第3話 かたわれの帰還

 里桜がハクボクに連れ去られてから約二週間ほどが過ぎた。


 目的であった里桜を手に入れたからなのか、あれ以来向こうからの接触は一切なくなってしまった。


 危惧していたおれたち以外の生徒や、街の人たちへ危害が加えられるなどの目立った事件や事故なども起きておらず、今日も朝のニュースではいつもと変わらずどこかの家のペットの可愛いシーンが流されていた。


 蒼部の生徒たちに里桜として認識されているツナグはというと、最初は当然クラスメイト達とのやり取りに四苦八苦していたものの、おれと宇留木がサポートしてやることで少しずつ慣れてきていたところだった。ただ、自宅で過ごす時間が未だに慣れないみたいだったけど、それでも里桜が帰ってきたときに不自然さが生まれないようにと、一生懸命に里桜として振る舞っていた。



「よう、ツナグ。おはよ」


「ちょ、ちょっと!名前で呼んだら……」


「大丈夫だよ、この時間ならまだ他のやつらも来ないから」



 ただ、事情を知っているおれたちだけしかいない時には、こうしてちゃんと彼女の名前を呼んであげるようにしていた。これは宇留木の提案でもある。



「ウチらだけの時は、あの子のことをちゃんとツナグって彼女の名前で呼んであげようね」


「……?そんなん当たり前じゃね……?」


「……あんたが素でそういう奴なのはわかってた。念のために言っただけ」



 これまではハクボクが彼の事を彼女の兄であるという認識を掛け、そして里桜を取り戻すために動けという目的を与えていた。その兄と常に一緒に居ることが出来た。


 ツナグから聞いた話だが、どうやら今のハクボクがツナグの兄であること半分当正解で半分不正解らしい。


 正確にいうと、今のハクボクの身体がツナグの兄、ハクスイさんという人の身体らしく、太古の時代にハクボクによってその身体を乗っ取られてしまったのだろうとということだった。


 推測であるのは、それが起きたのがツナグと里桜が石像になってしまった後に起きたことであるからだ。里桜とは違ってツナグは石像と化した瞬間にその意識が眠りについてしまったらしい。


 話しが逸れたが、そんな認識が奪われ、現実を突きつけられただけではなく、その混乱が覚めないうちに里桜として振舞うことを強制されたツナグの精神的な負担は計り知れない。苦しい現状からその心を守るために、新たな人格を作ってしまうかもしれない。


 そうなればツナグ自身が悲しい思いをしてしまうだけじゃなく、そんなツナグの姿を見た里桜は自分を責めてしまうかもしれない。


 里桜からツナグのことを任された以上、彼女の精神面だってちゃんと看てやらなきゃ、という気持ちから出た言葉のようだった。


 あいつ、本当に里桜のことになると徹底してなんでもこなすんだよな。




 ⟡.· ⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯ ⟡.·




 そんな風にして過ごしているうちに、ツナグも段々とおれたちに心を開いてくれるようになってきた。



「ツナグ、お前最近ちょっとずつだけど笑うようになってきたな!いい感じいい感じ!」


「な、何で見てんの……!あんまりジロジロ見ないでよ……!」



 まだ過ごしだけぎこちない笑い方だけど、それでもその変化はおれたちにとっては嬉しかった。口角が上がったときにえくぼが出来るあたりからして、もともとは里桜とは違った笑い方だったんだろうけど、その小さく口元を隠しながら笑う姿は里桜とそっくりだった。



 ⟡.· ⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯ ⟡.·



 そして、その日もカラオケの一室にて、メロンソーダを一口飲むごとに「美味しい……!」と笑顔をこぼしているツナグの姿にも目をやりつつ、おれはテーブルの上に置いてあるスマホの画面に目をやった。


 もうそろそろのはずなんだけど……と思っていたら、待ち合わせをしていた二人がやってきた。そのうちの一人はドアをすり抜けて飛び込んでくるなり、興奮した様子で話し始めた。



