初級冒険者の実力者

@Gonbei2313

第1話 冒険者ギルドでの評価。依頼。



 アザミという辺境の街には、変わった冒険者がいる。そんな噂が立ってから、かれこれ一年が経とうとしていた。





 どんな依頼からも生き延び、目的を達成する。それはある意味、冒険者の理想像だった。





 しかし、その冒険者は変わり者と言われていた。





 武具は短剣一本だけで、冒険者というより旅人のような風体ふうていだった。





 殆どの依頼を完遂して帰ってくるので、冒険者としての実力は評価されていた。





 しかし、その冒険者には協調性がほぼ無かった。正式な一党、つまり、パーティを組もうとしない。





 ギルドからの正式な一党への所属要請は、聞く耳を持たない。最初こそ、実力目当てで近づいた冒険者たちも、今では近づかず、噂話する程度になっていた。





 冒険者ギルドからの評価は高いものの、協調性が無いことなどから、等級は低いままで、他の冒険者からは、死に急ぎの変人と見なされている。





 その男は、佐々木祐介ささきゆうすけと言う。





 この物語は、そんな冒険者祐介が中心の物語である。







 祐介の朝は早い。日の出と共に目が覚める。





 軽く身体を伸ばし、宿屋の食堂で朝食をとってから、冒険者ギルドへと真っ直ぐ向かう。





 冒険者ギルドは辺境の街のアザミでも、一際立派な建物だ。多くの冒険者を抱え、様々な依頼が舞い込んでくる。





 相変わらずでかいな、と呑気に祐介は考えながら、冒険者ギルドへと入った。





 中には既に大勢の冒険者たちが、仕事を求めて人集りを作っていた。特に、依頼が張り出される掲示板には、大勢の男女の姿があった。





 祐介はその群れに加わらず、遠巻きに眺めていた。





 基本、祐介は余り物の依頼を請け負う事が多い。実入りはその分少ないが、祐介はそれでも構わなかった。





 実入りが少ない、名誉にならない、そんな理由で捨て置かれる人々を、祐介は見捨てる気分にはなれなかった。だから、最後まで待つのだ。





 粗方、人集りがまばらになった時に、祐介は掲示板の前まで来た。





 しばらく眺めた後、1つの依頼書に目が留まった。それは、近くに野営している盗賊の討伐依頼だった。





 祐介はその依頼書を手に取って、受付カウンターへと向かった。





 冒険者にはそれぞれ、担当職員がいる。祐介の場合は、ミアという若い女性だ。祐介が冒険者成り立て頃から、お世話になっている職員だった。





 そのミアがいる受付カウンターの前に立ち、依頼書を無言で祐介は置いた。





「おはようございます! 祐介くん」





「おはよう」





 祐介は無愛想な顔で挨拶を返し、依頼書へと目を落とした。





「盗賊の討伐依頼ですか……やっぱり、一人で行くんですか?」





「ああ」





 と、これまた無愛想に祐介はこたえた。





「お勧めはできませんが」





「依頼書は出した」





 祐介はそれだけ言うと、背を向けて歩きだした。





「ちょっと! 祐介くん!」





 ミアが何事か叫んでいたが、祐介は振り向きもせず、さっさと冒険者ギルドを出た。





 そして、全速力で依頼主がいる村へと向かって走った。








「お前さんが、冒険者か?」





「そうだ」





 依頼主がいる村は、吹けば消えてしまいそうなほど、小さな村だった。





 村長は怪訝けげんそうな顔で祐介を見ていたが、祐介は相変わらず仏頂面だった。





「盗賊は何人いる?」





「十人ぐらいだって、聞いてるが……ほんとにお前さんだけで、行くのか?」





「そうだ。場所は?」





「あー……」





 と、村長が口ごもった。場所はわかるが、一人に討伐を任せるのに、不安があるようだった。





「今一度いう。場所は? 教えないなら、依頼は取り消されたことにする」





「待ってくれ! わかった。教える。村から東の小川の近くだ」





「そうか。すぐ戻る」





 祐介は無愛想に言い放つと、目にも留まらない速さで、地面を駆けて行った。これには、村長も目を丸くしていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る