第5話 現状を知る

「……で、魔王軍を打ちのめすための計画とかは用意してるんですか?」

 

「あるわけないじゃない。現代についてあまりにも知らなすぎるし、正直私の頭はざこだからね。そこを自覚して鍛えて頭つよつよになったあなたよりは確実にざこね。まあ、役割分担と行きましょう。私は兵を鼓舞し統率する将で、あなたは策を立て、吉凶を占う軍師。黄金コンビじゃない」

 

「俺が軍師というのはガラじゃないですね。俺の本領は学者であって、作戦立案なんてそこらの一般人にも劣るでしょうし。そもそも地頭は死ぬほど悪いんですから、元々は学者にも向いていません。応用力も皆無ですし、戦略の知識もほぼなし。やっぱり学者と軍人じゃ土俵が違う。まあ、本職である戦士としての目線もありますから補えないとは言いませんが……だいぶ、俺の矜持というか趣味が混ざりますけど、本当にいいんですか?」

 

「良いんじゃない?かつて私の本体を倒したときはあなたが司令塔として指揮を取っていたじゃない。勇者ではなくあなたがね。それで結局真竜すらも屠った。なら実績十分だと思うわ。それに戦の勝ち負けなんて結局は時の運よ。伝説の五帝の時代……人間や魔族がそこまで強くなかった、戦争指揮が芸術であった時代の話でもね、戦力がいくら整っていて、将が最強でも、数で押されている無名の一発屋に負けることもあったわけだし」

 

「五帝の時代をそれなりに知っているみたいですね。……口調と生意気さに反して中々博識なんですね」

 

「反してってのは気に入らないけど……一応、私は魔王のチカラの実体化だからね。魔王本体の記憶は薄れていても同じ記憶を持っているし、その魔王は五帝の時代から生きている。なら、詳しいのも当然ね!」

 

「……!!!メーティは本当に最高の魔王です!」

 

 驚きすぎて、喜びすぎて、思わず抱きついてしまった。

 五帝時代が本当に実在するかは怪しい史実だったし、実在したとしても脚色された部分が多いものだと思っていた。

 しかし、語り口からして有名な歴史家の残した書物は本当に信憑性が高いのだと理解できた。

 ……最高だよ、メーティ!

 

「な、なに……?いきなり抱きついて……こ、こら、頭撫でないでよ、ざぁこっ。……ふにゃあ」

 

 抱きついてひたすらに撫で回す。

 術理を使って、この子にとってどういう撫でられ方が気持ちいいのかを分析しながらひたすらに撫でる。

 普通は頭を撫でられるなんてのはたとえ相手が好きな男だとしても女の子は嫌なのらしいが、大剣豪だけあって手先は器用だし分析も完了しているから……あとは俺のおもちゃだ。

 

 ひたすらに撫で続けた。

 

「……はぁ、はぁ。やっと終わった……。いきなり何してくれてるの!?いやまあ、嬉しかったし凄く気持ちよかったけど……今回のあなたはつよつよじゃなくてざこよざこ!」

 

「いや、本当に素晴らしいことを教えてくれたので、思わず抱きしめたくなっちゃったんです。すみませんね」

 

「まあ、あなたの本質は天文学者に近いと思ってたけど、歴史を学ぶのも好きなのは不思議ではないわね。学者ってイメージ通り変態だったけど……あなたならまあ許してあげるわ。……で、晴れて軍師となったわけだけど、状況とか聞いておく?私もあんまり現代は詳しくないんだけど……多分今のあなたよりはずっと知っているから、教えるわね」

 

 それからしばらく現代の説明がされた。

 

 まず、300年前ほどに産業革命とかいうもののお陰で機械文明が大きく進んだらしい。

 異世界人の知り合いからスマートフォンとやらを見せてもらったことはあるし、車や鉄道なる存在も教えてもらったからなんとなくは理解できる。

 で、それが起こってからしばらくして、魔導技術も絡めたさらなる発展が起こった。

 

 そのおかげで、かつてとは比べ物にならない文明を人間は出にしたらしい。

 飛行機とか言う異界の技術によく似た空飛ぶ鉄の舟、遠くにいながら容易にやり取りすることのできる細長い板、かつての時代の下級幹部くらいなら一般人が操っても殺せるほどの兵器の数々……中々ワクワクする話だった。

 

 知りたいことが山程増えた。

 

 だが、それならなおさら軍師としては役に立てるとは思えない。

 それでも頭を働かせなければ。

 

 まず俺達に必要なのは金、食料、人材だ。

 金がなければ自由に動けないし、人材の規模が二人だけでは無理がある。

 俺達二人にはあまり必要はないだろうが、食事がなければ人材は養えない。

 

 まあ、最低限必要なものと言った感じだな。

 

「そうですね。たしか……ここら一帯を治めている国は、あと一、二年で滅ぶんでしたか?」

 

「そうね。戦士たちはそこそこの水準だけど、周りの国が次々と滅んでいっているから……最高幹部クラスが出張ってきたら一瞬でしょうね」

 

「そうですか……なら、助けてやって千年王国(ミレニアム)の支持者か信奉者にでもして差し上げましょう」

 

「その心は?」

 

「魔王には治める国が必要でしょう?戦闘の主力は俺達二人で良くても、守りを固める人材くらいは欲しいですし、拠点も金も必要です。俺たちこそが歴代最強の魔王と勇者パーティのメンバーであると証明するためには、名を轟かせるのも必須ですしね。現状のところ、いるのは敵と、敵の敵だけ。だけど敵はあまりにも強大でまともにやってたら勝ち目はない。だったら敵の敵を味方とするのは必須です。それになにより……無限に生き返るという勝ち筋を得ることは最大の補強となるでしょう」

 

「言いにくいけど、今のあなたでは何度も生き返るあの技術を使うのは多分無理よ?だって生き返らせる際に……」

 

「ああ、言わないでください。察してしまいました。……今の俺は人外ということですね」

 

「そうなるわね。今のあなたの種族は『魔人』。人間であると言えなくもないから、一応使える可能性はあるけど……分類で言えば大体の人が魔族だと言うと思うわ。だから、ね」

 

「……まあ、今の時代では失伝してる可能性も考慮していたので問題はないです。大きな痛手ではありますけどね」

 

 かつての俺たちは、死ぬたびに生き返って戦い続けた。

 それは勇者の頭飾りと教会が与えられた唯一神の権能の力によるものなのだが、それで生き返るのは人間やエルフなどの『人類』でないと無理だ。

 魔人が生き返った例もあるにはあるのだが、その人の場合は神に忠誠を誓った聖職者だからというのが大きい。

 大魔王に魂を売った俺が生き返れるとは思えない。

 

 なかなかにきつそうだな……。

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