第7話 和解の一歩目
「……話しはついたか?サンサーラ・ミレニアムとやら。何故我らを助けたかは知らぬが……成敗してくれる!」
一段落ついたので英雄たちの方を向くと、俺たちに剣を向けていた。
まあ、新たな魔王軍なんて敵でしかないよな。
でも完全に敵対するのは躊躇している気もする。
助けた形になったことと、俺の人徳のおかげだろうな。
「まあまあ、剣を収めてください。俺たちは人間に敵対する意思はありません」
「神剣のサリエルとまで呼ばれたあなたが魔軍に寝返るなど……見損ないましたぞ!」
なだめようとしたが、さらなる剣幕で怒鳴られた。
……神剣のサリエル?
後世でつけられた異名かな。
なんか仰々しいな……。
俺の星術は神由来というより星々や宇宙由来なんだけどな。
神々と比べたら格としては一段落ちる。まあそんなの関係なく神くらい殺せるけど。
「俺の人生は一度終わりを告げました。そこでもう人類に対する義理なんて尽きているんですよ。なんどもなんども死んで生き返ってを繰り返して、魔王を討伐したんですから、もう良いでしょう」
「……尋常じゃない苦痛を受けたというのはわかる。だが、それでも裏切っていい理由にはならぬ!」
「裏切った?まずそこから間違いです。俺は確かに魔王となりしたが、流転し転輪する千年王国(サンサーラ・ミレニアム)は別に人間の廃絶なんて望んでいません。なんなら、あなた方と組んでこの時代の魔王軍を倒したいと思っているんですよ?つまり、我々は味方になれるんです」
そこまで話すと、英雄の表情が変化した。食いついたな。
「……続けろ。話を聞いてからでも遅くはない。いいな、お前たち。こやつは腐っても伝説の大剣豪様だ。話くらいは聞く価値があるかもしれぬ」
戦えば確実に死ぬとはわかっている眼だ。
それなのにここまで敵意をあらわにするというのは……それだけ裏切りが嫌いなのか、勇敢なのか、はたまた現実が見えない馬鹿なだけなのか。
前者二つが近そうだ。特に……多くを占めるのは前者かな?
「大魔王様はそういうのも嫌いじゃないでしょうが、俺は虐殺とか略奪とか、本当に……反吐が出るほど嫌いなんです。魔人になった今でもね。魔族相手なら一応許容も出来ますが、ヒト相手には絶対嫌です。だって、主観の上では今でも俺はヒトのつもりですからね。一応は歴代最強の勇者パーティの末席に座るものですから、最低限の善性くらいは持っていますよ」
「……」
「で、大魔王様と俺は上下関係であると同時に盟友ですから、配慮は欠かさないでくれます。あなた方に生贄を要求したりもしません。まあ、そんな必要がないというもの大きいですが……。ほら、手を組むのになんの支障もないでしょう?」
その言葉に対し、英雄クラスの男は考え込む。
……こうしてみると、かなりの武技を扱えそうだな。
そして、身体能力は俺の三倍以上。
徹底的に武技を教え込めばそれなりに役に立ちそうだ。
それに、配下らしき奴らも中々やる。
鍛えれば今のコイツ以上には確実になれるだけの素質はある。
……ふむ、エース部隊かなにかなのか?
それとも、この時代では『かがくてきとれーにんぐ』とやらが浸透していたりするのか?
いや、その程度では才能までは磨かれんか。
まあ良い。返事を待とう。
あ、メーティがちょっとイライラしてる。
『せっかく助けたのにぃ……まあ気持ちはわかるけどウザいなぁ』みたいな考えがあるんだろう。
精神性は俺よりも子供っぽいからな。仕方ない。
根っからのクソガキである俺とは違って、加齢で落ち着くだろう。
……はあ、なんで俺はこんな落ち着きのないガキなんだろうね。
……それからしばらくして、返事が返ってきた。
かなり話し合ってたからな。
内心もある程度は読み取れるので、何を言い出すかは想像がつく。
「……大剣豪サリエル様、及びに大魔王メーティ。我々は貴殿らを人類守護の英雄として迎え入れよう。それで許してくれるか?」
「……はっはっは。どうですか?大魔王様」
論外な回答に対し、メーティに話を振る。
「当然却下よ。人類を守護してやるのは問題ないし、英雄と呼ばれるのも悪くないわ。でも、上下関係は私達が上なんだから!あなたたちが私に跪くなら許してあげる。ざこのくせに調子に乗らないでよね?」
「……そうか。そうだろうな。しかし、一戦も交えず魔王の軍門に降るなどというのは許されない!そこで……我が国の勇者様、及びその仲間たちと戦っていただけないだろうか?あなた方が勝てば我が国はメーティ、貴様の軍門に降ろう。しかし、我々が勝てばその時は……見逃してもらおう」
最後は下についてほしいと言いたかったけど、そこまでは要求できなかったんだろうな。まあいいよ。
「別に、あなた達の配下として戦っても良いんですよ?」
俺の発言に場が凍った。
「何言ってるのおばか!こんな奴らの下につくとか有り得なないわ!」
メーティが頭を軽くチョップしながらそう言ってきた。
いやまあ、本当に負け得るんならそうだろうけど……。
「俺たちが組んで負けると思いますか?なんなら、成長を加味するなら俺一人でもこの国を滅ぼすくらいはできるでしょうよ」
「まあそうだけど……魔王軍としてありえない発言よ!魔王として恥ずかしくないの?ざぁこっ……!」
結構怒ってるな……まあ仕方ないかもしれないけど。
でも、本当に向こうが納得できる条件は整えなきゃならんからなぁ。
「……良く考えてください。この方々はともかく、本国の奴らがこんな提案を呑むと思いますか?条件は飲めるものを提示するべきです。三方良しが交渉事の基本ですよ?」
「むぅ。そこらへんはよくわからないけど……納得できるだけの理はあるわね。仕方ないわ。……我が軍の頭脳はあなただから、私はそれに従ってあげる。でも、あくまで私が大魔王様ってことは忘れないでよね?」
「わかっています。そもそも、俺にトップは向いていません。一番向いているのが鉄砲玉な人種なんですから。俺にできる仕事と言えば、ひたすらに敵を斬ることと本当の軍師がやってくるまで場をもたせることくらいです。……まあともかく、それでいいですよね?」
「あ、ああ……。譲歩してくれたこと、ありがたく思います。しかし……あの古の大剣豪が新たな魔王軍の配下となっているとは……」
そう言って、英雄の男は嘆いていた。
なんとなく謝ってみたが、反応は要領を得ない。
そして、彼らは去ることになった。
「……魔王軍とはいえ、此度の恩義は忘れぬ。大魔王メーティ殿、決着がどう着くにせよ次に戦うときは仲間として頑張りましょうぞ」
「今はよわよわだけど、それなりに見込みはありそうだから鍛え上げてあげるわ。戦闘技術ではサリエルに劣るけど、あなた達よりはずっと上なんだからね?配下として強くしてあげるんだからっ」
「ふん、我々は屈しませぬからなっ。……総員、王都へ向けて帰還するぞ!」
「応!」
英雄の号令に対し、精兵らしき者たちは整然とした動作で敬礼をしてから帰還を始める。
そうして、距離がやや離れ始めた頃……。
「なんの真似ですか?先程のやり取りは見ていたでしょうに」
メーティの背後には氷の槍が、俺には剣による抜群の刺突が与えられた。
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