『いたいた!コウキ、そしてツナグ、ほんの少しだけど里桜の足跡を辿ることが出来たぞ!!』


「本当っすか!?」


「お姉ちゃんの場所が分かったの!?」


「ちゃんと話すから、一旦落ち着いて座りなって」



 少し遅れて入ってきた宇留木がおれとツナグの肩に手をポンと置くと、少しだけ力を入れて腰を下ろすように促がした。


 二人はこの連休の間、ずっと里桜の手がかりを探すために奔走してくれていて、今日はその結果を共有することになっていたんだ。



「それで、里桜は今どこに居るんだ?」


「まだ居場所までは分かってないよ。莉桜様も言ってたでしょ、足跡を辿れたって」



 確かにそうだった。これまで何の手掛かりもなくて焦りと不安を押し殺しながら過ごしていた時間が長かったからか、ついつい浮足立ってしまった……。


「それじゃあ、お姉ちゃんの手掛かりっていうのはどんな……?」


『ハクボクはあの黒紫の霧の中へと潜っていったが、あれはこちらから干渉することが難しいというだけで、この世界のものとは全く関連の無いものというわけではないんだ。奴が自分の力だけで里桜を運んでいたらその跡すら嗅ぎ分けることは難しかったが、ハクスイの身体を使っていることが手助けになったんだ!』



 えーと……つまり、どういうことだ?



「そっか、アイツが自分の力だけで行動していれば、自分の後を追ってこられないように、途中様々なものに『認識』の力を用いてそちらへこっちの気を向けることもできるけど、今のアイツはお兄ちゃんの身体を使っているから、人としての身体を通した力の痕跡が多少なりとも残る。狐さんはその力の痕跡と微量に残っていたお兄ちゃん、お姉ちゃんの臭いを嗅ぎ分けることが出来たんだね」


「理解力すご……」


『……里桜よりも賢いかもしれないな』


「お姉ちゃんの悪口はダメだよ?」



 そこはちゃんと怒るんだな。


 ツナグの言葉でもあまりピンと来ていなかったおれに、宇留木が溜め息交じりに改めて説明してくれた。



「莉桜様みたいな存在が力を使う時と、ウチみたいな人間が術を使うときだと、その力の濃さとかその場に残る力の匂いとかが違うんだってさ。あんたにはなんて言えば伝わるんだろ。スポーツとかってさ、本当に上手い人のプレー程、外から見たら簡単にやってるように見えるじゃない。けど、大抵の人が目につくのは、そこそこ上手い人の派手なプレーでしょ?それと同じよ」


「ふむふむ……」


「分かってないな……?莉桜様たちが力を使うときは、それを他の存在に悟られないように、上手くその痕跡を消しながら使うの。けど、今のハクボクはハクスイさんという人間の身体を通してその力を使っている。長い年月を経てその身体を我が物顔で使えるようになっているとはいえ、その力の使い方にはハクスイさんの特徴が滲み出てしまうってこと」



 要するに、ハクスイさんの身体を使わなければ上手く足跡を消しながら移動できたのに、その身体を使って移動しているから、少し雑さが出てしまっていて、今回莉桜さんと宇留木はその微かな落とし物を見つけることが出来たってことか。



「それで、だいたいどのあたりとかまでの予想はつけられそうなのか?」


「それが……」



 そこまで流暢に経過を共有してくれていた宇留木の言葉が止まった。


 目を向けてみれば、眉を下げて顔も俯かせてしまっている。



『おそらく涙月湖の底だ』



 宇留木が言い淀んでいるのを見て、代わりにといった形で莉桜さんが口を開いた。



「涙月湖って……」


「あそこ、湖の底だったんだ……」



 涙月湖といえば、県内最大の湖にして、この国で一番の深さを誇る湖でもあり……十数年前にその付近で起きた土砂崩れの中から幼少期の里桜が発見された場所でもある。


 おれはその不思議な偶然に、そしてツナグはツナグで、今まで自分が居た場所がそんな場所であったことに驚いていた。



「そんな場所どうやって行くんだよ」


「ツナグ、あんたはどうやってここと外を行き来してたの?」


「いつもアイツが開いたあの黒紫の霧の中に入ったあとは真っ暗で、外の様子とか分からなかったから……新しく見えてきた光に向かって飛び込んだら目的地についてるって感じだったの」


「うーん……手がかりはなしか……」


「ごめんなさい……」


「いやいや、ツナグが悪いわけじゃねえよ」


『こういうときに恋夜が居てくれたら心強いのに……居ない者に期待しても仕方ないのは分かっているんだけどね』



 そっか、確か恋夜さんが人の感情を増幅させて、莉桜さんが願いを形として創り出すことが出来るから、「湖の底に居る里桜のもとに行きたい」って願えば、簡単に実現できてしまうのか。莉桜さんたちが二人揃っていた時って、文字通りなんでもできたんだろうな。



「……まあ、今日はここまでにしようか。ウチも莉桜様と一緒に動き回って疲れたし、このまま考えててもアイデア出てこなさそうだし。一旦休んで、またふとしたときにアイデアがふと降りてくるかもしれないから、何か思いついたらすぐに共有することにしよ」


「そうだな、それがいいかもしれない」



 各々カバンを手にソファから立ち上がり、狭い階段を下りて精算を済ませて自動ドアが開くと同時に吹き付ける冷たい風に思わず目を閉じながら外へ出た。


 そして、足を一方踏み出したその瞬間、眼前を何かが勢いよく通り過ぎたような風を感じた。



『ったく!!近寄るでないわ、この低級共が!!くっ……もう少し力を取り戻すことが出来ていれば……』



 そんなおれたちの目の前を、ものすごい勢いで横切っていったのは、紫色の袴の巫女服姿の女性と、小さな黒いモヤが何体か。その女性の衣服はボロボロでところどころ破けていて、その頭には大きな耳がついていて、腰部からも長く大きな尾が。その姿はまるで莉桜さんと瓜二つで……。



『恋夜……?恋夜だ……!!二人とも急げ!!頼む、恋夜を救うのを手伝ってくれ!!』


「わ、分かった……!!」



 とは言っても、おれには何もできないんだけどな……そう思いながらもがむしゃらに走り、何とか恋夜さんに追いつくことができた。



『……光輝!』


「久し振りっすね……ちょっとなんすけどね……」



 恋夜さんとの約束を守れなかったことに少し胸の痛みを感じつつも、宇留木と莉桜さんが追いついてくるまでの時間を稼ごうと、未だに恋夜さんに近づこうとする黒いモヤを振り払おうと、まとわりつく虫を払うように手を振り回した。



「え……?今、手応えが……」



 確かにパシンと手の甲に衝撃を感じた気がしたんだけど、それを確かめるためにもう一度黒いモヤを叩こうとしたときには、既に宇留木たちが追い付いていて、得意のお札でそいつらを滅してしまっていた。



『宇留木の末裔か……現代にしては良い腕をしておるではないか。ひとまず礼を言う。お主らのおかげで助かった』


『恋夜……』


『……莉桜、久しぶりだな』


『今までどこ行ってたんだよぉ~!!!!』


『っおい!人前で抱きつくでない!!』


『いいじゃん!!この子たちにしか見えてないよ!!』


『こやつらに見られておるではないか!!』


『え、じゃあ見られてなかったらいいの?』


『そうは言っておらん!!全く……しばらく顔を見せなくて悪かったな。待たせた……ただいま』


『うん……!!』



 恋夜さんの姿を目にした莉桜さんは、その大きな目に涙を溜めてプルプルしだしたかと思うと、その次の瞬間には恋夜さんにひしと抱きついてしまった。


 微笑ましい再会におれたちも笑ってその姿を見ていた。ツナグは自分自身と重ねてしまったのか、少しだけその光景から目を背けてしまっていたけれど、小さく「よかったね……」と呟いているのが聞こえてきた。



『本当に良かった……それにしても、そんなにボロボロになるなんて、この時代にどこに行ったらそんな目に遭うの?それに、恋夜……力がだいぶ弱まっているみたいだけど……』


『待て待て、一つずつ答えてやるから一度落ち着け……』



 そう言って莉桜さんを優しく引き剥がし、一息ついてから恋夜さんは語り始めた。



『我は以前光輝と会話をした少しあとに、ハクボクの奴に捕らえられておったのだ』


「あれ春頃じゃなかったですっけ。確か里桜が女の子の姿になってから少し経ったくらいの頃……あれからずっとっすか?!」


『ああ……そして力を失ったことについては、奴に奪い取られたからだ。奴の「認識」の力と我の「思いを操作する」力は相性が良い。奴はどうやら永い封印の中で力を弱めてしまったらしく、それを補うために我の力に目をつけ、「簒奪」の力を用いて我から力を少しずつ奪っていった』



