循環だ。



 ただ、数がすこし多い。戦闘員を倒しているうちに、非戦闘員には逃げられる恐れがあった。



 疲れるが、一気に勝負を決める必要がある。祐介はそう思って、地面を蹴り上げて走り出した。



 盗賊の幾人かが、祐介に気付いた。祐介は短剣を振り上げて、魔力を短剣に込めた。そしてそのまま、切り下ろした。



 斬撃の衝撃波が真っすぐ飛び、天幕や地面をえぐり取った。



 当然、その場にいた人間が耐えられるはずもなく、バラバラの肉片と化した。



 続けざまにさらに短剣を振り回し、また衝撃波が盗賊の野営地を襲った。小さな野営地は、嵐が過ぎ去った後のような様相となった。



 盗賊はほぼ全滅したように見えた。しかし、まだ生きている者がいるかもしれない。



 祐介は壊滅した野営地へと近づいた。外に転がる死体を見つつ、潰れた天幕などを引き剥がしていった。



 生き残りは、運よく衝撃波の直撃を免れた女性と子供だった。祐介は、命乞いをする暇を与えず、一人の女性を短剣で突き刺した。怯え切った子供も、容赦なく切り伏せた。



 これで一仕事終わった。そう思って祐介が村へと戻ろうとした道中の事だった。



 嫌な視線を祐介は背中に感じた。そのすぐ後、祐介は視線がした背後を振り返った。



「勘がいいのね」



 女性の声が聞こえてきた。穏やかな声だった。しかし、その声は聞くものに異様な力を感じさせた。



 祐介は無言で短剣に手をかけ、声がする方向を見つめた。木の後ろから、一人の女性が姿を現した。



 ダークエルフの女性だった。闇魔法に長けた種族のエルフだ。



 その女性は高貴な衣に身を包み、小さく細い杖を片手に持っていた。魔法使いのようだ。



 敵か敵じゃないのか、祐介は無言で目を細めて、ダークエルフの出方を待った。今の所、敵意そのものは無いように見えた。



「そんなに警戒しないで頂戴。ちょっと目についただけなのよ」



 ダークエルフの女性は微笑んで、祐介を見ていた。



 ただ目についただけで、気配を完全に殺し背後を取る必要があるのか、祐介にははなはだ疑問だった。



 見たところ、ダークエルフの女性は、冒険者が必ず首などから提げている認識票が見当たらない。怪しさしかない。



「盗賊たちを倒した実力、見事なものがあったわ。魔力も凄まじい。貴方の短剣は、ただの数打ちでしょう?」



 ダークエルフの女性が言う通り、祐介の短剣は魔剣でもなければ、名剣でもない。そこらの武器屋や鍛冶屋で、まとめて売られてるような量産品だ。



「そうだ」



 祐介は小さく頷いた。



「腕が立つのね。名前を聞いてもいいかしら?」



「祐介だ」



「祐介……聞いた事がない名前ね。2つ名とか無いの?」



「無い」



 祐介は断言した。少なくとも、正式な二つ名を貰ったことはなかった。



「ふうん。ますます、気になるわね」



 ダークエルフの女性が、興味津々といった様子で祐介を見つめていた。ただ、いつまでも無駄に時間を過ごす訳にもいかない。祐介には、報告をする仕事が残っていた。



「用が無いなら、俺はここで失礼する」



 祐介がそう言うと、ダークエルフの女性が声をあげた。



「ああ、待って頂戴! 貴方、魔族に与する予定はあるかしら」



「無い。もういいか? 俺は忙しい」



 祐介が切り捨てるように言うと、ダークエルフの女性が不敵な笑みを浮かべた。



「魔族の話題を出したのに、眉ひとつ動かさないのね。面白いわ。また会いましょう。祐介……」



 ダークエルフの女性が、不吉な雰囲気を隠すことなく、祐介から背を向けてどこぞへと去っていった。



 面倒なのに目をつけられたのかもしれない。祐介はそう思いながら、村へと再び足を進めた。

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