第2話 メスガキ魔王

 まあ、説明しておこうか。このデザインの双頭の蛇は、魔王軍のシンボルと言える紋章だった。

 そして、大幹部に当たるもののみ、首飾りだったりタトゥーだったり、盾に刻まれていたりでこの紋章を使用することが許されていた。

 

 人間たちにとっては恐怖の象徴で……え?俺、人類の敵?

 いや待て、俺はまだ人間だよな?確か人間のまま魔王軍幹部になったやつもいたはずだし……改造とかはされてないよね?

 

「どうしよう、どうしよう!」

 

 激しく頭が混乱する。駄目だ、思考がまとまらない。

 魔王軍幹部として捕まっているということは、処刑されるということだろう。

 勇者パーティだったから情けとしてこの牢獄に入れられただけで。

 

 ああ嫌だ!今回は絶対生き返れないじゃないか!

 どうしよう、どうしよう!

 

 いや、冷静になれ……己の頭の弱さとこういう性格が嫌だから、学者系の威名をサブとして選んだんだろう?

 ……脳裏解析、型に嵌める、鎮静。

 

 心を落ち着かせるルーティンをする。

 

 よし、落ち着いてきた。

 

 まずは状況がわからないと駄目だ。

 衛兵にでも聞かないと……いや、でも人の気配が殆どないな。

 一人だけ反応あるけど……なんかおかしいし。

 

 あれ?こっちに近づいてきてる?

 

 それからほんの少しで、この牢屋の前に何者かが現れた。

 姿を確認する。

 ……偉そうな顔立ちの、挑発的な目線を向けるものっそい美少女だった。

 だが……この子も俺と同じ髪飾りをしているし、なにより服装が……なんというか、魔王そっくりなんだよ。

 魔王は元々はただのドラゴンであり、人型になる術を収めていなかった。

 だから特に服を着ることとかもなかったんだけど……なんというか、魔王の外見をイメージしてデザインされたような服なんだよ。

 純白でところどころ黄金で装飾された、聖なる気質すら感じさせられる服。

 古代の国家で着られていたらしい服にも似ている。

 

 でも俺からすると……。

 

「その、キミ……もしかして魔王なんですかね?」

 

 魔王に似ている、としか思えない。

 

「ええ、どうにもそうらしいわ、我が宿敵よ。かつての記憶はあまり残っていないし、前世の私と今の私が同一人物だと完全に信じられたわけではないけれど、あなたたちとの直接対決は鮮明に覚えているわ。特にあなたの剣技は魂に刻まれてるのよ?……でも、あの頃とは姿がぜんぜん違うわね?なんだかとても可愛らしい姿になっちゃったね。ふふふっ、かわいー!」

 

 なんだか凄く脱力してしまった。魔王ってこんな性格だったのかよ……。

 いや、コレは違うな。

 本人が信じきれていないと言っているように、完全に同一人物ではないのかも知れない。

 

 右手を突き出して術式を展開する。

 

「ちょっと、何するの!?今は多分敵じゃないから!それどころか私も何が起こっているのかあんまりわかってないの!あと、私が死んだらあなたも死ぬわよ!……多分だけど」

 

 魔王(仮)は必死に抵抗してくる。

 性格がどうにも噛み合わない。

 あの頃は人語を喋ったりはしなかったので断言はできないが……絶対に違う。

 こんなのがあの最悪の強敵であってほしくないので違ってほしいと思う気持ちももちろんあるのだが、そういう問題ではない。

 こういうときは、器用貧乏に極めててよかったと思う。

 

「ただ解析しているだけです。喜んでください。自分の正体を知れるかもしれませんよ?」

 

 魔王かもしれない相手に敬語を使うというのは少し癪だが……表向きはずっとコレで通してきたから今更癖は抜けない。

 

「そ、そう。なら良いわ。でも、私に危害を加えないほうが良いわよ?これは忠告だからね。憎いというのはわかるけど……今は……」

 

 喋っている途中だが、解析結果が出た。

 ……なるほどな。魔王と言えば魔王だが、少し特殊か。

 

「……結論から言うと、あなたは魔王のチカラの残滓です。魂そのものだったり、その残滓ではありません。多少、魂の欠片が入っていたり影響を受けていたりはするようですが……人格や魂の構成はチカラのエネルギーが殆どを占めています」

 

「……なんだか、自分の存在を否定されたみたいで腹立つわ。まあでも、それなら敵対する理由もないわよね。だったらむしろ最高の結果ね!私、やっぱりポジティブで天才〜!」

 

 ……頭が痛くなる反応だが、確かに敵対する理由はなくなった。

 チカラには罪はないわけだし。

 

「まあ、そうですね。それに、たとえ魔王本人だったとしても……ただ無様に、何も残せずに、罪人として名誉もなく死ぬよりは付き従って惨めに生きるほうがマシですし、敵対する意思はありませんでした」

 

「殊勝な心がけね!でも、気概が足りないわね。あなたはざこね、ざこ!ざぁ〜こ!ふふふ〜」

 

 かなりピキッと来た。

 俺は仲間と比べて劣っていたことがコンプレックスだから、雑魚扱いされるなんてとても耐えられない。

 自虐はできるが、他人に言われたら本当にもう、許せん。

 

「……今度はそのチカラすら残さず消し炭にしてくれましょうか?今の私とあなたなら、多少そっちが強い程度ですし、戦闘経験の差や術理の相性を考えたら万に一つも負ける気はしませんよ?」

 

「……う。ごめんなさい……雑魚って言ったのは謝るから、殺すのは許して、ね?」

 

 案外殊勝に謝ってきて、なんだか申し訳なくなった。

 魔王のチカラから生まれたとは思えないな……。

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