 恋夜さんはハクボクの拠点に設けられた牢の中で鎖に繋がれ、少しずつ力を奪われていたという。服がボロボロになってしまったのは、それが原因らしい。よくよく見れば髪や尻尾の毛並みも、依然見た時よりもベタベタしてしまっているように見える。



『こら光輝、あまりジロジロと見るでないわ。お主よく、でりかしーとやらが無いと言われるだろう』


「よく言ってくれました恋夜様」


「おい宇留木?!……それは悪かったっす!!話戻しますけど、そんな状態からよく抜け出せましたね?」


『いや……我の力だけでは抜け出すことなど出来なかっただろう。あの小娘が来てくれたからだ。何の因果かは分からないが、莉桜、お前と同じ名を持ち、無自覚にもお前の力をその身に宿していた小娘のおかげでな』


「それって……!!」


『そうだ、里桜、あの子が来てくれたんだよ。彼女と話して、並んで歩いてみて、お前が彼女を気に入った理由が分かった気がしたよ。彼女は不思議な雰囲気と力を持っているな。あらゆるものを、その者が持つ思いも何もかも全て、存在ごと受容してくれそうな安心感が得られた』


『そうだろう!』


「けど、今里桜が恋夜さんと一緒に居ないってことは……」


『……ああ。彼女が持っていた莉桜の力と、我に残っていた力を使って、こちらに出てくるための扉を作ったんだ。けれど、その扉を作った直後、彼女の背後に奴が現れた。どうやら彼女は隙を見つけて奴から逃げ出してきたようだった。我は彼女へ早く来るよう手を伸ばしたのだがな……』



 扉の前で待つ恋夜さんのもとへ駆け寄ろうとしたとき、ハクボクは里桜が持っていた勾玉を狙って打ち抜き、里桜はそれによって砕けてしまった勾玉の欠片を拾うために恋夜さんから一度離れてしまったという。



『彼女が欠片を拾い終えた時には、既に彼女のすぐ後ろまで奴が迫ってきていたんだ。間に合わなないと判断したのか、彼女はその勾玉の片割れを我に託し、その扉を自ら閉じてしまった。……きっと、奴が我を追ってまたこちらに戻ってくることが無いように、自ら囮になろうと考えたのだろう』


「お姉ちゃん……」


「あいつはまた……他人のことばっかり考えて……!!」



 ツナグは苦しそうに胸を押さえて、宇留木は拳を強く握り締めてそう言った。



『これが、彼女から託された勾玉だ。我もその時は動転していて気が付かなかったが、莉桜ならすぐに分かるんじゃないか?』



 何か含んだような言い方をしながら、恋夜さんは懐から淡く光を放つその石を取り出して見せた。


『これ……この光の温かさは……オシトナの……!!』


「オシトナ……?」


「それって、莉桜様の大切な人の名前じゃ……」


『そうだ。人間でありながら精霊と言葉を交わし、その力を扱うことが出来る白魂の民のなり損ない。今となってはその力をもって晴夜の民を救ったとして神にまで祀り上げられてしまった。アイツの力が込められた勾玉だ。それもかなり濃い強力な力だ』


『どうしてこれをリオが……あ……そうか。全部……そうか……じゃあ、やっぱり……』



 里桜が大社の主祭神であるオシトナ様のご加護を得たということなのかと思ったけど、どうやらそう単純な話ではないらしい。


 莉桜さんと恋夜さんの話をまとめると、おそらく神域に居る神達も今回ばかりはハクボクの討伐に本腰を入れたらしく、その最前線で指揮を執っているのが、自分たちの主でもあるオシトナ様であり、里桜はそのオシトナ様からの支持を受けて動いていたのではないかということだった。



『普通の人間が神域に呼ばれるわけがない。彼女や、そこに居る小娘のような、白魂の民くらいの特別な人間でなければ神達も興味は持つまい』


『それに、お前の力をその身に宿して使うことが出来たあたり、おそらくオシトナの先祖にあたる血なのかもしれない。自身の力と同様の力を持つとなれば、オシトナも計画が練りやすいだろう。だが、これで足掛かりは出来た』


