第4話 新たな肩書き
「そういえばですけど、名前、聞いてませんでしたね。教えてくれませんか?」
「名前?うーん、本体の名前は知っているわよね?」
「ええ、魔王ワイドブレイズ、という名は良く知っていますよ。竜王、赤竜、真竜なんて異名もありましたよね。まあ、魔王というとんでもない存在に、わざわざ名指しで直々に教えられたんですから忘れられませんよ」
「そうそう!でもぉ……私と本体は別人なんでしょう?」
「砂粒程度には本体の魂も混ざっていますけど、まあ別人と言って問題ないでしょうね。……なるほど、名前をつけろということですか?」
「うん!つよつよ魔王はさすが違うわね!それと名前だけじゃなく、名乗りなんかも考えてほしいわ。名前は私に相応しいふわふわでかわいい名前で、名乗りはハッタリが効いているのが良いわ!」
中々無理難題をふっかけられた。
この手のネーミングセンスはないんだよな正直。
仲間二人が更に壊滅的だった上に故事なんかを学んだりしたおかげもあって、ギルド名なんかは俺が決めることになったけど……大変だな。
……うーむ。
「では……メーティというのはいかがですか?」
「……うん、うん!そこそこのセンスはあるじゃない!気に入ったわ。これから私の名前はメーティ、うん!名乗りもはやく!」
喜んでくれたみたいで嬉しい。
許されるか不安だったが……よかった。
「大魔王メーティと名乗るだけで良いと思いますし、権威を誇示するためにも魔王を上回ろうとするこの呼称は名乗ってほしいです。これとは別に、という話ならば……無尽光のメーティ、というのはいかがでしょうか」
「意味は良くわからないけどかっこいいわねっ。魔王なのに尽きることのない光を冠する……素晴らしいわ!」
なんか変なスイッチ入れたみたいだけど……ほっとこう。
いつか思い出して顔真っ赤にする日が来るだろう。
……名付けた俺が言えることではないか。
「やっぱりあなたは素晴らしいわね。その功に報いるため、新しい名前を上げるわ」
「俺にはサリエルという名前がありますから大丈夫です。一応、名前に愛着はあるんですよ?」
「そう……まあ、女の子として通用する名前だから許してあげるわ、つよつよ魔王ちゃん。でも、姓はなかったわよね?たしか実家から出ていったんだよね。なら……イゼルローンという姓を上げる」
……マジかよ!
「これは魔族の間で長らく空席になっていた公爵家の姓よ。それを復活させて、あなたにあげる。まあ、私は大魔王で魔王を超える存在だから、実質皇帝よね。だからあなたにはワンランクアップで王号を与えるね!魔王と名乗るんだから当たり前の処置だけどぉ……せいぜいざこざこな姿をさらさないように頑張ってね、つよつよ魔王ちゃん!」
中々嬉しいことをしてくれるじゃないか。
……結構本気で嬉しい。
イゼルローン魔公、特に六代魔公イゼルローンといえば教科書に出てくるレベルのバケモンだったからな。
当時の魔王よりもずっと強かったらしい。そのうえ人望もあったから、その気になれば多少の労力で玉座を簒奪できた。
それでも忠義を尽くし続けた……期待には答えたいもんだ。
「恐懼感激(きょうくかんげき)の極みです」
跪いて、頭を下げて礼をする。
……ふむ、悪くはないじゃないか。
別に屈辱なのが気持ちいい訳じゃない。
人間で、しかも勇者の仲間にして親友である俺が魔王に忠誠を誓い、頭を下げ、王号を賜る……シチュエーションとしては上々だ。
今のところは名ばかりの王号だが、メーティをのしあげて本物になってやる。
楽しい野望が燃えてきた……。
「私の名乗りは魔王サリエル・イゼルローン、あるいは魔剣聖サリエル・イゼルローンとします。魔軍司令なんてのもいいかもしれませんね。ここまできたら新生旧魔王軍の通称も決めましょう。流石に『新生旧魔王軍』じゃカッコが付きませんしね」
「そうね、それはもう決めてあったの。まあ、安直なネーミングなんだけど……流転し転輪す千年王国(サンサーラ・ミレニアム)、でどうかしら?」
「安直……?ルビまで付けるとは、なかなか厨二病をこじらせてますね……」
「うっさい!あなたはやっぱりざこよ、ざぁこっ」
メーティは顔を真っ赤にして少し上から睨みつけてくる。
可愛いけど、今の身長がこの子よりもほんの少し低いことを実感してしまって、なんだか少し鬱だ。
でも、センスは俺的には悪くない。いや、かなり素晴らしいと思う。
世間的には痛々しいのかもしれないが、『大魔王』の組織としては仰々しいくらいがちょうどいい。
「まあ、俺としてはなかなかかっこいいと思いますよ。他の人からすると厨二とか思うのかもしれませんが……うん、かっこいいです」
「ふ、ふん。わかればいいのよ。やっぱりつよつよ魔王ってことにしてあげる」
「ふふふ……」
思わず、微笑ましく思ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます