第13話 湖畔学習
「湖畔学習……?」
「光輝……お前本当に話聞いてねぇんだな……里桜からも言ってやれよ」
「……えっ、あっ、そっか、私か。こ、光輝くん、数日前に先生言ってたよ。来月、県北の方の湖に行って、その近くにある青少年の家で勉強合宿するって」
「勉強合宿!?なんでそんなことすんだよ!!」
「おれだって嫌だわ!でも一年生恒例の行事らしいから、仕方ねぇだろ?」
朝練終わりに唐草からその湖畔学習の話を聞かされて、そんな話あったか?と首を傾げていたら、唐草に呆れられてしまった。
なんならツナグの方がおれよりもしっかり先生の話を聞いてるし、授業も真面目に受けている。
今では以前まで里桜が行っていた朝練のサポートというマネージャーの業務もこなせるようになっていた。まぁ未だに里桜の名前で呼ばれることには慣れていないようだけど。
「今日LHRあるだろ。おれらのクラスの担任が、確か今日のLHRで湖畔学習の班分け発表するって言ってたから、光輝たちのクラスでも同じことするんじゃないか?そん時はしっかり聞いとけよ〜」
そう笑って、唐草は先に卓球場を出て行ってしまった。
「ツナグ、お前よく話聞いてたな〜」
「当たり前でしょ!あくまでも皆は私のことをお姉ちゃんだと思ってるんだから。私がお姉ちゃんの評価を下げる訳にはいかないでしょ……」
「う〜ん……いや、そこは大丈夫だろ」
「また適当に言ってる!」
「んなことねえって」
口調や性格がこうも違う中で、しっかりと「音無里桜」を演じているその姿に、素直に感心するし、健気さも感じる。
けど、本当にツナグが今気負っている部分は杞憂でしかないと思うんだ。
ツナグの中で、里桜が相当美化されているからなのか、ツナグはその像を壊さないようにと、完璧にこなす里桜の姿を演じているけれど、おれ達が今まで見てきた里桜は、正直に言えばもう少し不器用で、ちょっと抜けているところがある。
ツナグを里桜だと思っている以上、皆もツナグのことをその少しおっちょこちょいで、それでいてクスリと笑わせて和ませてくれるその姿をツナグに重ねて見てしまっている。
だから、ツナグが完璧な里桜を演じようとして、一人で全員分のドリンクを運ぼうとしたりとか、何かしようとする度に、ツナグのことを心配そうな目で見つめてしまっているのだ。
皆は見守っているだけなんだけど、きっとツナグにはその視線の意味が伝わってないから、それが気になってしまうんだろうな。
「大丈夫だって。お前はもう少し肩の力抜いとけ?その方が里桜も喜ぶと思うぞ。里桜がミスしたくらいで嫌うようなやつじゃないってことは、お前がよく分かってるだろ?」
「……!うん……分かった……」
渋々といった具合でおれの言葉に頷いてくれたツナグのその表情を見て、バレないように静かに笑ってしまった。妹がいたらこんな感じだったのかな……。
その後は二人とも黙ったまま、でも同じ歩幅で教室へと向かっていった。
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最近はもう恋夜さんに突っついて貰うことで居眠りを回避するという方法を取って、一日の授業をこなしていき、やっとLHRの時間になった。
担任の佐久間先生が教室に入ってくるなり、少し厚めの冊子を配り始めた。
その冊子を前の席の女子から受け取り、その表紙へ目を向けると、「湖畔学習の手引き」と書かれていた。
朝練の時に唐草が言っていたように、湖畔学習についての話をするらしい。
その冊子を徐に開いて、合宿の日程表と宿泊所の見取り図と部屋割り、そして課題学習における班分けの名簿が記載されたページをパラパラと捲って眺めていた。
他の皆も同じようで、冊子が手元に届くなり、部屋割りや班分けのページを見て、先生の話もそこそこに誰々と一緒の部屋だとか何とかって盛り上がっているようだった。
周りの音を聞きながら自分の名前を探していると、ページの真ん中あたりでおれの名前が記載されているのを見つけた。
「えーと、同じ班になったやつは……」
おれの名前と並んで書かれてあったのは、「音無」と「宇留木」、そして「唐草」の名前だった。
これ自分のクラスだけじゃなくて、他のクラスも全部ごちゃまぜでメンバーが決められてるのか。
「皆も気づいてると思うけど、課外学習の班分けのメンバーは、学年全体での交流を深めるという目的で、他クラスの生徒たちと同じ班になるように分けられてる。来年のクラス分けの予行練習だと思っといてくれ」
ああ〜、なるほど。
この機会に他のクラスの奴らと仲良くなって、この行事が終わった後も話せるようになるだろうし、そうすればそいつを足がかりに、相手のクラスの人達とも関係が出来るかもしれない。
でも、その決め方だとおれらの班のメンバーの選び方の理由が分からない。
「先生?それで言うと、おれらの班って全員知り合いなんすけど……?」
「ああ〜……光輝のとこな」
佐久間先生は、そう言って困ったように笑いながら、こめかみをポリポリとかいている。
「ちょっとそこの班は急遽変更したんだ。最初はバラバラにして組み込もうと思っていたんだが……光輝も里桜も、そして他のクラスになるけど宇留木もな……他の生徒からの人気が高すぎて、この三人が入った班の生徒が全員お前らとの関係作りに全力を注ぎ込みそうだって意見が上がってな。だったら、いっその事、この三人全員を同じ班にしてしまえってことになったんだ」