「足がかり……ですか?」


『ああそうだ。オシトナは縁を司る神だ。そんな彼の力を宿しているこの石は、たとえ二つに分かれてしまったとしても、必ずその片割れとの縁を示し続けている』


『つまり、今恋夜が持っているその勾玉の放つ力を辿っていけば、リオのもとにたどり着けるってことだ!!』


「おおお……!!」


『彼女は恐らく直感的にこの勾玉の持つ力がどのようなものなのか察したのだろう』


「居場所がわかった上に、莉桜さんと恋夜さんの二人が揃ったんなら、すぐにでも――」


『それは無理だ』


「えっ…………?」



 皆の眼に次々と火が灯されていく中で、恋夜さんだけが一人冷静に言い放った。



『先ほども言ったが、我は既にハクボクにその力の大半を奪われ、残っていた力もこちらへ戻るためにほとんど使ってしまった。それに莉桜、お前だって心核を奪われているんだろう?そうなれば、今のお前たちを守りながら奴と戦い、彼女を取り戻すことなど無理な話だ』


「なっ……!そんだけの話ししといて、ここまで聞かされたのに諦めろって言うんすか?!」


『はぁ……そうは言っておらんだろう』


『恋夜は昔から言葉が足りてないんだよね~♪』


『お前に言われたくはない!』


『はいはい♪コウキも落ち着いて。恋夜は何も里桜を助けに行かないって言ってるわけじゃないんだよ。今のコウキたちじゃあ里桜を助けるのは難しいって言ってるんだ』


「確かに……前に大社の境内でにらみ合った時、ウチらは何も出来なかった……」


『ちゃんと己の実力を受け入れられるのは良いことだ。偉いぞ、宇留木の末裔』


「自己紹介が遅れてしまったこちらが悪いんですが、沙羅って呼んでください」

『こちらこそ名乗りが遅れたな。以前光輝には名乗っていたものだから、ついそのまま話を進めてしまった。我は恋夜だ、以降よろしく頼む』


「そういう意味なら分かったっすけど、だとしたら今後はどうするんすか?」


『鍛えるのさ!』


「鍛える?」


『ああ、お前たちが自分の身は自分の身で守れるようになるくらいにな。そうすれば我らは奴がいる場所への移動のみに力を割くことが出来る』


『光輝、以前話した時、彼女から目を離すなと言ったよな。もっと強くなるんだ。もう彼女が自分の見えないところへ行ってしまうのは嫌であろう?であれば、たとえ彼女がどこへ行ってしまったとしても、迎えに行けるだけの力をつけろ。そうすれば、彼女だって自由にどこへでも行くことが出来るし、お前だって自由に迎えに行くことが出来るはずだ』


「確かにな……どこにも行ってほしくなくて縛りつけるのもなんか違うし……決めた!特訓お願いします!!里桜のことさっさと迎えに行ってやらねえと!!」


「そうね、ウチもちょっと、流石に里桜には一言言ってやりたいこともあるし」


「それはおれも賛成」


「あ、あの……私も……!」


『案ずるな、お前にもちゃんと役割は与えてやるから、今はこやつらの特訓をサポートしてやってほしい』


「分かりました……」



 眉を下げて、少しだけ寂しそうにしているツナグの気持ちも分かる。


 何なら、この場で一番里桜に会いに行きたいと強く思っているのは彼女かもしれない。それに、これまでのことを考えれば、このような状況を作ってしまった原因が自分にもあると思うと、挽回したいと考えてしまうだろう。



「大丈夫だよツナグ、誰も置いていったりしないさ。みんなで一緒に里桜のこと迎えに行こうぜ!」


「……!!うん……」


『くく……天音の血は争えないな』



 そう言ってツナグの頭をポンポンとしてやると、いつものツナグならすぐにでも手を振り払ってきそうなものだけど、おれの言葉に静かに頷いただけだった。なんだか恋夜さんが笑いながら何か言ったような気もするけど……。



『では、天音の戦い方を知っている我が光輝の指導を。そしてある程度戦いの基礎が出来ている沙羅のことは莉桜に指導をしてもらうことにしようか』



 改めて口を開いた恋夜さんが特訓におけるそれぞれのパートナーの割り振りを行い、おれは明日から恋夜さんと里桜奪還のための特訓を行うことになった。



『みっちりしごいてやるからな、光輝』


「なんか目が怖いっすよ、恋夜さん……」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る