第6話 お前もか
前まではおれが授業中の時にはどっか行っていた恋夜さんも、今となってはおれの隣でふわりと浮いて、おれが授業を受けている様子を観察するようになっていた。
(あの~恋夜さん?そんなに見つめられてると流石に緊張するんすけど……)
『人の目には慣れていると思っておったが?それよりも、そこの計算式間違えとるぞ?』
(うっそ?!……恋夜さん、数学もできたんすか……)
『いや……そこの頁に書かれている式が例題なのだろう?』
(………そ、そうっすよ、もちろんおれも分かってましたけどね。今のはあれっす。恋夜さんを試したんすよ)
『ふふっ、まあ良いそういうことにしといてやろう。ただ、なるべく早く修正しておけよ?あの教師、次にお前に指名しようとしておるようだからな』
(マジっすか?!)
その後、本当に指名されて黒板に自分の回答を書かされることになるとは思わなかった。壇上でげっそりしているおれのことを見て、恋夜さんは少しだけ楽しそうに笑っていた。
その授業終わりのこと。
『光輝、今日の放課後、少し歩かないか?少しだけ話をしよう』
(……?いいっすけど……)
そうしておれたちは駅前から大通り、それから大社の前も通り過ぎて……って。
「家についちまいましたけど……」
道中に恋夜さんが口を開くことはなく、おれはまっすぐ帰宅したような形となった。
『すまん、だがここでしっかりと話す。我もちゃんと、歩いている間に覚悟を決めた……』
ドアの鍵を開けようとしている時、後ろでそう言った恋夜さんの声は、その言葉とは反して少しだけ震えているように感じた。
先に恋夜さんを自分の部屋に案内して、それからおれも冷蔵庫からお茶の入ったボトルとカップを手に部屋に戻ると、恋夜さんは部屋の真ん中に置いてあるテーブルの前で静かに正座したまま、テーブルの一点を凝視していた。
膝に置いてある手にはなんだか力が入っているようだし、尻尾もせわしなく揺れていて……。
「……もしかして、緊張してます?」
『し、してないわぁ……!!』
そうは言うけど、恋夜さんの視線はあっちこっち泳ぎまくっているし、おれが声をかけた途端に尻尾がさっきよりも勢いよく揺れてしまっている。たぶん図星だったんだろう。
でも珍しいな、普段クールっぽい恋夜さんが一体何にそんな緊張して……。
「あ!!」
『な、なんじゃ突然大きな声を出して……』
「恋夜さん、もしかして男の部屋入ったの初めてだったりしました?!分かるっすよ~異性の部屋に入るのってなかなか―――」
『んなっ……!このぉ!!』
「いったぁ!!!!!」
恋夜さんは手近にあったマンガ雑誌を手に取ると、その勢いを殺さないままおれの脳天目掛けて振り抜いた。
「ちょ、ストップストップ!!ごめんなさいって!悪ふざけが過ぎました!!」
顔を真っ赤にしながらもう一発ぶっ叩こうと雑誌を持ち上げている恋夜さんに頭を下げると、しばらく恋夜さんは黙っていた。
「許してもらえ……いってぇ!!!!」
スパァァアアン!!!!とおれの頭から良い音が鳴り響いた。
なかなか衝撃が来なかったものだから、許してもらえたのかと思って、視線を少しだけ挙げた瞬間に、またおれの脳天に雑誌の表紙を面にして振り下ろされた。
『今ので終いにしてやろう……まったく、こっちはいろいろと踏ん切りをつけようと考え込んでおったのに、そんなことを考えていたのがバカみたいではないか……』
そうして恋夜さんは何かぶつぶつと言いながら、お茶の入ったカップに口をつけていた。中のお茶は減っていなかったけど、たぶん莉桜さんと同じように中の味だけをもっていったのだろう。
『初代のあやつもあやつで少しばかり、いやかなりキザな奴であったが、お前は歴代でもかなり軟派な奴だな……』
初代って……そういえば、白墨の野郎もおれや宇留木の事を歴代の人らと比べているような物言いをしてたよな。宇留木はまだ分かる。前にアイツんちのご先祖様の話しの中で、遠いご先祖を辿ると高名な祓魔師一族だったことが分かったって話を聞いたから。
けどおれは違う。そんな話は父ちゃんたちやじいちゃんたちからも聞いたことが無い。けど、おれも含めて比べてるってことは、たぶんおれもそうだったりするってことだよな?
「恋夜さん、その初代って……何なんすか?たぶんですけど、おれのご先祖様のことっすよね?」
『そうだが……ってお前まさか自身の出自を分かっていなかったのか?!』
「知らなかったっす!」
『なんと……いや、まあそれならむしろ聞き入れやすいのか……?』
恋夜さんはそう言って、少しばかり顎に手を当てて考えると、またゆっくりと口を開いた。
『修行の前に、まずはお前の一族のことについて話をするところからだな……』
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