「えぇ……なんつうか、投げやり感がある。てか、そしたら唐草はどうして?」
「この三人と一緒になったとしても、浮かれることなく、他の生徒からも嫉妬されたりとか反感を買わないであろうってことで」
「そう……っすか……あいつ、ちょっと不憫すぎるな」
でも最初から決まってたことが急遽変更でそうなったって……まぁ、ツナグのことを考えたらこの人選が一番安心するけど、あまりにも都合が良すぎるような……。
そう思ってチラリと恋夜さんの方を見上げると、恋夜さんは思いっきり悪い笑みを浮かべていて、絶対この人がなんかやったわ……って直ぐに分かった。
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部活終わりの帰り道、ちょうどバス停に向かおうとしていたツナグと宇留木を見かけ、自転車を押しながら二人に駆け寄り、声をかけた。
「なぁ、宇留木はあの班分けどう思った?」
「ああ、あれ?あれラッキーだったよね」
「はい、ダウトー!!」
なんともないような顔をして、そう返答する宇留木を指さしたら、直ぐにその指を掴まれて、「人に指さすんじゃねえ」ってへし折られそうになった。
「痛ってぇ……だけど当たってるだろ?宇留木は誤魔化そうとしても、おれの眼の前じゃあ嘘ついても無駄なんだよ」
ばあちゃんに術を解いてもらって、そのうえで初代から力をもらって、その使い方を教えてもらってから、おれは今まで以上に見えるモノが増えた。
それは精霊の姿がより鮮明に見えるようになったというだけじゃなく、今みたいな自分に対してつかれた嘘が形となって見えるようになった。
今、宇留木が「ラッキーだった」と言った時も、宇留木の口から小さな黒い粒が出てきた。それが嘘をついたことを示している。
「あんた、力に目覚めてからちょっと厄介よね……」
そう言って宇留木がこちらを鬱陶しそうな目で見てくる。
「おい、何だよその言い方!」
「カマかけずに素直に聞けばいいのに。なんかちょっとズルいよね」
「ツナグまで!?」
「ちょ、ちょっと私の名前……!」
「大丈夫だよ、この時間はもう生徒殆どいないし、今日この時間まで残ってるの卓球部くらいだから」
「でもあんた、その目でずっと生活すんの疲れないの?」
「今はもうオンオフ出来るようになったから、そうでもないな」
「そんな器用にできるもんなんだ……」
ツナグ、若干引いた感じでこっち見るのやめような。
「何も最初からできたわけじゃないぞ?これができるようになるまで、ずっと意識的に切り替えできるように練習してたんだから。おかげでほとんど授業の話聞いてなかったんだけどな?」
「なっ!それで私にノート仮に来てたの!?」
掴みかかろうとするツナグを交わしながら、ひとしきり騒いだ後、改めて班分けのことについて聞いてみると、やはり予想通りで、あれは宇留木が考案したもので、それに莉桜さんと恋夜さんが協力する形で実現させたらしい。
宇留木が班分けが望んだとおりになるようにと願い、初代によって力を取り戻した恋夜さんがその願いを増幅させ、仕上げに莉桜さんが『そのくらいの願いなら、今の私にも出来る!』ということで、実現させてしまったと。
「にしてもなんでわざわざ班のメンバー調整したんだ?やっぱツナグのため……」
「はぁ……」
おい宇留木、なんの溜息だ?
『コウキ、お前ちゃんと冊子読んだか?』
『まさかとは思ったが、本当に見逃しておったとは……』
莉桜さんと恋夜さんまで……。
おれ以外の全員が頭を抱え始める。
冊子にその理由があんのか?と、慌ててリュックの中から察しを取り出し、最初のページを捲ると、すかさず宇留木がそのページのある部分を指さした。
「ほらここ。場所はどこだって書いてある?」
「場所……涙月湖!?ここって里桜の痕跡が示してた場所じゃんか!!」
最初の方のページはチラッとしか見てなかったんだよな……もっとちゃんと見とけば良かった。
「課外活動では、生徒が班のメンバーと交流を深めるために、湖の周囲を散策しながら自然に触れる時間も用意してあるって先生が言ってたの。その時に自由に動きやすくするために、この班のメンバーになるよう莉桜さんと恋夜さんに話してみたのよ」
『我もその考えには賛成だったからな。喜んで協力させてもらった』
『久しぶりに恋夜と昔みたいに力を合わせて悪戯出来たの、楽しかったなぁ♪』
一人だけちょっと楽しんじゃってる人居るけど……確かに自由時間として使うことが出来る時間があるなら、その時間に里桜を探しに行くことも出来るかもしれない。
まぁ、そこに巻き込まれる形になった唐草には申し訳ない気持ちにもなるけど、里桜を取り戻すためだ。
ごめんな唐草、耐えてくれ。
「このチャンス、絶対ものにしないとな!」
「確実に救い出すための準備をしておこうね、ツナグ。あんたも残りの時間でその厄介な能力に磨きをかけといてよね!」
「言われなくても!!」
おれは笑顔で二人にグッドサインを送って、すぐに自転車に跨り、力強くペダルを漕ぎ出した。
練習で太腿がパンパンになってたけど、また少し気分が高揚してきたからか、その疲れや痛みも気にならないまま、家まであっという間に着いてしまった。
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